リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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サイコビジネス魑魅魍魎~こころの病は脳の傷?~

2011年05月29日 | Weblog
根治が難しく、しかもすぐには死なない病気の周辺には悪徳なビジネスが跋扈するのが世の常のようだ。

有名になったものの一例としてアトピービジネスがある。

確かにアトピー性皮膚炎はアトピー(奇妙な)という言葉の通り、一筋縄ではいかない病気ではあるが、生活習慣に気をつけ、部位と状態に応じてステロイドと免疫抑制剤の軟膏と保湿剤を使う標準的な治療を真面目にやればかなりコントロールできる・・・・。
それが、かつて某報道番組でステロイド外用薬が絶対使ってはいけない悪魔であるかの薬のように報道され、それに乗じて各種の高額な民間療法が跋扈した。
まさにつくられた難病であった。

私も幼少時からアトピー性皮膚炎でありかき壊しで布団に血がつくような有様だったから、母はこの布団がいいとかこのクリームをぬればいいとか高価なアイテムをつぎつぎと買ってきたものだ・・。

アトピー(ビジネス)界には有名な聖地(東の八戸、西の土佐清水)があり、それらを含めて笑い飛ばしたものに雨宮処凛の「アトピーの女王」という自伝的作品がある。



アトピーの女王 (光文社知恵の森文庫)
雨宮処凛著
光文社


この状況を金沢大学の竹原和彦先生は「アトピービジネス」と名付けて明らかにして闘い学会が中心となり有効で安全な治療である標準的治療を広めて行ったことで変えていった。

アトピービジネス (文春新書)
竹原和彦著
文藝春秋


「がん」もそうだ。
「がん」だった私の祖母も親戚から贈られたという桐箱につめられ金色のパッケージにつつまれたいかにもありがたそうなアガリクス粉末を飲んでいたのを思い出す。

補完代替医療は医学の世界でも注目を集めているし、全ての民間療法を否定するわけではない。
RCT(ランダム化試験)などは難しいが、それなりのエビデンスも集まってきているものもあるし、現代西洋医学を補完代替するものとしての評価はますますあがっていくと考えられる。
患者さんに相談された時は一緒に考え、医学的にあきらかにおかしいもの、薬物相互作用などで問題になるものはそう伝えるが、患者さんが希望される場合は「高価すぎるものでなければ・・・」と伝えることが多い。

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さて、精神疾患(特に統合失調症と双極性障害)というのは、治りにくい病気、おつきあいの病気の代表でもある。

医療の世界も確かにひどいことをしてきた歴史もあり、反精神医学などのあやしげな連中ののさばる土壌がある。

それは、

カッコーの巣の上で [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ


こんな映画のような歴史があり、


(精神神経学会の会場の外でデモンストレーションをする反精神医学の団体。精神科医も嫌われたもんだ・・・。しげしげと眺めていると、その団体の人に「副作用!知っていますか?」とパンフレットを渡された。)

こんな現状もあることからも明らかだ。

精神病(特に文か結合症候群)の中には伝統民間療法が効果ある場合もあるとは思うが、精神病症状が出現し御岳の祈祷師から「手に負えないから病院に行け」と紹介されたこともある。(これは医師ではないからまだ許せる)
血液検査をみながらサプリメントを中心に治療する、しかも再診は電話でというクリニックがあった。みると過剰投与の心配のない、水溶性ビタミン(ビタミンB群やC)、へム鉄などが自費で処方されていた。

知的障害とてんかんの治療の患者さんを遠方まで毎週通わせフェニトインとオザクレルNaの点滴に通わせていた脳神経外科のクリニックもあった。
「もう少しで治る」といわれて通っていたようだが、当然、医学的にも全く意味がない。
遠くて通うのが大変なので近くで同じ点滴をと患者さんが希望されて来院された。
その医師に電話と文書と連絡して意図を確認し、患者と相談しながら標準的な治療にもどすのに納得を得るのに一苦労した。

その他にも統合失調症の患者さんや家族を囲いこみ、の財産や年金を巻き上げてオウム真理教のサティアンのような施設で住まわせているような共同体もあるようだ。こうなってくるとカルトとなんら変わりない。

最近経験したある若い患者さん。

それなりに長い経過の付き合いもある方で入院歴もある。
東京に出向き光トポグラフィ検査を自費でうけてこられられたあとから、定期的に通院するようになりアドヒアランスも良くなった方だ。
やっといろいろなこともおちつきはじめ安定して生活できていた。

「親が「精神病を治す」と言う東京のクリニックに行かせたいと言うので行くことになりそう。」と言ってきた。
本人も気乗りはしないようだったがセカンドオピニオンとしてなら止めることは出来ない。

よくよく聞くと「心の病は脳の傷」とかいう本を記者に書かせて出版している松澤大樹という放射線診断を専門とする輩らしい。

心の病は脳の傷―うつ病・統合失調症・認知症が治る
田辺 功、 松澤 大樹
西村書店


私も以前、立ち読みをしてたことがあったが、特殊なMRIの撮影法(国際特許取得らしい・・)で脳の傷をみつけることでうつ病や統合失調症がわかる。うつと統合失調症の薬を両方飲んで、バナナを食べて走れば精神病は治るとの主張だった。
D医師を信奉するジャーナリストが書いた本で10人ほどに効果があったから、皆に知ってほしいというノリだ。
書き様をみるかぎり、このジャーナリストはほんとうに信じ切っているようにもみえる(なおさらたちが悪い)。
どう考えてもドンデモ本だが、けっこういろんな本屋でみかけるところをみるとそれなりに売れているのだろう。
専門知識をできるだけ正確に分かりやすく解説するのも専門家の務めであるが、新聞の一面の下の怪しい民間療法を宣伝するために本の形をとって宣伝している例のやり口を思わせる。

「うつ病、統合失調症、認知症など、心の病気の原因を突き止め、治療法を確立。経験に基づく画期的な診断法とともに、その治療法を解説する。」とあるが、それなら査読もあり大勢の目にさらされる学術誌に論文として出すのが本筋だ。PubMedや医学中央雑誌で検索してみたがブレインイメージングに関してのいくつかの論文と総説はあるようだが、治療経験に関しての文献は全くないようだ。
本の中では良い治療なのにアカデミズムには無視されたと主張されていた。
怪しすぎる。(;꒪▱꒪)

そのクリニックを受診した患者さんの話しによるとMRIの撮影は8000円、診察料は4万円もしたらしい。
そしてMRIを撮影し簡単な診察の結果、「国際特許取得しているという特殊なMRIの撮影法の結果、うつ病と統合失調症の混合精神障害です。指示に従えば完治をめざせます、以下の処方を提案申し上げます。」という紹介状を持たして帰されてきた。
処方の提案も、非定型抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬をいずれも少量というもの・・・。
たしかに、その量では副作用も可能性も低いし、旧薬からの変薬、減薬で良くなるケースもあるだろう。

その他にチーズや赤身肉、バナナを食べて運動するように指示されたと。
そりゃたしかにまぁ悪くはない提案だがね。

しかし驚愕したのはこちらが主剤と考えて処方している「炭酸リチウム(リーマス)」は頓服でのむように指示されたということ。
リーマスは血中濃度をきちんとモニタリングし、副作用に注意しながら連日服用しすることで気分の変調や自殺のリスクを減らす薬なのに・・・。

そして主治医が自分の処方提案に従わないようなら他の医師を捜せと名刺も何枚も渡されてかえされたらしい。
そして数ヶ月後もういちどMRIをとって診察するから来いと指示されたとのこと。

D医師のアドバイスによって改善した患者は信者となり、治らなかった患者はやり方が足りないあるいはが悪かったと切り捨てているのだろう。
自分でネットで調べたりできるリテラシーのある人はこんなでたらめに引っかからないだろうが、本だけ見ている人はあっさり引っかかるのだろう。


これは医療ではなくてインチキカルト、そして詐欺犯罪である。

治療法や処方は患者と医師がしっかりと相談した上で納得してきめるならば、標準から多少外れた治療法でもそれはそれでそれでしょうがないとおもうが、日常の病状管理や副作用のモニタリングなどのマネジメントもせず、調子が悪くなった時の危機対応をする覚悟なくこういった無責任なアドバイスをおこなうのは実に無責任な態度であるし本当に許せない犯罪行為であると感じた。(医療者とはみとめない)

こちらが当事者や親の不安や期待に十分答えられていないところにつけ込まれているのではあるが・・。

件のクリニックのホームページはあったようだが削除されているようだ。(キャッシュで一部読める)

精神科医師、林公一先生はウェブサイト(Dr林のこころと脳の相談室)で「【1533】脳の傷を治療すれば統合失調症は治るのでしょうか?」「【1639】脳の傷と統合失調症の関係を語る医師は、【1533】と同一人物でしょうか?」などと答えている。
教えてGooにもこのような体験談がある。

処方意図と治療方針の真意を確認しようと、そのクリニックに電話をしたが受付であしらわれ、その医師には取り次がれなかった。

当事者本人も「怪しいよね。皆に同じこと行っているんじゃ・・・。」と言っているのだが、藁にもすがりたい親のほうが信じてしまっているようだ。
こんなひどいクリニックが予約が3000人、半年待ちだそうだ・・。

簡単には治らない病気だからこそ、標準的治療をまずこころがけその発展に努めて行かなければならないし、当事者に寄り添い真摯な対応を心がけねばならない。

非医療者ならまだしも(それでも許せないが)、医師がこういう犯罪行為をやっていることに怒りを覚える。



科学技術の利用において社会に対して責任を負うのが専門家のはずである。
こういった詐欺師や医療カルトをゆるしてはならない。

日本医学会は「ホメオパシー」に対して声明を発した。
魑魅魍魎跋扈する「サイコビジネス」いや医療詐欺に対しても声を上げて闘っていかなければいけないと思う。

精神科医が狂気をつくる―臨床現場からの緊急警告
クリエーター情報なし
新潮社

・・・脳トレ、食事療法、精神分析もバッサリ切る。冒頭にD医師のこともでてくる。


ストレングスの視点を活かした就労支援グループワーク

2011年05月25日 | Weblog
リカバリー、レジリエンス、ストレングス(強み)というのは今日の精神科領域において支援の中心となる概念だ。

今日の就労支援は段階的に訓練して行くのではなく、本人の希望する職場の現場で直接的に支援を行うIPS (Individual Placement and Support) 方式が主流となりつつあり、病院の中にも食器洗浄やクリーニング場など障害就労の場も増えて、いろんな選択肢がでてきたことでディケアのメンバーも多くがそれぞれの形で就労に移行していっている。

一方、ディケアでは週1回、就労支援プログラムがおこなわれており、栄養士、薬剤師、人事課長(病院の)・・・などなどが持ち回りでテーマを決めてレクチャーやグループワークを行っている。
精神障害をもちながら就労をめざしている、あるいは一部就労をしている当事者(うつ病、双極性障害、統合失調症など)が対象だ。
段階的訓練方式のレクチャーやグループワーク中心のプログラム方式の就労支援では、なかなか実際の就労にはつながらないのではあるが、それなりに意味はある。

これまで自分が講師をつとめたときはレジリエンス概念を中心ととしてストレスマネジメントやメンタルヘルスを中心に話しをしてきた。
いつも同じではつまらないので今回はストレングスをテーマにしたグループワークにしてみた。

ストレングスとは「強み」のことだ。
出来ないことに目を向けるのではなく、出来ることに目を向ける。
持っていないものに目を向けるのではなく,持っているものに目を向ける。

時には価値の転換も起こる。

支援者も一緒になって、それぞれの人にストレングスを強みを健康、日常生活状況、経済状況、日中活動、社会的支援、レジャー趣味、その他などテーマごとにあけてもらった。



そのうえで何を希望するのか、過去に利用したストレングスはなにか、まだ利用していないストレングスは何か?とアセスメントを行った。いろんな意見が出た。

「プライドが低いことです。」・・・・これはスゴイ!
「実家が農業をやっていて農業ができること。」・・・・確かにそれは強い。
「山菜採りに行った」
「かつて銀行で働いていた。」
「断酒の必要性を理解している。」・・・・次は断酒しよう!
「家の近くにディケアと作業所があり、利用できる。」

ストレングスを知れば次にどのようなことができるのか見えてくる。

本当は働いている人がクラブハウス方式で集まれる場所があり、就労をしている当事者やこれから就労を目指す当事者がいっしょになって働き方を研究するグループワークができればいいなとおもっているのだが・・。
そしてそれは職場のメンタルヘルス向上にもかならずやつながるだろう。

「生きテク」科

2011年05月23日 | Weblog
Facebook上で知り合いの精神科医が

「これは、まさに Survivors からのメッセージ集だ。いま、関わっているケースのために○階病棟に1冊+ERに1冊+自分と心療科スタッフに1冊、買いました。」

とすすめていたので買ってみた。

生きテク
クリエーター情報なし
PHP研究所


驚いたのは前書きの言葉
年間3万人強もの自殺者を出してしまう日本の現実を、イランから日本へ主剤にやってきたメディアのスタッフが絶句したそうだ。
イラン人には「自殺」という発想が先ず無いそうだ。
「だって、逃げるとか親戚にかくまってもらうとか、方法はいくらでもあるでしょ。死ぬなんて誰も考えもしないんだよ。」と。
本当なのだろうか?

この本は「生きテク」というサイトからのコンピレーションだ。
多くの人のさまざまな生きテクを集めて、データーベース化し、共有できるようにしたものだ。
これはアルコール依存症やアダルトチルドレン、摂食障害などの自助グループや「べてる」の当事者研究と同様の発想だ。

本はテーマごとに恋愛、過労、病気、死別、暴力、借金、その他とカテゴライズされている。
1人のエピソードが2ページから4ページで読み切り完結で、苦しかったこと、かいけつ!その後!とコンパクトにまとめられている。

それはサバイバルとリカバリーの物語だ。
壮絶ないじめをうけたり、レイプされたり、人を殺めてしまったりなど、かなり激しい話しもある。
様々なきっかけでリカバリーを果たし、今度は人を助ける仕事をするようになった人が多いようだ。

この本、病院の外来の本棚においておくので興味のある人は読んでみてほしい。

ま、精神科は突き詰めれば「死にたくなった人」が受診するところである。
だから「生きテク科」といってもいいかもしれない。
精神科医とはある患者から教わった生きテクを他の患者に教えているような積極泥棒の様な仕事なのだ。
実はね。(もちろん薬も使うが・・・)

罪滅ぼしに自分の「生きテク」を紹介しよう。

それは、やっぱり旅だと思う。
凝り固まった頭が、自分の普段いる環境と違う環境、価値観の違う人々の中にいくことでほぐれていく。

死にたくなったら汽車に飛び乗り、乗り継いでとにかく北へ北へといく。
そして利尻島へ渡り、迎えのトラックに乗り伝説のユースホステル桃岩荘へ向かう。
トンネルをくぐった瞬間から、「知性、教養、羞恥心」は捨て去り、 時計の針を30分早めて「桃岩時間」の中で生活するという仕掛けがすばらしい。
ミーティングでは現代離れした雰囲気の中で歌い狂う。
そして圧縮弁当を持ち花の島利尻島の「愛とロマンの8時間コース」を歩く。
即席のグループだけで協力しながら歩いているうちにカップルもたくさんうまれるらしい。
その頃には死にたい気持ちも薄れているはずだ。

もう一つ。
屋久島もおすすめ。
こちらのユースホステルも生きるのにちょっと疲れた人が集まって語り合う雰囲気がある。
満潮時には海に沈む温泉に出かけたり、一緒にレンタカーを一緒に借りて一周したり屋久杉にいったり宮之浦岳に登ったり・・・。

それと四国八十八ヶ所の巡礼かな(順番に巡ったことは無いが。)

一番札所の隣に診療所をつくり、巡礼療法をするクリニックをつくりたいかも。
すると四国自体が癒しとリカバリーの島になるわけだ。

患者「死にたいんです。」
医師「88の札所を一周回って来なよ。」
患者「まだ死にたいんです。」
医師、「うーん、もう一周だな」と。

お遍路は、お大師さまと同行二人。
次の札所まで、また次の札所までととりあえず何も考えずに歩いて札所を順番にめぐり、人々の温かさに触れるうちに悩みは氷解していくだろう。
歩いて巡礼している人に地元の人は優しく、さまざまな接待をうけられる。
約2ヶ月の時間と約15万円の予算を用意すればだれでもいつでも回れるらしい。

えっ、クリニックは要らないって?



被災地支援。こころのケア。

2011年05月07日 | Weblog
県医師会報の原稿用で書いたものです。
ほぼ以前の投稿(約8000字のルポ)の短縮版です。

 安曇総合病院の「こころのケアチーム」は平成23年4月24日から27日まで津波の被害の大きかった宮城県石巻市に医療支援に行かせていただきました。これは厚生労働省と宮城県からの要請で行われたもので、長野県からは県内の精神科医療機関の多職種のチームがリレー方式で派遣されています。被災により障害された既存の精神医療システムの機能を支援し、一般住民のこころのケアをおこない、地域の保健医療福祉の従事者のメンタルヘルスに関わることを期待されていましたが、我々に一体どのようなことができるのだろうか不安をかかえながら被災地へ向かいました。

 地震と津波の直撃を受けた被災地の状況は想像を絶するものでした。被災からの復興は被災当初の救命救急、そして食料や水、衣服、暖などの生きていくための基本的なニーズに対応するフェイズ、それからライフラインの復旧にともない住居や仕事など生活を取り戻して行くフェイズ、そして大災害を自分の物語に位置づけ新たな生き方を模索してくフェイズへと刻々と変化してました。

 石巻市には全国から行政の支援、様々な作業員、医療者、ボランティアなど様々な支援者が集まっていました。震災から1ヶ月半。震災と津波で肉親や友人を失ったり、家もすべて流されたり方々が、直後の混乱から日常に戻されつつある時期で、すでに多くの医療チームが入り込み、現地の医療機関も徐々に診療機能を取り戻しつつありました。

 我々は現地の保健師のもとでの活動しましたが、実際の活動は「外来診療と訪問診療、保健相談」の要素を合わせたようなもので、それは確かに普段我々が日常やっていることの延長でもありました。保健師がリストアップ避難所や家にいる主に統合失調症の患者さんや気になる方を訪ねました。統合失調症の方は調子を崩すことなく普段とかわらぬ笑顔を見せてくださり避難所の中にそこだけ時間がとまった様な空気をつくっていました。
 そして医師、看護師、心理士、薬剤師、事務と多職種からなるチームで避難所をまわりながら、それぞれの視点でニーズを掘り出し、その場で出来る対応をしました。高血圧や不眠を中心に被災者の相談にのらせていただくことが中心でした。
 津波の被害の大きかった沿岸部には中規模の避難所がは高台の公共施設などに点在しておりコミュニティごとそのまま非難し自治がおこなわれていました。「ライフラインも復旧した市街地に移る準備はできているのだが、そこから自分だけ抜けていいのか。」というような悩みや、「障害をもつ家族ともに非難しているが、避難所の生活に適応できず本人も家族もストレスを抱えてどうすればいいのか。」という様な相談を受けました。仮設住宅の建設や今後の計画の策定は大幅に遅れているようでした。

 避難所の規模や様子は様々でした。大規模避難所では「病棟、特に精神科の病棟にに似ている。」と感じました。大規模避難所では突然の災害のような突然の不幸に襲われたものがあちこちから集まり時間と空間を共有していました。それぞれの人の抱える背景も様々でした。そして次に行くところが見つかった人から去っていっていました。若い方や障害者は2次避難先に移り、ぎりぎり自分で動ける程度の高齢者が多く取り残されているように感じました。

 避難者の集団は行政やボランティアのグループによってある程度管理され、生活は構造化されていました。外部からマッサージや炊き出し、医療、警官、慰問など様々な支援者が入れ替わり立ち替わりやってきていました。ボランティアと被災者が一緒に料理やレクリエーション、散歩をしていました。
 精神科の病棟同様、避難所は回復力のある場で家や家族を失った人にとって避難所にいるということが一つの癒しになっている可能性があると思いました。家族を失った方が「ボランティアさんたちが全国から来てくれているからいいが、知り合えたと思えば帰ってしまう・・これから先が心配。」などの声も聞きました。

 これから被災者は仮設住宅などで新しい生活が始まります。実際のところ、こころのケアはこれからが本番なのだと思います。大災害を自分の人生の物語になんとか位置づけることが出来てリカバリーを果たす人と、それが出来ずに鬱やPTSD、依存症などの状態になっていく人も出てくるでしょう。生き残った人も自分だけ助かったと言う罪の意識(サバイバーズギルド)にさいなまれます。腰を据えた息の長い取り組みが求められます。こころに対する薬は結局のところ「人薬」「時薬」しかありません。

 今回の震災と津波の被害は職住接近しコミュニティが残っていた東北の沿岸部でおこりました。「これが都会の日中の災害だったら、また、自分たちの地域ではどうだろう。これから出来ることはどんなことだろう?」と、それぞれに宿題をもらって帰ることになりました。