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言葉の音感で解釈する場合

2007-09-16 23:06:36 | 言葉と意味

 最近、政治家がよく使う言葉に「粛々」という表現があります。
 「粛々と国会審議を進める」とか「法案を粛々と成立させる」といった言い方や「派閥がまとまって粛々とこうどうする」などという言い方もあります。
 「粛々」といえば有名なのは「鞭声粛々夜河を渡る、、、」という頼山陽の漢詩の一節がありますが、この場合の「粛々」はひそかに音を立てないという意味です。
 上杉軍が相手に知られないように河を渡った様子を描写したもので、音がしないようにひそかにということです。
 政治家の言う「粛々」は「国会審議をひそかに進める」とか、「法案をコッソリ成立させる」などとなれば、これはもう議会制度の否定ですから、「静かに目立たないように」という意味で使っているのではないでしょう。
 
 文脈から判断すれば、「整然と着実に」といった意味で使っているらしいのですが、辞書を引いてみるとそれらしき意味は載っていません。
 おそらく「しゅくしゅく」という音感がなんとなく整然と前進するように感じたものと思われます。
 鞭声粛々というとなんとなく鞭の音が「しゅくしゅく」と鳴るように感じてしまって、同時に行軍の様子を表しているように感じたのかもしれません。
 漢字の意味でなく音感で理解したのでしょう。

 「職責にしがみつかない」という表現は漢字の意味からはおかしいのですが、「しょくせき」と発音したとき何となく「せき」の部分が「席」を連想させ、「席にしがみつかない」という発言をしてしまったものと考えられます。
 「職席」という言葉はなかった言葉ですが、誰かがうっかり「職席」というような表現をしてしまうと、熟語としてありそうな感じなので、聞いたほうも何となく受け入れてしまったのではないでしょうか。
 「しょくせき」という音感から「職席」というあるかもしれない意味を感じてしまう人もいるということなのです。

 「檄を飛ばす」という表現にしても、激励する意味で使うのは間違いだとしばしば指摘されているのにもかかわらず、新聞記事などにもいまだによく見られます。
 「檄」は「ふれぶみ」という意味だということですが、「檄」という文字だけを見て意味が分かる人はそう多くありません。
 たいていの人は「げきをとばす」という言葉を聞いて音感から「激をとばす」という意味に解釈するのものと思われます。
 「檄」じたいはもう死語になっていて、「げき」と聞いて「檄」だと思う人は少なく、ほとんどの人は「激」だと思うのですから、そのうち「激を飛ばす」が正式となるでしょう。

 こういうふうに誤解の例を見ると、言葉というものは間違って覚えたりするのはよくあるものだということと同時に、同じ言葉についてすべての人が同じ意味で解釈するということはないということに思い至ります。
 だれでも思い違いがあったり、うろ覚えがあったりするだけでなく、推測や新解釈も加わったりするので、人によって意味解釈が違うということはありうるのです。


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