中川氏の著作、前回は二十世紀の十大ピアニストだった。
今回は出版社が朝日新聞出版に移る。グールドは先の十大ピアニストのひとりなので、内容は一部重なっている。
これまでの中川氏の作品と同じように、複数の登場人物を平行して描きながら時系列でその足跡を追っていく。ここで出てくるのはジェームズ・ディーンとエルビス・プレスリーだ。同じ時期に北米に生まれ、活躍した若者達、という点では共通するが、彼らがどこかでクロスオーバーするというわけでもなく、それによって世相が立体的に浮かび上がるというわけでもないので、何となく登場の必然性が低い気もする。
コンサート記録を淡々と追っていく手法も従来通りだが、グールドは64年頃からコンサートをしなくなる。そのこと自体に特にドラマがあるわけでもないので、なんとなく、尻切れトンボに終わってしまい、あとは後日談というかたちで軽く触れられているだけというのも、どうも消化不良な感じだ。
率直な言い方をすれば、材料と中川氏の文章力は良いのだが、全体のまとまり自体はちょっと弱い感じがしないでもない。もう少し練り込めば、素晴らしい作品になったような気もする。もちろん、読んでいる間はとても楽しかっただけど。
僕が音楽に関心を持った頃、既にグールドは鬼籍に入っていて、現役の時代を知らない。メディアや、様々な人の著作から、全盛期の人々の関心の高さを想像するだけだ。一応、新盤の「ゴルドベルク」は、ずっと前から持っていたが、グールドはそれほど僕の関心を引くピアニストではなかった。
今年はグールドの没後30年だそうで、CDショップには特設コーナーも設けられている。この本を読んだことをきっかけに、いくつかCDを買ってみた。
平均律はCD4枚で1,400円足らず。
フランス組曲は昔から大好きだが、演奏法には多少くせがあるようだ。
昨年販売チャート1位になったそうだが、そんなことは知らなかった。
リヒテルのシューベルト。グールドがリサイタルに行って、聞き入ってしまったという。ので、買ってみたが、たしかにゆっくりしたテンポで雰囲気が違う。個人的にはブレンデルの演奏も好きだけど。
このほか、最初のゴルドベルクも買って、新旧聞き比べてみた。これもいい演奏だ。
こちらはずっと前から持っていた、新盤。考えて見ると、いままであまり真剣に聞いていなかった気がする。
*12/9一部写真の入替と、追加をしました。