▼山の伝説ひとり画ってん「四国愛媛県・石鎚山の天狗は役行者の 化身?」

 【本文】  四国の石鎚山(いしづちさん)にも天狗伝説があるといいます。

天狗の名前は法起坊(ほうきぼう)。石鎚山は、石土山、石槌(木

偏)山、石鉄山とも書き、石鎚神社のある弥山、その南東にある天

狗岳(最高峰・1982m)、またその先の南尖峰があります。

 

 法起坊(ほうきぼう)天狗はもちろん最高峰の天狗岳にすんでい

ることになっています。石鎚山は『古事記』(上つ巻)「…かれ、生

みたまへる神の名は、大事忍男(おほことおしを)の神。次ぎに石

土毘古(いはつちびこ)の神を生み…」とある石土毘古(いわづち

びこ)の神をまつった山。この神は岩や土をあらわす男神だという。

 

 この山も役ノ行者が開山したといいます。大昔、役ノ行者がこの

山に蔵王権現をまつってから修験の山と仰がれましたが、ふつう人

には登れる山ではなかったといいます。その後、役ノ行者の亜流と

される石仙道人が苦労して登山道を開き、登山者のため中腹に成就

社(じょうじゅしゃ・もとは常住舎といい、山に籠もるための宿坊

だったらしいという)を建立したといいます。

 

 中世以後は、神仏習合修験の山として本尊を石鎚蔵王権現といっ

たそうです。ただ『伊予温故録』という本に「……役ノ行者の開き

たるは瓶ヶ森(かめがもり・1896m)の方なり」とあり、古くは

石鎚山の東北東にある瓶ヶ森(かめがもり)を石土山(石鎚山)と

呼び、石土神社もここにあったものを、中世現在の場所に遷座した

ものといいます。

 

 しかし、いずれにしても石鎚山は役ノ行者に関わる山に違いあり

ません。『梁塵秘抄』という本にも「聖の住所は何処何処ぞ、大峰

葛城石の槌」と詠われているほどです。成就社を創立した石仙のあ

とに上仙、光正などの大行者が次々とあらわれ、山中に横峰寺、前

神寺などを創建していきました。

 

 この山には不思議な話がいくつか残っています。石鎚山の北麓・

愛媛県西条市中野甲というところに伊曽乃(いその)神社がありま

す。この神社の神は女神で石鎚の神の妻だったそうです。ある時、

石鎚の神が山に登ろうとしましたが、この山は女人禁制でした。妻

の伊曽乃の神は登ることができません。

 

 ウロウロしていた時、すでに山頂の登っていた石鎚神が大石を投

げ、転がった石が止まったところに住むようにといいました。そこ

で伊曽乃の神は、そこに神社を建てて暮らすようになったといいま

す。伊曽乃神社からは石鎚山がよく望め、社前には夫の石鎚の神が

投げたという大石があるそうです。しかし随分と離れた場所ですね

え。

 

 また、平安初期822年(弘仁13)ごろ成立した薬師寺の僧景戒

著『日本霊異記・にほんりょういき』という本の「下巻・第三十九」

に「……又、伊与国神野郡(いよのくにかみののこほり)の郷(さ

と)に山有り。名をば石槌山(いはづちやま)と号(い)ふ。是(こ)

れ即(すなは)ち、彼(そ)の山に有(いま)す石槌(いはづち・

槌は木偏)の神のみ名なり。其(そ)の山高く崒(さが)しくして、

凡夫(ただびと)は登り至ること得ず。但(ただ)し浄行の人のみ、

登り至りて、居住(とどま)れり。

 

 ……。彼(そ)の山に浄行の禅師有りて修行しき。其の名は寂仙

(じゃくせん)菩薩と為(い)へり。……。帝姫(ていき)の天皇

(すめらみこと・孝謙天皇)の御世の九年(758年)の宝字の二年

の歳(ほし)の戊戌(つちのえいぬ)に次(やど)れる年に、寂仙

禅師、命終の日に臨みて、録文(ろくもん)を留(とど)め、弟子

に授け告げて言(いは)はく、「我が命終より以後(のち)、二十八

年の間を歴(へ)て、国王のみ子に生まれて、名を神野と為(い)

はむ。是(ここ)を以(も)て当に知れ。我寂仙なることを云々(し

かしか)」といふ。

 

 然して二十八年歴て、……則(すなは)ち山部の天皇の皇子(み

こ)に生まれ、其のみ名を神野の親王と為(な)す。……。」とあ

ります。要するに、伊予の国神野郡に石槌山(木偏)という山があ

った。これはその山におわす石槌の神の名である。その山は高く険

しく、心身を清めて修行するものだけが登り住めた。孝謙天皇の時

代、この山に寂仙という僧が籠もって修行し、菩薩とあがめられて

いた。

 

 ところで天平宝字2年(758)に寂仙は臨終に及んで、文書を書

き記し、弟子に与えて「わたしは28年後、国王の子に生まれ変わ

り、名前を神野と名づけられるだろう」と告げた。それから28年

後、延暦5年(786年)に、桓武(かんむ)天皇の皇子に生まれ、

その名を神野親王(のちの嵯峨天皇)と名づけられたというのです。

 

 さらに元慶(がんぎょう)3年(879年・平安前期)の民間の巷

談、俗説、訛言、古老の伝誦(しょう)、怪異などを採録した「文

徳実録(もんとくじつろく)」(菅原是善・都良香ら)にも同じよう

な話が載っています。

 

 「伊予国神野郡。昔有高僧名灼然。称為聖人。有弟子名上仙。住

止山頂。精進練行。過於灼然。諸鬼神等(くさかんむりの外字を使

用)。皆随(したがう)頥指(いし)。上仙甞(嘗の異体字)従容語

所親檀越云。我本在人間。有同天子之尊。多受快楽。尓(じ・爾の

俗字)時作是一念。我当来生得作天子。

 

 我今出家。常治禅病。雖遣餘習。気分猶残。我如為天子。必以郡

名。為名字。其年上仙命終。先是。郡下橘里有孤独姥。号橘嫗。傾

尽家産。供養上仙。上仙化去之後。嫗得審問。泣涕(てい)横流云。

吾與和尚久為檀越。願在来世。倶會一處。淂(とく)相親近。俄而

嫗亦命終。其後未幾。

 

 天皇誕生。有乳母姓神野。先朝之制。毎皇子生。以乳母姓。為之

名焉。故以神野為天皇諱(き・いなむ)。後以郡名同天皇諱(き・

いなむ)。改名新居(にいはり)。后時夫人。号橘夫人。所謂天皇之

前身上仙是也。橘嫗之後身夫人是也。……」とあります。

 

 つまり「昔、伊予国の神野郡に灼然(しゃくねん)という偉い坊

さんがいた。弟子に上仙(日本霊異記の寂仙のことか?)という弟

子がいて石鎚の山上に住み、精進練行の結果、灼然を超え、山のも

ろもろの鬼神たちを自由に使役できた。(中略)その上仙が亡くな

る際、自分が天皇に生まれ変わるであろうと予言した。

 

 また、この上仙に深く帰依していた橘姫が、来世は上仙とともに

過ごしたいといいながら亡くなった。神野天皇とその后橘夫人は、

ふたりの生まれ変わりである。親王の名は、乳母が伊予国神野郡の

出身で「神野」と呼ばれた女性であったことに由来しているといい、

以後、郡名を親王名をはばかって、新居(にい)郡と改めた」とい

うのです。両方とも天皇の子に生まれ変わることを予言したという

のです。不思議な話というか、不思議な本が残っているものです。

 

 さて石鎚山の天狗について「石鎚山勤行法則」というものには「南

無眷属(けんぞく)宝(法)起坊、大天狗、小天狗、十二八天狗、

有摩那(うまな)天狗、数万騎天狗にに至るまでうんぬん」とある

ように、天狗岳には大天狗法起坊と眷属の小天狗たちがウジャウジ

ャいることになっています。

 

 それをとりまとめるのが法起坊大天狗だという。ところでここを

開山した役ノ行者は、江戸時代後期の寛政11年(1799年)に、天

皇から神変大菩薩(しんぺんだいぼさつ)というおくり名を貰うま

では、法起菩薩とか法起大菩薩と呼ばれていました。法起とは役ノ

行者の法号だったのです。そんなことから石鎚山法起坊は、役ノ行

者の化身ではないかとか、先の石仙聖人、光定道人だという説もあ

ります。

 

 しかし、天狗研究家は石仙、上仙が生きた時代が嘉祥3年~天安

2年(850~858年)であることや、『伊予温故録』や「前神寺縁

起」、その他文献を考察した結果、いくら法起坊天狗が法名を継い

でいるからといって、役ノ行者などこの山の開拓者の化身とは考え

られず、結局は大昔から天狗岳に生まれていた地主神を後の世に祭

り上げたものだろうとしています。石鎚山はいまは、お山開きの7

月1日のみ女人禁制になっているそうです。

……【さらに本文と出典】は筆者のページで↓

http://toki.moo.jp/merumaga/temg/temg10.html

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