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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『教育の完全自由化宣言』 天外伺朗(著)

2008年02月25日 | Book
天外伺朗さんの新著『教育の完全自由化宣言』(飛鳥新社)を読みました。

これまでの天外さんの著作と基本メッセージは変わりません。人間の心理は意図的にコントロールできるものではないこと。人それぞれには「内発的動機」(=創造性)が備わっており、それは他者から信頼されまた自己を信頼することで発揮されること。しかし現在の学校教育は、そのような人が持つ創意を殺そうとしているということ。

天外さん自身は教育の現場にいろいろ触れた体験を現在されているようですが、この著作にはそういう経験について詳しく書かれていません。むしろこの本は、エンジニアとしての経験から、人が能力を発揮する環境とはどういうものか、またその条件と比較して学校教育はうまく行っているかを、多少抽象的に議論したものです。

だから、やや観念的な議論になっている印象は否めません。

むしろこの本の長所は、モンテッソーリ、シュタイナー、デューイ、ニイル堀真一郎さんなどの教育学者の議論の要点を紹介してくれているところです。私はこれらの人たちの思想を知らなかったのでとても興味深かった。

どの教育者も、学校を規則で縛るような体制は子供を押し殺してしまうことを述べます。ただ、これは軍隊式の現在の学校体制では避けられないことでしょう。

上の教育者の紹介の中でも興味深かったのは、ダニエル・グリーンバーグがアメリカに開設したサドベリー・バレー・スクール。この学校では「授業」というものが存在しないそうです。

「グリーンバーグのサドベリーでは、大人の計画した授業というのは原則として存在しない。子供が「学びたい」という気持ちになるまで、まったく放っておかれるのだ。学びたいと思った子供は、教師を選んで定期的に授業を開いてくれるように交渉するのだ。人気のない教師は、誰からも声がかからない。
 当然のことながら、五年も六年も、毎日釣りばかりしている子供も出てくる。しかし、完全に子供を信頼してまかしてしまえば、子供は徹底的に遊びつくし、やがて学びに目覚めるときが来る。そうなると、イヤイヤ勉強している子供の何百倍もの効率で知識を吸収していく。
 事実、過去のサドベリーの卒業生は立派な社会人が多いし、大学もほぼ100パーセント第一志望に入学するという」(p.228)。

 「完全に子供の自由に任せてしまうので、読み・書き・足し算・引き算などを覚えない可能性もある。たしかに、四、五歳で読み・書きができるようになる子もいれば、十歳になっても覚えない子も出てくる。
 ところが、不思議なことに、設立以来ひとりの例外もなく、十五歳になると全員が読み書きを完璧に覚えてきた。早く覚えた子と、遅くまで覚えなかった子とで、まったく差はないという。」

これは結構衝撃的な報告ですね。「こどもにじゆうを!」「管理教育反対!」と唱える人は多いでしょう。でも、それを実践することほど怖いことはないと思う。「管理教育反対!」と唱える大人の多くも、どこかで「人間・子供はこうあるべき」という理想を子供に押し付けようとしているし、その点では子供を信頼していないからです。

それに対してサドベリー・スクールでは、もう完全にすべてを子供に任せてしまうわけですから。でもそれで結果的にどの子も立派に社会人として育っているところを見ると、荒唐無稽な考えではないということですね。

とても興味深い報告です。