ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

〔身辺雑話〕右腕の怪 鉛筆も使えず、箸も持てず

2006年07月07日 | 身辺雑話
■■ 初日 7月1日

  深夜1時。右腕の異常感覚で目が覚めた。
飲み会があって、22時頃帰ってきてゴロリと転寝してたんだと思い出す。
だが、おかしい。指先がしびれている、試しに鉛筆を持つがもてない。グー、パー、チョキもできない。
オッオッ、ついにきた。脳梗塞かと慌てた。 二階にいる女房(あーちゃん)に「ちょっと来てくれ」と大声を出す。
それからが騒ぎとなって、近くの息子を呼び出す。娘にも電話をする。 車でやってきた息子もこの様子と症状に驚き、救急車の手配もという段取りになった。
そのため救急医療センターに症状を相談する。
電話をかけている息子に症状の様子などを補足して伝えているうちに少し気持ちが落ち着いてきた。
たしかに右腕は利かない、特に掌はユウレイの手のようにだらりと落ちて、反りがまったくできない。
しかし、しゃべりっている感じに、ふだんとの違和感はない。
右腕なら左脳と通じているはず。であれば左脳は言語脳なのだから喋りはもつれるのがフツウだ。
大声だが、もつれてはいない。これは脳梗塞と違うのかとも考える一方で素人判断は危険ダゾとの声も内にあって自問自答する。  
息子とセンター間の電話でも同じような結論となり蓮田に整形外科を含めた救急総合病院があることがわかる。
時計は2:00を回っている。
診てくれるということが判り3人で車ででかける。

  眼光鋭い整形外科の医者が待っていてすぐ診察してくれた。
診断名は橈骨(トウコツ)神経麻痺とのこと。
橈骨は前腕の親指側にある長骨なのだが、この部分が腕マクラなど転寝で強く圧迫されると神経もまいってしまって麻痺となる。上は上腕骨・尺骨に、下は腕骨につながっているので、新たな神経が伸びてくるまではこの症状は続くのだという。
 「いつごろまで?」
 「神経は1日1㍉くらい成長する。10センチくらいの成長期間が必要」
 「リハビリまたは運動での回復は?」
 「直接は関係ない。神経網の成長を待って回復する。けっこう時間がかかるよ」
 「気をつけることは?」
 「右腕をかばっている内、左腕が麻痺したらおおごとだ。気をつけるように。ビタミンB12は神経の成長を活性化させるから極力摂るように」
 「加齢がなせるわざか?」
 「関係ない。酔って路上で寝込むときによくあるケースだ。若い人でもよくやってくる。男女別も関係ない。腕を圧迫すればだれでもなる」
 会計を済ませた帰り路、息子が言う
 「脳梗塞でなくてよかった。でも、予行練習にはなった」
 もう窓外は明るくなってきている。
右腕の指先はぎごちない動きをするだけで意志がまったく伝わらない。

■■2日目

 同様な症状が続く。
字も書けないから左手での鏡文字となる。
箸もダメ。まるで力が入らない。
シャツのボタンでイライラとする。できない。Mボタンも同様で、ソマツなものを取り出すのに苦労する。
自転車が我が家の乗用車代わりなのだが乗る気も起らないし、バランスもとれないだろうとあきらめる。
思う通りにならない右腕を見ていると、みじめで情けない。同期入社組で脳梗塞リハビリをしている友の顔が浮かぶ。
 ただ1点、運動に関することはサウスポーでやっていたから箸も左手を使えばまったくダメにもならず、パソコンも左手だけでは打てる。   ウォーキングを兼ねてテニスクラブにでかけオーナーに事情を話し休部扱いを了解してもらう。
目を丸くして驚いていた。

■■ 3日目
 朝食後、食品分析本からビタミンB12を含んでいる食べ物はなんだということを調べる。
植物にはなくカツオ、アサリ、イワシの味缶詰などに多いことがわかる。
よしっ、医食同源でゆくぞ。
 歯医者の予約日だったので診察。親しい医者なので、雑談で橈骨神経麻痺のことを話すと、神経回復にはやはりB12が必要だとのこと。筋肉が衰えるから、かたまらないようにしないとまずいんではと示唆を受ける。
これは、どの程度の筋肉運動をすると負荷になるかが問題だろうが、指先は極力動かすようにしている。
ひとりジャンケンも少しはできるようになった。
だらりと下垂した手首は意志が伝わらず変らないが・・・・。
 針灸が有効にも思われたので庭の枇巴の大葉をとってきて温灸の用意をする。
若いときビワの葉温灸は大病術後のあーちゃん(女房)によくやっていたので、ツボも含め勝手は知っている。
 肩井、肩隅、曲地、手三里、合谷、魚腹とやって脚の三里にも温灸を施す。
親指と人差し指の間の水かき部分の感覚が特に弱くしびれもある。息子からあーちゃんに電話があり「オヤジ あまり落ち込むなよ」との伝言があったとのこと。
昼間、姿を見せた娘のほうは「左手の箸使いが不自然ではないよ へえーっ」とつまらないことに感心している。
 こちらはやっとこさっとこだというのに。

■■ 4日目
 朝、昨日同様の温灸を施す。いい。
握力こそ弱いが、ひとりジャンケンはスムーズとなっている。
朝の老犬との散歩も手綱を右手に変えても大丈夫だ。
 こういう力には支障がない。
指先マッサージをして、カツオの刺身、イワシ缶詰も併用中。
だらり手が少し反ってきた意識がある。
自転車を試してみたら案ずるより生むが易し。乗れた!。
ブレーキも左手で間に合う。
 よかった、ひとつのハードルは越えた。
 畑の除草はもともと左手で鎌を使っていたから、疲れるがなんとかなる。
ただ包丁は右手の「猫の手」ができないし、両手を扱う微妙な感覚への不安があるので遠慮する。
 温灸はかなり利くようだ。
サプリを求めてS薬局に行くが、出してくるのは医薬品ばかりで通じない。
イヤになって自転車で帰ってくる。
太めのサインペンであれば右手でキーワード的な文字は書けるがすぐ疲れて続かない。
パソコンもブラインドタッチはムリ。
右手指先が曲がらず突っ張って打つ感じで打点が3度続くとだるく、イヤになる。
一進一退が続く。

■■ 5日目
 右肩のすぐ近くの腕筋肉が、いまでもさわるだけで痛みがある。
寝たとき座椅子のレバーがここにあたっていたのかもしれない。
 握力はまるでないが、ひとりジャンケンは更にできるようになった。
温灸もマッサージも食養もやる気も自然治癒力の促進剤としてはみな有効なのだ。
 右手の箸使いも少しはできるようになった。
ただ手元があやふやで自らの手でもまるで頼り気がない。
だれやらの演歌があったがあの一節を思い出す。「思い出に降る雨もある 恋に濡れゆく傘もあろ」からはじまる歌で3番に「浮いて過ごした夜の明け方は 箸を持つ手ぇがぁ重くぅなぁる」というのがそれだ。
 こちらの箸の重さは無粋だ。
 固まったシニア顔で黙々とお新香をつまんでいる。
 右手で読後の備忘録メモがとれないのが辛い。
 橈骨神経麻痺は「腕枕症候群」「ハネムーン症候群」「サタデーナイト症候群」などと呼ばれているらしい。
いづれも腕の圧迫によるケースからだがジッタンのは単独「腕枕症候群」。
「ハネムーン症候群」はその夜の二人のなにかが済んだあとで、新妻に腕を貸して眠って目覚めると「オオッ!これはなんだ」ということか。「サタデーナイト症候群」は明日は日曜と深酒をして腕枕。酔っているから圧迫を防ぐ体位変換などができなくての事と想像できる。
 末梢神経障害や麻痺だから回復にも個人差、年齢差があるだろう。 神経回復3ヶ月と宣告され、右手が使えない不自由な生活はまるで重営倉ではないかと覚悟していた点から見ればまだ救われ、回復はかなり早いと考える。
左手はほかの人よりはかなり使える。
後ろ向きに考えてもいいことはひとつもない。
やる気とリハビリだ。

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