リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

高齢者支援から見えてくる地域の課題

2011年08月24日 | Weblog
病院の隣町にできた高齢者用の住宅に小規模多機能事業所が併設された施設のスタッフと利用者から相談があった。

認知症やひとり暮らしを支える在宅ケア「小規模多機能」

その施設は県道沿いにあり車では便利な場所なのだが、徒歩圏内には商店はなく街場からはやや離れたところにある。
しかしニーズは多いようで周辺の市町村から認知症や身体障害のある高齢者が次々に入居され、あっという間に埋まった。

その中で比較的若くして認知症の進行ため一人暮らしが困難となり、家族との同居も困難で少し離れた街から家を引き払ってきて入居された方がいた。
最初は気に入っていたようなのだが、他の入居者に比べて認知症の程度がかるく、それまで気ままに暮らしていたため、だんだんそこに居るのは嫌だという気持ちがつよくなり不満がふえているとのことだった。
人間関係は悪くはないのだが、施設から出られず閉じ込められたような気分になるのだと言う。
小さな畑をつついたり、近所へ散歩したり、いろいろ施設の中のことも手伝ってもらったり、スタッフと出かけたりもしているようなのだが、商店などは遠く、買い物にも気軽にはいけない。

日中の活動場所であるディケア(隣に併設)は小規模であり、作業療法士などのセラピストの配置は義務づけられておらず、スタッフも手探りのためディケアでのアクティビティが少なく生活がマンネリ化してしまうのだという。
かといって家族もスタッフも忙しく、その方だけの希望に添って常につきそって外出できるほどの余裕はない。

小規模多機能は包括払いであるためそれで介護保険サービスの限度額はほとんど使ってしまうため他のディケア(通所リハビリ)なども使えない。

だが、いい点もある。
スタッフが子連れ出勤可ということで子供がボランティアでウロチョロしていたり、友人やお孫さんが泊まりにこれたり、訪問販売で地域のパン屋さんが来たり、といったアットホームなところは大規模な施設とはまた違ったいい雰囲気をつくっている。
これがより発展すると学童や幼児、障害者などもいられる富山方式の宅幼老所、あるいは千葉県の共生型ディサービスということになるのだろう。
近くの養護学校の生徒さんなどが学校帰りにタイムケアとして使えたりすると、それぞれに役割や楽しみを見いだせると思う。
今の長野県にはそのような施策はないのだろうか。

工夫すれば、なんとか一人で公共交通機関で出かけられる程度の力はあるかとも思われたので、どこか出かけられる場所をということで医療保険で使える病院の精神科作業療法(2時間弱)あるいは精神科ショートケア(3時間)の利用提案した。

バスは近くから病院まででているが本数が少なく、安曇野市のデマンド交通(あずみん)は市町村をまたいで使えず、タクシーは便利だがあっという間に何千円にもなってしまいやや高い。池田町の有償ボランティアサービス、「サポートてるてる」、JAあずみの有償ボランティアサービス「あんしん」などは付き添いはできても移送には使えないようである。社協の移送サービスは数日前までに予約が必要で使用目的が限られるなど、やや使い勝手が悪い。民間の適当なスペシャル・トランスポート・サービス(STS)は当該地域には見当たらない。
自ら運転をしない人の気軽な移動支援というのはニーズがあるが、どれも一長一短である。
個人的にはタクシードライバーに介護や障害に対する知識と技術を身につけてもらい、ハンディキャップを持った人や高齢者で免許を返納した人が利用する場合に行政から補助をつけるの(手帳で1割引やタクシー券の補助はあるが、いっそ半額にするなど。)が現実的と思われる・・・。もっといえば本当は徒歩圏内に商店や病院がある街場に住みかえるのがいいと思う。

その方の場合は、たまたま近くのバス停から病院に往復するのにいい時間のバスがあったので、バスをつかうのがいいのではないかということになった。


また迷ったり困った時に上手くSOSを出せるかやや不安なため、

(1) クリアケースに連絡先を書いて首からぶら下げておく
(2) ココセコムなどのGPS機能付きのキッズ携帯や端末を外出時にはもってもらっておく。(→こちら)       
(3) バスやタクシーの運転手や近所の人に知っていてもらう。

などのことを提案した。

また逆に病院から作業療法士や音楽療法士などのセラピストが定期的に訪問することもできれば良いと思った。

安曇総合病院には音楽療法士(国家資格ではないが、リハビリ科、ディケア所属)がおり、プロの生演奏、生声での歌や音楽のプログラムをやっている。
集まって歌を歌うと病棟でもかなりすすんだ認知状の方も目が蘇り、本当に楽しみにしている方も多い。

地域のディサービスなどの施設からも依頼をうけ有償で派遣もおこなっており好評のようだ。
本当は、こういったことに県や市町村の補助金がつけば良いと思う。
(南佐久郡の市町村は介護保険ができる以前から南部合同事業としてリハビリのセラピストの地域への派遣に関して予算があった。佐久病院が委託を受けて施設や個人宅にセラピストを派遣していた。介護保険以後も継続され、こぼれ落ちたニーズを拾っていた。)

池田町でも社会福祉協議会が来年2月のオープンを目指して小規模多機能事業所を計画している。(→こちら

役場に隣接した街の中にあり、総合病院で精神科病床もあるという全国にも珍しい病院である。
公衆浴場のある福祉センターやスーパー、図書館、役場、精神科ディケアなども徒歩圏内にある。

このエリアに高齢者、障がい者の住居や小規模多機能事業所などをたくさんつくり、公共交通機関もより使いやすくして、街全体が福祉の街になっていけば高齢化がますます進む今後、本当に多くの人が助かると思う。

安曇総合病院の中川真一院長は、「福祉の街ベーテル」を目指すと宣言をし、病院旅行の一環として昨年はドイツにまで視察にいった。
そして昨年の職員全体の集まった忘年会で視察の様子をスライドを見せて紹介し、障害者の働く場、暮らす場をつくっていくのだと語っていた。

だから今年に入って院長が急に補助金を得て急性期医療の病院を目指すと言い出し、がん放射線治療機器の導入やICUの設置の計画を打ち出して来たのには本当に唐突に感じた。
がん診療連携拠点病院を目指したり、ICUや放射線治療、心血管インターベンションもあっても悪くはないだろうが赤字をだしつつムリしてこの場所でやることが必要なのだろうか。また現実問題として、やりたい人、やれる人がいるのだろうか?

病院の恥なので表にはなかなかでてこないが、過剰投資で経営が成り立たなくなった病院のことはよく聞く。
安曇総合病院は急性期はそこそこ丁寧にやりつつも高度医療が必要な患者さんは隣接する医療圏である安曇野市や松本市の病院との連携を強化してお願いし、市立大町総合病院や安曇野赤十字病院を得意分野でサポートし、地域のニーズである緩和ケアやリハビリテーション、精神医療、在宅医療などの支える医療に力をいれたほうがベターなのではないかと思う。

もしそれをまじめにやっていても病院経営がなりたたずに赤字になるようなら、それこそ制度がおかしいのであって、それを変えていくことこにこそ政治家にはがんばってもらいたいと思うのである。

(文責:樋端)

奇跡の医療・福祉の町ベーテル―心の豊かさを求めて
橋本孝
西村書店





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