リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

★お知らせ★




思うところがあってFC2ブログに引っ越しました。 引越し先はこちらで新規の投稿はすべて引越し先のブログのみとなります。

遠くの親戚よりも近くの高原病院・・・。

2012年09月23日 | Weblog
4年間ほどパートで勤務していた山梨県と長野県の県境の町の厚生連の富士見高原病院(現富士見高原医療福祉センター)の外来応援が最後になった。

当初は毎週、2年目から隔週でのパートであったが、ホームグラウンドの安曇総合病院との違い、病棟やディケアなどがないマネジメントや患者層の違いなどいろいろ学ぶところが多かった。


(富士見高原医療福祉センター)

「遠くの親戚より近くの高原病院」というモットーの病院は小さいながらもかなり高度なことまでやっている病院である。
病院自体の規模としては安曇総合病院から精神科病棟をのぞいたくらいの大きさである。
しかし院長がやり手であり複数の老人保健施設や診療所をもっていたりケアミックスの方向に拡大していく一方で、センターは急性期医療も外科や内科もベテランのスタッフが揃って手術やインターベンションもかなりやっていたりと、この規模の病院にしては手を広げてやっている。
患者さんも複数の科にかかり、院内処方の処方をうけとり様々な用事を病院ですまして帰る方も多い。


(老人保健施設あららぎ)

精神科(ちなみに高原病院では心療科と呼称している)にも常勤医がいたが開業して不在となったことが発端だ。
S大学病院からはとても派遣する余裕がないため、同じ厚生連の当院からも外来の応援することになり、その他に山梨県立北病院(慶応義塾大学の医局系列)からの交代で新人医師や、独自採用のベテラン医師、富士見高原病院で内科の研修をした諏訪湖畔病院の医師などが曜日代わりで寄せ集めで外来が運営されている。


(畳があったり、ピアノがあったり(今はないが)味わい深い待合室)

こんなことが成り立つのも外来のベテラン看護師のマネジメントが卓越だからだ。
カルテも読んでコミュニケーションをとって患者さんを把握してカウンセリングやケースワーク的なこともしつつ患者さんに対応する。(だから患者さんも他科の帰りに顔をだしたり、病棟スタッフ、ケースワーカなどもこの看護師にまず相談する)
関わる医師の交流会も企画していただき、他の病院から応援にきている精神科医師とも交流することができた。

患者層は、高齢者をのぞけば心身症、メンタルヘルス、うつ病などが多く、統合失調症や双極性障害Ⅰ型などは数えるほどしかいなかった。ヘヴィな疾患はやはり病棟やディケアをもってやらなければ難しい。
かなり遠方であるが透析が必要で精神症状が問題となったケースなど安曇総合病院で入院をしたケースも複数あった。
アウェイであり統合失調症や認知症、アルコール、不登校などで大きな動きというのはできなかったが、高齢者包括支援センターや障がい者総合支援センターなどともかかわりながらできることをやるということに徹してきた。

富士見町は小規模多機能事業所もできたり、認知症に関する演劇をしたり地域活動なども盛んなようだ。
高原病院では富士見町の包括支援センターも病院が委託で受けており、認知症の様々な困難ケースの相談があった。
どうしても病院にこられなくなった人への往診もした。
隣接する特別養護老人ホームの精神科の回診もしたが、安曇病院からもしているが特養ごとの雰囲気の違い活用のされかたの違いもっといえば文化の違いなども興味深かった。

けっこう長く付き合ったのは重複障害の方だ。精神科とは少し違うのかもしれないが、視覚障害や透析、車椅子生活の方などのリカバリーの支援もかかわったが地域リソースの開拓がなかなかできないのがパートの辛さである。
常勤ならばミニディやセルフヘルプグループなどからニーズに応じた場所を広げていきたいところであるが・・。
ホームのエリアとは違う地域で入院病棟などそちら側のリソースもなかなか使えない。

パートとはいえ患者さんにとっては定期的に合うので、いつもいるような感じになるらしい。
依存させるような関わりはしないように心がけて入るが、長い付き合いになった患者さんと別れるのも辛い。
新しく東京からベテランの先生も来るということなのであとはお願いすることになった。
精神科病棟をもたない病院でリエゾンやソーシャルワークを中心とした精神科医というのも様々な可能性を感じさせてもらった。

地域住民の救急受診を断るケース

2012年09月11日 | Weblog
当院で救急外来の受診を断られて他の病院にくようにといわれたという地域住民からの苦情があったという。

安曇総合病院は医師の1人当直とはいえ、夜間休日も看護師と臨床検査と放射線のスタッフも当直している。
高度なインターベンションができる3次医療機関ではないが患者さんや家族の判断や、救急隊が現場や車内でできること、診療所よりは出来ることははるかにたくさんあるので専門外とはいえ診察もせずに受診を断ることは合理的ではない。

ただし一刻も早い高度のインターベンションが必要な多発外傷や頭部外傷、脳卒中(tPAや穿頭術が必要な可能性がある)は3次医療機関に救急隊がトリアージして行くプロトコールとなっている。それは患者さんの利益にかなうことだ(近くの病院でみてもらえず不本意かもしれないが)
中途半端に途中に2次救急病院に立ち寄ってもたつくことインターベンションのゴールデンタイムを失ってはいけない。
そのあたりは救急隊がトリアージするがバイタルが揺れているような場合は途中で立ち寄ってルートキープ、大量補液、薬剤投与などは行うこともある。



地域住民も救急外来は夜間外来ではなく翌日まで放置しておけば悪化したり急変する可能性のある疾患を除外して最低限の処置をおこなう場所であることを承知しておく必要があるだろう。

結局医療ニーズと医療技術のマッチングの問題なのだが、これは単一の医療機関で解決はできない。
当院の規模では専任のERチームをつくることは難しいし、すべての疾患をみることはできない。
高度なインターベンションもできず地域の最後の砦で原則断らないという方針の病院でもない。
しかし地域の急患で当院でみるべきケースをみられないことはあってはならない。

救急外来の業務のレベルアップを図るために、救急外来にでる医師は救急外来の業務に専念できるように翌日は休める体制をつくり、情報を共有し、ケースカンファや勉強会などへの参加を義務付けるべきだろうと思う。
救急診療委員会を機能させ、電話でも断ったケースに関してその判断が正しかったのかきちんと分析し、その情報を公開するべきだと思う。

「陽子の一日(南木佳士)」

2012年09月04日 | Weblog
文学界、2012年9月号に掲載された南木佳士の小説「陽子の一日」を読みました。

芥川賞作家の南木佳士の小説やエッセイは好きで学生時代からだいたい読んでいます。
疲れた気分の時に物悲しい音楽があうように、すこし鬱っぽい気分の時に読むと実にフィットします。



かつて私が佐久病院にいて、うつっぽくなり医局のソファでくたばっていたら南木佳士が前のソファにどっかと座って話をしてくださり、「底上げされた価値、世間虚仮」といった言葉を餞別としていただきました。

また針金で肺の模型をつくって胸部レントゲンの読み方を教えていただいたことも思い出されました。

「陽子の一日」では先輩医師である黒田が研修医にかかせて陽子に残した自らの病歴要約を中心に二人の人生が振り返られます。
いつものことですが南木佳士氏の小説は、小説なんだかルポなんだか自伝なんだかわかりません。
自宅に戻ると衛星放送の自然番組をみたり、泳いだり山に行ったり、実際にそういう生活をされているんだと思います。

老いの有様、地域との格闘、さまざまな医師の人生の交差・・。
私も南木佳士も勤務するモデルになった病院や地域にかつていたこともあり一つ一つの内容がリアルに迫ってきて引きこまれました。

しかしずっとポジティブに生きているお感じない人、医療者以外の人などはこの小説をどのように読みどのような感想をもつのでしょうかね?

成年後見活動のための精神医学

2012年09月03日 | Weblog
成年後見人制度の利用も増え専門職の後見のニーズも高まっています。
複数での後見が可能となり、財産の管理や法的な問題の整理は司法書士や弁護士が担い、社会福祉士は後見活動のなかでも特にケースワークが必要な部分、Assistive Advocacy、権利の行使や身上監護の部分を担うことが多いようです。
社会福祉士会が運営する権利擁護センター「ぱあとなあ」は成年後見人(専門職後見人)の養成をおこなっており、連続講座は今年で5回目になります。
この講座を受講した社会福祉士は「ぱあとなあ」の一員として成年後見人を受任することが求められます。

お声がけいただき、この講義の一コマ、「成年後見活動のための精神医学」を担当させていただきました。
後見人制度における医師の役割ということを中心にお話しましたが、各論部分は時間がなくて駆け足になりました。

スライドはこちら

認知症、統合失調症、高次脳機能障害、知的発達障害について短時間で簡単に説明なんてできません。
できるとすれば当事者の方に語ってもらうことかなぁ・・。

夜の部で受講生とぱあとなあメンバーによる交流会にも参加させていただき行政や医療機関、社会福祉法人、大学、社会福祉協議会、NPOなどさまざまな場で活躍する社会福祉士の方と知り合いになれました。
多問題ケースに専門職後見人として取り組んでいる方のお話をうかがいました。
医療、福祉、法律、行政・・・・多職種で知恵をだしあって当事者の方を支えて、職種、職域を超えてお互いにタイミングよくいいパスが出せるようにしたいものですね。