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『中国農民調査』 陳 桂棣・春桃【著】・納村 公子・椙田 雅美【訳】

2007年06月18日 | ノンフィクション


中国農民調査.jpg


中国で、千人以上の子供が奴隷にされていたというショッキングなニュースが流れました。 相互リンクの ysbeeさんのブログに詳しく出ています。よく指摘されるように、中国の農村と都市部の格差の問題は暴発寸前というのが現実的なものとして感じられました。

東アジア「反日」トライアングル』 の中で、古田博司氏は、日本がポスト近代になっているのだが、韓国は近代化のさなかで、中国はその入り口、北朝鮮に至っては中世であると指摘していました。

古田氏は過去の日本と、現在の中国、韓国、北朝鮮の類似点を指摘し、大変分かりやすい説明をしていましたが、今回の奴隷、人身売買事件は、その中国に対する認識すらまだ甘いのではないという中国の前近代ぶり、農村問題の深刻さを証明しました。

そこで、中国の農村の実態を調べ上げた、告発の書を紹介します。

本書の著者はご夫婦で作家です。中国の人口の多数を占める農民の実態を世に問うことを目的に、3年間をかけて徹底的に農村を歩き、さまざまな事件や役人の横暴、腐敗ぶりを告発したものです。すべて実名でのルポになっています。

もともとはネットでダイジェスト版を公表し、やがて出版、発売当初はあっという間に中国全土で話題になったそうで、多くの中国の代表的なテレビ番組に出演依頼が殺到したほどだそうです。

実際、本書は国際ルポルタージュ文学賞である「ユリシーズ賞」まで受賞しています。あまり知名度は高くないようですが、以前ご紹介し、謎の死をとげたアンナ・ポリトコフスカヤ女史(『プーチニズム』)も受賞しているところからも、価値ある賞だと思います。

本書は、ネットを中心に一種の社会現象といえるようなところまで盛り上がったのですが、ある日突然、発売禁止処分が下ります。一夜にしてまるで本書は最初から存在しなかったかのような扱いを受けることになります。ただし、ものすごい数の海賊版が出回っているようです。


目次は以下のとおりです。


第1章 事件(路営村、丁作明リンチ死事件;悪人が治める村;税金取り立て抵抗事件;直訴活動の長い道のり)

第2章
 何が問題なのか(不公平な天秤;地方役人、虚偽の実態さまざま)

第3章
 改革の長い道のり(出口を求めて;安徽の大地に大任を授ける;そして現実は;道を求めて)


読んでいても、ちょっと信じがたいような蛮行、リンチや略奪が公権力によってもたらされます。農民が “貧困にあえぐ” というような表現だけでは伝わらない地獄のような生活が丹念に綴られ、どういう性格のどういう役人がこういう意図でやっているというところまで書かれています。一つ一つの事件の全貌がつかめます。


すべて実名ですから、著者にとっては、仕返しはとてもおそろしいはずですが、アンナポリトコフスカヤのように、本書でもまったくひるんでいません。自分の子供を預けてまで執筆に取り組んだそうです。名誉毀損で裁判で訴えられているようですが…。


中国の農村の問題は、『ワイルド・スワン』でも容易に想像できますし、以前ご紹介した『餓鬼』には、その悲惨な様子がこれでもかというくらい延々と描かれています。本書はそういった事件の背景まで詳しく調べているのが特徴です。


ただ、あとがきで筆者も述べていますが、前国家主席である江沢民の時代より、現在の胡錦濤、温家宝体制の方がずっとましなようで、三農問題(農業・農村・農民)に前向きに取り組んでいるようです。


衝撃の一冊です。かなり分量がありますが(二段組で約300ページ)、興味ある方にはお薦めします。


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