(原題:CROSSING OVER)
【2009年・アメリカ】試写で鑑賞(★★★★☆)
ハリソン・フォードが長年のキャリアの中で、初めてメジャースタジオ以外の作品に出演。
不法入国、アメリカ永住権=グリーンカードなど、アメリカの移民事情を題材にしたヒューマンドラマ。
マックス・ブローガン(ハリソン・フォード)は移民局=I.C.E.に所属するベテラン捜査官。不法滞在者の取締りが任務だが、正義感が強く良心的なために、彼らの立場に同情的な姿勢を見せている。ある日繊維工場で働く不法滞在者の一斉取り締まりを行っている最中、メキシコ出身の不法滞在者ミレヤ・サンチェス(アリシー・ブラガ)から預けている子供ホアンを何とかして欲しいと頼まれる。しばらく悩んだ末、マックスはミレヤの子供が預けられている場所へ赴きホアンを保護する事に。しかし、ミレヤはすでにメキシコへ強制帰国させられており、マックスはホアンを連れてミレヤの実家を訪ねる。だがミレヤは再びアメリカへ密入国した後で、マックスは子供を曾祖父に渡し、ミレヤを探し出す事を約束する。そんなある日、相棒である移民局捜査官ハミード・バラエリ(クリフ・カーティス)の妹ザーラ・バラエリ(メロディ・カザエ)が銃殺されるという事件が起こる。彼女の遺品の中に偽装グリーンカードを発見したマックスは、独自に調査を開始する…。
現在アメリカには不法滞在者が1100万人以上いると言われている。
主人公マックスが所属するI.C.E.=移民・関税執行局は、2003年にアメリカ連邦政府の全面的再編に伴い設立された新しい組織。
もちろんこの契機には、2001年に起きた同時多発テロが大きく関係している。
つまり不法滞在者=テロリスト、不法滞在者を逮捕し国外に追放する事は、アメリカを守る事として捉えられているんですね。
この映画の中でも似たようなエピソードが語られて行きます。
ハリソン・フォードが主演のヒューマンドラマかと思っていたら、彼の物語は映画全体を貫くガイドラインのような役割。
実際は、国境を越えてやって来た様々な人物たちの事情と、それぞれの眼から見たロサンゼルスを描いた群像劇です。
マックスが関わる事になるのは、メキシコ出身の不法移民ミレヤ。
メキシコに隣接するカルフォニア州では、不法滞在者の6割がメキシコ人である。
息子を捜して再び不法入国しようとしたミレアは…?
そしてもうひとつマックスが関わっていくのが、相棒として働くイラン系アメリカ人ハミードとその家族。
ハミードや弟のファリード(メリック・タドロス)、妹のザーラは市民権を持っているが、父サンジャール(マーシャル・マネッシュ)だけは、祖国イランへの複雑な想いを抱え、市民権を得て来なかった。
しかし、一族の今後や自分の年齢を考え、アメリカ人になる決意をする。
オーストラリア人のクレア・シェパード(アリス・イヴ)は、女優として成功を収めるためにアメリカにやって来たが、役を得るためには永住権=グリーンカードが必要である。
違法就労で強制退去させられると、以後10年間は再入国ができなくなる。
そこでクレアは何とかして偽装グリーンカードを入手しようとするが、そんな折り移民判定官のコール・フランケル(レイ・リオッタ)に出会う…。
コリアンタウンでクリーニング店を営むヨン一家。
長男である高校生のヨン・キム(ジャスティン・チョン)は18歳になり、市民権取得式典でアメリカ人になる日を迎えるばかりとなっていた。
しかし、アメリカ人になっても成功する訳はないと、帰化に対して懐疑的な気持ちを持っている。
仲間に誘われて、度胸試しに強盗計画に加担してしまうが…。
バングラデシュ出身のタズリマ・ジャハンギル(サマー・ビシル)は15歳の高校生。
授業中に9.11の同時多発テロを肯定するような発言をした事から、FBIに要注意人物として目を付けられてしまう。
移民弁護士のデニス・フランケル(アシュレイ・ジャド)は、ジャハンギル家に3つの選択を迫る。
・家族全員で自主退去を申し出てバングラデシュに帰国
・家族全員でアメリカに残って裁判で戦う。
ただし、法定で決着がつくまでタズリマは少年院送り。
勝つ見込みは一切無く、結局は強制退去させられる。
・片親がタズリマとアメリカを去り、もう片親がタズリマの妹弟とアメリカに残る。
ただし、アメリカに残る片親は、タズリマが退去するまで会う事ができない。
ジャハンギル家が選んだ選択肢は…?
このケースで注目したいのは、タズリマの妹と弟は、移住後に生まれているのでアメリカ国籍があるという点。
アメリカは生地主義を採用しているので、例え不法移民であろうとアメリカで生まれたらアメリカ国籍が与えられるんですね。
強制退去による親子の断絶というと、日本でもちょっと前に「フィリピン人の親子が強制退去で離ればなれになる」というニュースがあったばかりですよね。
南アフリカ出身のユダヤ系移民ギャビン・コセフ(ジム・スタージェス)はミュージシャンの卵であるが、永住権を獲得するために"職業移民"という制度に目を付ける。
もともとアメリカは建国以来、才能ある移民の受け付けを基本姿勢にしており、ギャビンが注目したのは、その中の"特殊移民"の項目。
これは、司祭や僧侶など、宗教関係者に適用されるケース。
ギャビンはユダヤ教の教育指導者=ラビのフリをして、永住権審査の面接に挑んでいく…。
移民弁護士のデニス・フランケルは、養護施設であるイーストリッジ少年施設に2年間保護されている7歳の孤児アリータの担当を受け持っている。
アニータは3歳の時に母親と一緒にアメリカへやってきたが、母は病気で瀕死状態。
このままではナイジェリアに強制送還されることになるが、アニータは母国語をすでに忘れてしまっている。
デニスは移民判定官を務める夫のコールに、アニータを養女として引き取るよう相談するが…。
移民判定官のコール・フランケルは、観光ビザで入国し不法に働くオーストラリア人のクレアに出会う。
妻のデニスとうまくいっていないコールは、クレアにグリーンカードの審査を通す事を条件に、クレアの身体を弄ぶようになる…。
妙にハマってしまうレイ・リオッタの鬼畜っぷり。
ま、それなりの結末を迎えてしまうんですけどね…(笑)。
そんなこんなで、それぞれの人物たちが微妙にリンクしながら、市民権取得式典で幕を閉じていく本作。
決して全員がハッピーエンドを迎える訳ではないけれど、ユダヤ系移民ギャビン・コセフの審査会場でのエピソードなんかは好きだな。
追伸1
それにしても、この邦題って…どうなの?
追伸2
アメリカ版ポスターのハリソン・フォードの目が、めっちゃ怖いんですけど…(笑)。
監督・脚本・製作はウェイン・クラマー。
2009年9月19日公開
公式HP:
正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官
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