<社会全体が「政治に無関心な若者」を育ててきた> (幻冬舎plus 特集 生き方3.0 國分功一郎×麻木久仁子スペシャル対談)
國分 「政治がウザい」と思われているという点で言うと、僕たちの運動も、イメージづくりはよかったのかもしれないけど、なぜもうちょっと運動が広がらなかったのかなとは思うんです。意外にも学生の参加が少なかった。小平には大学がたくさんあるのに。
麻木 そうかもねえ。うちの大学生の娘もすごく冷めてるもの。
國分 でしょう?政治運動を見る学生の目って、街で見慣れない人と居合わせた子どもが、親から「シーッ!目を合わせちゃいけません!」って言われるときの目なんですよ。政治というと、無条件に新興宗教みたいなものだと思ってる。僕も大学で教えている身として、ちょっとショックでした。ただ最近は関心を持ってくれる学生が増えました。むしろ投票後に学生の関心が高まった。
麻木 いまごろショックを受けるなんて、大学の先生としては呑気過ぎない?(笑)
國分 すみません(笑)
麻木 今の学生さんが政治に関心を持たないのは、やっぱり、かつての学生運動の反動が大きいのかな。私よりちょっと上の世代の人たちが盛んに学生運動をして挫折した後、社会全体で政治的なものを忌避する空気をつくってきた。
もちろん、当時の一部の過激な人たちの活動は明らかに大衆の心からかけ離れていて、あれが政治ですって言われたら、「政治には関わりたくない」「関わらないほうがいい」と思うのはわかる。でも世の中っていうのはゼロか百かじゃないわけで、「あれは失敗だったから、すべての政治的な活動に若者を近づけるな」っていうのは、間違ってたんだよね。
みんな「なぜ政治に関心を持たないんだ」って若い人たちを非難するけど、学生たちに政治とか大学の自治っていうものを考えさせないようにし、関心を持ったら損するような世の中にしたのは大人だからね。社会全体が、日本人を長い時間かけて骨抜きに……って、私、なんか過激なこと言ってる(笑)。
國分 でも、本当に大学生なんかは「時間をかけて骨抜き」にされた感じですよ。いまは各地の大学で、学外活動というか、講義を受ける以外の活動がどんどん制限されてきている。部室をキャンパスから排除するとか、学生会館を夜十時で閉めちゃうとか。
麻木 そうそう、うちの娘は先生の後輩で早稲田なんだけど、部室が集まっている学生会館は十時に消灯。
國分 看板やチラシなんかも、ものすごく厳しいみたいですよ。いま早稲田へ行くと、大隈銅像の周りに何もないんです。昔は大隈さんの姿も見えないほど、立て看でいっぱいだったのに。
麻木 そう、それに入学式ではサークルの勧誘禁止で、チラシをまいちゃいけないの。勧誘してもいい日は別に決まってるんだって。たしかにキャンパスは”キレイ“でした。
國分 そういうことをしておいて、学生に「最近の若者は元気がない」と言ってもね。
麻木 大学だけじゃなくて、統治する側というのは、人々を飼い慣らそうとするものでしょう。それはもういつの時代も、どこの国でも同じ。
しかも日本では、飼い慣らそうとしていること自体を、若者に気づかせないようにしてきた。だからいきなり若者に「目覚めよ」と言ったって、それは無理。この現状から、みんなが立ち上がる、本当の意味での政治の季節が来るのは、かなり難しいと思います。
3・11以降、参加人数の多いデモや集会があったりして、新しい市民運動の時代が来たって言う人がいるでしょ。私は正直言って、ほんとかなって思ってる。政治的な発言をするということは、さっきも言ったみたいに、党派性を帯びることとイコールなのに、それをないことにして、「党派性のない、全く安全なデモですよ」って言われてもね。政治に関わるリスクをないことにしている運動は、「政治」なんだろうか。
麻木 私がこの本を読んでいいなと思ったのは、「ネット時代の陰」的なものを感じなかったこと。もちろん運動の告知とかにはネットをフルに利用してたわけだけど、根本では、地域のコミュニティの人たちと直接会って話してる感じがとても伝わってきた。
國分 それはすごく嬉しいです。いろいろな人と実際に言葉を交わした経験は本当に貴重で、たとえば僕は運動の目的として、道路建設で失われる雑木林のことばっかり言ってたんです。でもあるとき、自分の家を守るために運動している方の言葉を聞いて、ハッと気づいた。「あ、俺、この人のことを考えてなかった」って。それはツイッターで意見をもらうのとは、やっぱり違うんですよね。そうやって、実際に面と向かって話をした方々の一言一言が心の中に重く堆積していったことは、外に向けて語るための言葉を紡いでいくにあたって大きな支えになりました。
(以上引用;ダイジェスト)
*”この本”=國分功一郎『来るべき民主主義』(幻冬舎新書2013)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます