
山口真美「視覚世界の謎に迫る」によると三ヶ月の乳児でも①のような図を見て、輪郭線を補って見ることが出来るとしています。
乳児に①を何回も見せてから、円とパックマンの形を見せて選ばせると、円のほうを選ぶそうです。
元の図には円もパックマンも見える形では存在しないのに、円を選んだということは図の中に円の輪郭線を補って見ていると言うのです。
ところで、ここに示されている図は面が示されているだけで線はどこにもありません。
したがって乳児が線を補って見ると言うのは奇妙な説明です。
(線を補って見ると言うのであれば,③のような線画によって実験すべきなのですが、実際に線画を見ると線を補って見るというのは難しいものです。)
パックマンのほうでなく円を選んだのは単純に円のほうが簡単でわかりやすいから①を見たときに円の隠された部分の輪郭を見ていたとは限りません。
もし実験者が円とパックマンでなく、右の図のような正方形と端の欠けた図形を見せれば乳児は正方形のほうを選ぶでしょう。
①を見たときに円と隠された輪郭を見たのだとすれば、正方形と一部が欠けた正方形を見れば、正方形でなく右下の欠けた正方形のほうを選ぶことになります。
乳児が①の図の中に円や正方形を見ることが出来るのは、塗りつぶされている中に輪郭線を見ることが出来るからではないでしょう。
円や正方形は単純な図形なので①の部分と合致する部分を見出すことが容易に出来ます。
ところがパックマンとか右下の欠けた正方形は複雑な形ですから①の部分と合致させるのが難しいのです。
乳児が円や正方形を①のなかに見ることが出来るというのは、隠されている輪郭を補って見ると言うのではなく、部分的な一致だけで同じと見る(汎化)からなのです。
つまり、細かい部分まで一致していると見て同じと判断するのではなく、部分的に一致していれば同じと判断するのです。
部分的に似ていれば同じとみなす能力があるから判断力が育っていくので、もし細かい部分まで一致しなければ同じと見なさないとすれば、世界はすべて違うものばかりでわけがわからなくなります。
②のような図形を見て円が四角形で隠されていると見ることが出来るのは、上の例より遅く生後5ヶ月を越えてからだそうですが、この場合は隠されているほうの図形についての知識あるいは経験が前提となります。
普通に考えれば①の場合は円が正方形と癒着融合していて、切り離して見るのが難しく、②の場合は正方形が円の上に重なって見えるので、円を切り離して見やすいはずです。
それなのに①のほうが三ヶ月児でも円を見るのは、線を補うというようなことをしないで、つまり経験や知識を必要としないで判断できるからでしょう。
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