図のA1を模写しようとして輪郭を描くとA2のようになります。
そのあとA2に陰影をつけるとA3になるのですが、これはA1とはかなり形が違って見えます。
奥行き感のある図形を模写しようとすると、模写したつもりでもかなり違った形になってしまうことが分かります。
それでは原画であるA1を180度回転して逆さまの方角から見たらどうでしょうか。
B1はA1を180度回転させたもので、逆さまの方向から見たものです。
原画では左のほうが明るく見えたのですが、逆の方向から見ると明るく見えるのは右側です。
B1を模写しようとして輪郭を描けばB2のようになるのですが、これに陰影をつけるとB3になります。
ここでB3をB1と比べて見るとやはり形が違って見えます。
原画を逆さまにして模写をすれば見えたとおりに描けるというわけではないのです。
A1は実は正方形なのですが、陰影があるために左辺のほうが右辺より長く見えるのですが、見えたとおりに描こうとして輪郭を描くと、輪郭は正方形ではなくなります。
見かけがゆがんでいるので、見かけどおりに輪郭を作ってこれに陰影をつけるとさらにゆがんで見えてしまうのです。
B.エドワーズ「脳の右側で描け」ではゆがんで見えるのは左脳が働くせいなので、原画を逆さまにしてみれば右脳が邪魔をされず働き、ありのままに描けるというのですが、逆さまにしてもB1は正方形に見えず、ゆがんだ模写しか出来ません。
C1は正方形に見えるのですが、陰影を取り去るとC2のようになり、実は正方形ではないのだということが分かります。
陰影がつけられて奥行き感が与えられると、実際の輪郭と見かけの輪郭が違ってくるのですが、これは左脳で見るからそう見えるということではありません。
従って、原画を逆さにしたらば解消されるというものではありません。
グレゴリーという心理学者は錯視図の多くは三次元的に見えるからだとしていますが、三次元的なものを平面に描こうとすると錯視が生ずることを直観したのでしょう。
立体的なものを平面に描くというのは難しいもので、忠実に描いたつもりでも輪郭線だけを見ると実感とは違ったりします。
そこで三次元的実感を、紙という平面の上に表現しようとすれば、錯視現象を利用せざるを得ない場合がでてきます。
たとえば奥行き感によって生ずる錯視を利用した絵を模写しようとするとき、原画に忠実に描いたつもりでもかけ離れた結果となってしまうのです。
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