リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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はじめての漢方は補中益気湯がおすすめ

2012年11月24日 | Weblog
北相木の松橋先生の漢方の講演会(クラシエ主催)があったので松本まで行ってきた。
前回は「抑肝散加陳皮半夏」であったが、今回は「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の処方解説」なんだもの・・・。
松橋先生ファンかつ補中益気湯ファンとしては行かないわけにはいかない。

なんといっても補中益気湯は私が漢方に目覚めさせてくれた方剤だ。
自分がばててどうしようもなく、疲れているのに眠れなかった日々に補中益気湯を飲むと眠れるようになった。
また疲れると出てきていた痔も治ったということで漢方に信頼を寄せるようになった。
台湾にいったときは生薬で買ってきて煎じて飲んでみたが実に美味かった。

メーカーによると日本で人気のある漢方製剤は補剤が主だそうである。
高齢化し体力が低下し補剤が必要な人が増えているということかもしれない。
いわゆる補剤として補中益気湯、六君子湯(りっくんしとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などがある。
補剤の主たる対象は気虚(機能の低下、エネルギー切れ)や血虚(貧血など物質の低下)である。
そして補中益気湯は補剤の雄である。

補中益気湯を入院症例全員に飲ませれば良いということを言っている乱暴な本もあるくらいである。

本日、学んだことも取り入れながらこれら方剤に関してまとめてみる。

中医学の病理学をおさらいすると、中医学で気(き)は体の機能的な側面を表し、血(けつ)は実質的、物質的な側面を表す。
さらに血の一部として津液(水)がある。
これらのが一連のシステムとして人体の機能をなしたものが正気(せいき)である。
外部の邪気(風、寒、暑、湿、燥、火)と戦っているのが病気の姿である。
一方、気、血、水が流れているのが正常であり、流れが滞ると気滞(きたい)、血瘀(けつお)、水滞(痰湿)などの病態となる。
気は血や津液を流す働きがあるが、気虚となると津液の流れが滞り痰湿が起こりやすい。
痰湿が生じると脾気虚が更に進むという悪循環が生じる。
これを断ち切るために補気や去湿が必要となる。

この目的で用いられるのが六君子湯である。

六君子湯は脾を中心に全身に気を補う人参(朝鮮人参)がメインであり、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)がサブ。
この2つは対薬となっており、どちらも補気、燥湿の作用がある。白朮は(補気>燥湿)、茯苓は(補気<燥湿)でありバランスがとれている。さらに甘い大棗(ナツメ)、辛い生姜(ショウガ)で食欲を出す。全体をまとめる甘草が加わる。
どれも君子のように優しい生薬であり、ここまでで四君子湯(しくんしとう)であるが、さらに気虚の結果生じる痰湿にも配慮したのが六君子湯である。
六君子湯ではシトラスの香りのする陳皮(ちんぴ、ミカンの皮、理気(気を整える)、開胃(食欲↑)、燥湿)と、半夏(はんげ、理気、止嘔、去痰作用)が加わり、胃の痰湿を取り食欲を増進させるという配慮がされている。
まとめると、六君子湯は体の機能やエネルギーが落ち、胃の症状があり食欲がないケースに適応がある。

さて補中益気湯である。
六君子湯との違いは何か?
補中益気湯は補剤としての働きがより強く、気虚に伴う全身の症状に対して効果がある。
補中益気湯は体全体の気を補う人参と、体の表面(皮膚や肺など)の気を補う黄耆(おうぎ)、脾胃(消化器系)の気を補う白朮の補気トリオが方剤の中心となっている。
これに気血同源ということから気虚に引き続いておきる血虚にも配慮して当帰(とうき)が加わり補血、活血作用を加えている。
さらに補中益気湯を補中益気湯たらしめている生薬として柴胡(さいこ)、升麻(しょうま)が必須である。
これらは気を上にもちあげ、内蔵を身体のあるべき位置に保つ升提陽気作用をもつ生薬で内臓下垂、脱肛などを改善する。
これに理気健脾の陳皮、食欲改善の大棗生姜、全体をまとめる甘草が加わる。

今回の講義では述べられなかったが補中益気湯は柴胡剤の一部であり小柴胡湯証の人が弱った時に用いれば良いという口訣もある。
古典的な使い方として①中気下陥②気虚発熱③気虚出血(気虚が主、血虚が主なら加味帰脾湯がベター)が適応となる。
一言で言うと「バテた人」に用いれば間違いない。
うつ病治療の補助としてもとても良い。(不眠や抑うつが強ければ加味帰脾湯がよい)
あまりに弱って死にかけるところまでいってヘロヘロな枯れた感じの高齢者などには十全大補湯か人参養栄湯がよいが・・。


(松橋先生はスライドは使わずホワイトボードに書きながらの講義である。)


さて半夏白朮天麻湯も六君子湯から発展した方剤であるが、気虚がベースで痰湿から生じためまいや頭痛など様々な症状に用いられる。六君子湯に補気の黄耆や消食理気の麦芽、めまいを抑える天麻が加わっている。
さらに化湿の蒼朮(そうじゅつ)や利湿の沢瀉(たくしゃ)など痰湿に配慮し、痰湿は熱を持ちやすいことから黄柏(清熱燥湿)を加え化炎を予め予防している。次の証に移行していくのを予想して予め防いでいる。
一方で、甘く痰湿を悪化させうる甘草や大棗は抜かれている。だから半夏白朮天麻湯は六君子湯や補中益気湯のように甘くない。
まとめると「元気がなく、ふらついてめまいや頭痛など頭部の症状のある人」に適応である。
私は起立性調節障害の子どもに出したりもしている。

他にも補剤といわれるものは気血両虚に対応した十全大補湯(枯れた人に適応)、加味帰脾湯(不眠やクヨクヨしている人に適応)、人参養栄湯、清暑益気湯、清心蓮子飲などグラデーションをもっていろいろあるが、病後の方や高齢者に六君子湯や補中益気湯を中心に出すと喜ばれる。

2つ目の講演はスパルタ式のめまいの集団リハビリをおこなっており、難治性のめまいの患者があつまる横浜市立みなと赤十字病院の新井先生の話であった。入院しての集団リハビリで入院したOBがきてボランティアで教えているというのがピアヘルプでいいとおもった。
そこで、めまいで入院し中程度の抑うつ傾向のある人に補中益気湯をだして効果を上げているそうだ。つかうようになったきっかけは漢方をつかう医師が入院していて、新井先生がばてている様子をみてすすめられ、飲んでみたところその効果に驚いたからだそうだ。

補中益気湯の効果を感じるためにはまずは自身が疲れてバテた時に飲んでみて欲しい。
普通の薬局でOTCでも売っており、ユンケル黄帝液やゼナの高級なものと同様の生薬が入っており、ユンケルやゼナなどよりもはるかにリーズナブルである。(OTCのものは医療用よりやや量がすくない。ユンケルと違って糖やカフェインもなく安心して飲める。)

めまいは寝てては治らない―実践!めまいを治す23のリハビリ
新井 基洋
中外医学社

安曇総合病院、再構築に向けて・・。

2012年11月21日 | Weblog
全職員が参加できるように同一内容で3日連続で全体集会があった。


アリバイ作りみたいな集会であったが、全員で再構築をやるんだという空気を作るのが目的だろう。
再構築はリニアックの問題で足止めしていたため、地域医療再生交付金を使っての事業の期限は迫っており本当に時間がない。
その中でもめいいっぱいみんなの希望や夢を取り入れるために意見を言える場を設けるのが目的である。




新倉先生がリーダーシップをとってこれまでの経緯を説明する。
再構築に向けて、いくつかの課題が残っている。

まず経営体力の課題である。正直言って経営体力はない。
それから地域とのつながり。大町病院なども含めた大北地区全体での医療再編も課題である。
最期に、執行部は?病院のリーダーは一体どうなるのかという問題もある。

そんななかで何故、今再構築に踏み切らなければならないのかというと・・・。
それは築43年の古い病棟が、耐震基準をクリアせず、今、大きな地震が来たら患者さんと仲間の命が危険にさらされるからだ。
しかし他の厚生連病院も建て替えの次期を迎えており、この時期を逃すと安曇病院の建て替えは10年、20年先の話になってしまう。
それでも市民病院や日赤病院のように地域の事情で他の病院のように自治体からも多くの支援は望めない。
そんな中、がん、救急、地域医療に使える4億円弱の地域医療再生交付金を建て替えに使えるという公算となった。
しかしこのお金は平成26年3月までに着工しなければ使えない。

最終的には来年2月の厚生連の理事会で了承をえなければならないが、それまでに地域のニーズと職員の希望をいれた病棟の計画を作らなければならない。
本当に時間はない。

再構築に向けての大きな方針として

・救急としてそれほど高度なことがいきなりできるわけはないが、HCUを整備する。
・がん診療としてリニアックは入れないことになったが、緩和ケア病棟や外来化学療法など本当に充実したものを充実させていく。
・在宅支援科ができ訪問診療の体制ができてきているが、それをさらにおしすすめ地域・在宅・医療支援の仕組みをつくっていく。

アイディアをふくらませ、みんなに声をあげていく機会をつくっていきたいとのこと。
でもね、とできない理由をさがすのではなく、それはいいね、どうすれば?とふくらませていくべし。


(研修医も発言)

ついで、事務局から職員からこれまで出た案や病棟の建て替えの場所のいくつかつかの案が発表された。
これまではいくら議論しても全然具体的でなく、現実感はなかったが、いよいよ具体的になってきたためか、院内職員の目つきもかわってきて、いろんな職種から積極的な意見もどんどん出るようになった。

自分も「各職種がそれぞれの巣にこもってしまわずに、自然に院内外の多職種、多職域のスタッフが顔をあわせられるような仕掛けの病棟を」と発言させてもらった。

地域の医療の未来を真剣に考えてみませんか?

デスカンファレンス

2012年11月21日 | Weblog
先日、今の病院にきてはじめてデスカンファレンスを小規模多機能事業所で行った。
ケアマネが声をかけ、主介護者、主治医、訪問看護、福祉用具、ディケア、小規模多機能のスタッフなどが参加した。

認知症をかかえ高齢夫婦で通院していた方で数年間外来に通い、通院も困難となり、病院からの在宅訪問診療の仕組みをつかってフォローしていた。嫁が戻ってきて主介護者になり小規模多機能も利用するようになり、終末期には訪問看護も加わって在宅での看取りまで関わらせてもらった。

夏の間に徐々に食が細りベッド上となり、肺炎となり3日間だけ点滴をしたが結局入院はせず家で過ごされた。
新規にできた小規模多機能のスタッフも訪問看護と連携しながら終末期まで連日訪問してくれた。

家族は当初、病院につれて行かなきゃと思っていたそうだが、主治医の「この段階で肺炎になるのは自然の経過でこれが治っても繰り返して亡くなっていくのですよという言葉で、そうかと気持ちが楽になりました。」とおっしゃってくれた。

カンファレンスではディで活き活きと過ごされている写真や、ひもときシートを見ながら経過をみんなで振り返って、医療はいちばん後ろから支えてみまもることが役割(でも大事な役割)で家族や介護スタッフが最前線だったんだなぁと改めて感じた。

うまくいったケースも、まずかったかなぁというケースも看取りのあとに皆で振り返ることが大切なのだろうと思う。
デスカンファレンスはケアのあり方を見直したり、またグリーフケアとしても意味があることだと思った。

長野摂食嚥下リハビリテーション研究会~認知症と向き合う

2012年11月17日 | Weblog
松本歯科大学で開催された第8回長野摂食・嚥下リハビリテーション研究会に参加した。

テーマは「認知症と向き合う」
当院からはST3人、医師2人、CW4人が参加していた。
治療食をつくっている複数のメーカーが様々なとろみ製剤やソフト食、補助栄養食などの試食コーナーをだしていた。
栄養士や歯科衛生士、看護師も参加できればよかったな・・。

このジャンルで当世を代表する3人の講演があったが質疑応答の時間やディスカッションの時間がなかったのは残念。



まず、東京都健康長寿医療センター研究所の平野浩彦先生。

「認知症の背景疾患(アルツハイマー型認知症など)は進行性の疾患、予見性をもったケアが求められる。」
初期のIADLレベルの買い物や調理といったところの障害から終末期の摂食・咀嚼・嚥下といったところまで食に関わる支援のニーズが移り変わっていく。
木を見て森を見ない対応ではいけない。しかもその森は季節が移り変わっている・・。

ついで東京ふれあい医療生協 梶原診療所の平原佐斗司先生。在宅医療のエキスパートだ。

「食べられないときにどうするか。」食べられない原因の見極めが必要。
肺炎などの合併症によるもの、認知症の中核症状の進行によるもの、それとも回復できない嚥下障害によるものか・・。

合併症による食思不振は肺炎や尿路感染、心不全の悪化などの場合もあるし、便秘や口腔内のトラブルによるものも、薬の副作用によるものも多く、これらにに対応することで食べられるようになることもある。

認知症の中核症状によるものは、注意障害や食べ物の認知の問題、失行や味覚の低下、口腔顔面失行、嚥下反射など・・病期によって様々な原因がある。視覚などに依存せず、より原始的な感覚をつかうなどの工夫が必要である。

回復できない嚥下障害は頸部聴診法や簡易嚥下誘発試験、場合によっては嚥下造影や嚥下内視鏡で総合的に判断する。
認知症の予後については様々な研究があるが、悪性疾患に匹敵する予後の悪さである。肺炎や発熱、摂食障害がみられたら半数近くは半年後に他界するというデーターもある。
そのように判断した時に意思決定の支援が必要である。
認知症の終末期で胃ろうを作っての延命効果に明確なエビデンスがない。他の要因による個人差が大きく命の長さはわからない。
(1年生存率10%~90%と様々)

認知症の終末期においては認知的感覚は失われるが直感的感覚は保たれる。
認知症にも緩和ケアという考え方が必要である。
認知症の人は表現できないものの痛みや息苦しさなどは感じている。BPSDが身体的苦痛を表していることもある。

終末期の意思決定の支援として、意思決定に参加する人を決定する。その際、直接介護に関わっていない遠方の息子なども含めなるべく全員に参加してもらうことが大切である。(カルフォルニアドーター現象を避けるため)
医師からの病期の自然経過や患者さんの経過など十分な情報提供のもと、複数の選択肢の中から患者のQOLと尊厳について代弁してみんなが考えることが必要。医師からは苦痛を感じていらっしゃるということや、未来のために長くいきたいという感覚は患者さんの中にはないこと、命が長いかとうかはこの段階では問題ではないことなどを伝えるそうだ。
その際、患者さんのアドバンスドディレクティブがなされていれば参考になる。

最期に北海道医療大学の山田律子先生の映像たっぷりのレクチャー。

高齢者の楽しみの第1位は食べること。
しかし認知症が進行していくと食べることにも支障をきたすようになる。
ただし「食べない」イコール「食べたくない」、「終末期」ではない。
認知症の方は自分で環境をととのえていくのが難しい。
そこに支援が必要で、何故食べないのか真意を探求することが必要。
支援者も環境の一部である。早期から多職種によるチームアプローチが重要である。

たくさんありすぎて集中できない、熱い、まずい、失禁している、失行や失認がある、白内障で見えない、器の色とのコントラストがなく飯がなくなったことに気づかない・・・。
器の色を変える、食器を変える、フランス料理のように一品ずつだすなどの工夫が有効なことも。
徹底した取り組みで亡くなるギリギリまで食べさせる支援をつづけたグループホームのデーターから嚥下反射が消失するまでは食べ続けることのできる可能性を示した。

認知症の方に関して食支援は大きな課題である。
精神科で認知症の方と関わっていて、BPSDの大変な次期を家族とともに乗り切ってきたが、肺炎などを繰り返すようになって他科で見られるようになりいつの間にか胃ろうをつくって施設へということもあった。
主治医のバトンを渡しそこねたケースだ。しかし最近は訪問診療もすすめられるようになり在宅で看取りまでかかわれるようなケースもでてきた。食支援に関して多職種でかかわる仕組みを作っていきたい。

臨床研修指導医講習会

2012年11月17日 | Weblog
知り合いの先生から声がかかり、長野県病院協会と医師会の共催する臨床研修指導医講習会のワークショップのファシリテーターとして参加することになった。
どっちかというとパシリテーターですが・・。

週末の2日がまるまる潰れてへろへろでした。
しかし他の病院の先生方と知りあえたり懐かしい大学の同期やかつていた病院の先生ともあえたのは良かったです。



ワークショップ形式の講習会でアイスブレーキングから始まり、成人学習理論に基づくカリキュラムを作ったり、院内体制の立ち上げや、医療面接、告知のロールプレイをしたり、医療安全やメンタルヘルスなどの講義やグループワークがあったり盛りだくさん。

その内の1つとしてチーフタスクフォースから認知症のケアカンファレンスのロールプレイのシナリオを作れとの指令が・・。

よくわからなかったが、大学病院の先生なども参加するワークショップなので多職種協働とケア会議の重要性をを示せればということで現実のケースをいくつか組み合わせてつくってみたのが以下のシナリオ。ついでに認知症や在宅医療への理解が深まればということで・・・。

まず、山手線ゲーム的に医療に関わる多職種を一人一つずつ言ってもらいました。政治家とか、MRとか、行政の福祉課の職員などが出てくるのはさすが・・・。

ついで模擬カンファレンス。地域では多職種で実際のケースをもとにケア会議をする機会なんていっぱいありますが・・・。

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認知症をもつ方の在宅支援のためのケア・カンファレンス シナリオ

【患者背景】 82歳 女性。(春野ウメさん(仮名))
[本人の情報(入院前)] 要介護1 J2-ⅡA
<サービス利用状況> 訪問看護を週1回のみ利用
<既往歴> 特筆すべき既往はなし。糖尿病、高血圧が最近みつかった。
<経済状況>地方都の町の旧市街地の町中の古い小さな持ち家に年金での生活。
[家族の状況・居住状況・生活状況]
10年前に夫と死別、以後独居。畑にでかけたり、俳句などの集まりに出かけていた。年金は自分で管理し、買い物は近くの商店への自分で行っていたが最近は家にこもりがちであった。息子家族は車で15分くらいのところにおり、嫁も働いており週1度くらい訪問して世話をしている。娘は車で40分程度のとなり町に嫁に行ったが月に2度程度、買い物や温泉入浴施設などにつれていくなどの関わりをしていた。
【生活史】3人兄妹の2番目、次女として出生生育。兄妹はすでに他界。中学卒後、工場で働く。25歳で町役場の職員の夫と結婚。1男1女を育てた。10年前に夫が他界。以後は独居。
【現病歴】気ままな性格。医者嫌いでほとんど病院にかかったことはない。X-2年春頃より物忘れが増え、あまり外出しなくなった。身なりに構わなくなり嫁に対して家の物を持っていったなどの発言もあり、訪問販売でだまされかけたこともあった。またお菓子など甘いものを食べることが増えた。X年3月に元気がない様子があり娘がA病院になんとかつれていったところ糖尿病と側頭葉に小さな脳梗塞がみつかり精査と血糖コントロールのために入院となった。しかし混乱が激しく怒り入院継続できず結局数日で自宅に退院。通院も拒否するため訪問診療もしているクリニックより訪問でのフォローを開始した。当初は拒否的であったが慣れてくると「ありがたいね。」と喜んで迎えてくれるようになった。訪問看護も入り内服薬は服薬カレンダーで管理していたが、半分くらいしか服薬できていなかった。お風呂もあまり入なくなりご飯は自分で炊いていたが嫁がもってきたおかずを食べるなどして生活していたが冷蔵庫の中で腐らせたりした。しかしディサービスやホームヘルパーの利用は拒否的であり、嫁にたびたび電話して理由なく怒り「ダメな嫁だ。」と辛くあたった。X年8月に訪問看護師が訪問時、暑い部屋でぐったりしており発熱もあり訪問したクリニックの医師の判断でA病院に救急車で来院。著明な脱水と尿路感染症あり補液と抗生剤の点滴で治療をおこなった。徐々に食事も食べられるようになったがスタッフにも依存的で臥床がちでありリハセラピストの働きかけにも拒否的であった。HDS-R(長谷川式簡易知能スケール改訂版)は18/30で時間の見当識障害と短期記銘障害あり、頭部CTでは海馬と側頭葉の萎縮が目立ちアルツハイマー型認知症も併存していると診断された。血糖はエネルギーコントロール食と経口血糖降下薬のみでコントロールがつき、入院約1ヶ月で屋内歩行とベッド周囲での動作は自立し退院も考えられるようになったのでX年9月、ケア会議を開催することになった。今後1~2年間でさらに認知症の進行が予想され、このままでは自宅での生活継続が厳しくなる状況であることが予想される。


役はくじでランダムに決定。①~⑥の人のみに設定を配布。

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ケアカンファレンス1回目のロールプレイの設定

①【指導医】
患者さんは退院可能であるとだけ伝え、基本的に研修医にケア会議を任せる。「あとはケースワーカーとケアマネさんにまかせて。」といい退院後の生活にあまり関心がない。「うちは急性期病院だから。」と長期入院になるのを嫌がる。
②【研修医】
入院中、担当医として指導医とともに治療にあたった。指導医から多職種のカンファレンスを開催するように言われた。本人の状況とお嫁さんと話から自宅での生活は不可能であると考え、病状説明の後、家族の意向を聞き施設入所の方向で話を進める。
③【ケースワーカー】
家族の意向を聞き特別養護老人ホームは待機者が多くすぐには入れないので、老人保健施設を経由して民間のグループホームを申し込んではどうかと提案する。
(老人保健施設:リハビリ機能と多少の程度の医療機能を備えた中間施設、在宅準備のための入所とショートスティとディケアの機能がある。本来、在宅生活の支援施設だが、特養(入所施設)への中間施設となっていることもある。)

家族
④【嫁】
頻繁に絡んできて妄想もある義母の介護につかれ施設への入所を強く希望している。できれば、それまで病院に入院させて欲しいと訴える。「もう家では絶対に無理です」と何度もいう。
⑤【息子】
自分としては自分の家での同居をすすめたい気持ちもあるが、本人は拒否しており、嫁も同居を快くおもわず、自分は仕事であまり関われていないこともあり、施設入所もしかたがないと考えている。

⑥【ケアマネージャー】
カンファレンスの流れで、施設へ退院方向となり複数の施設を申し込む段取りを家族とおこなうことになる。

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全体ディスカッション。わりと活発に意見が出た。
役割を増やして再ロールプレイ。

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ケアカンファレンス2回目のロールプレイの設定

⑦【ケースワーカー】ケア会議を企画し司会を行う。ひと通り自己紹介してから、研修医へふる。今後、介護サービスをより利用するために介護保険の区分変更の必要性を指摘する。話の流れが止まればまだ話していない人に話をふる。
⑧【研修医】指導医の見守りのもと、ケア会議へ参加する。病状と予後を説明する。患者との信頼関係はそれなりにできており、患者から「先生、うちに来とくれや」と言われている。
⑨【指導医】主介護者の嫁をねぎらう。研修医や家族、どの職種からも情報や意見を引き出してまとめる。
⑩【病棟看護師】
病棟ではトイレで迷うようなこともあったが、食事はエネルギーコントロール食をホールでとれていて夜は安眠できていること。薬は1日1回にして毎回手渡しをしているが拒否なく飲んでいること、血糖値は100台で安定していることを伝える。
⑪【リハビリのスタッフ(今回は代表して理学療法士)】
歩行は自立しているがまだ耐久性が低くふらつきがあり、転倒の危険性があることを伝え、家屋訪問した結果、住宅を一部改修し、ベッドをレンタルで入れて夜間はポータブルトイレを使うほうがよいと考えている。時にリハビリをしたことを忘れたりしていることがあると伝える。
【家族】
(本人)家での生活を続けたいが、心細く、息子夫婦が今の家にきて同居して欲しいと思っている。(嫁のせいで息子が同居してくれないと思っている?)カンファ直前で出席拒否。
⑫(嫁)可能な限り世話をしているが、姑に頻繁に絡まれ妄想の対象にもなり疲れ気味。義母の介護につかれ施設への入所を強く希望している。できれば、それまで病院に入院させて欲しいと訴える。「絶対に無理です」と何度もいう。
(息子)自分の家に同居をすすめたい気持ちもあるが、本人も拒否しており、嫁も快く思わず、自分はあまり関われていないこともあり施設入所もしかたがないと考えている。仕事のため今回は参加できず。
⑬(娘)家族が協力し支援を増やすことで、家での生活が続けられないかと願っている。
⑭【ケアマネージャー】
将来的には同居やグループホームなどの利用の可能性も考えつつも、治療食の配食サービスや、新たに町内にできた小規模多機能事業所(訪問介護、通所介護、宿泊をすべて行う。定員25人で要介護度ごとの定額制)を使えば自宅での暮らしを継続できるかしれないという腹案もある。
⑮【訪問看護師】
本人が普段から寂しい思いをしているのを知っており、なじみの人が上手に誘えばディサービスなども利用できるのではないかと思っている。本人へ支援がはいることで家族の負荷が減れば、逆に家族も余裕がでてかかわれるようになるのではないかと考えている。
⑯【訪問診療をおこなっているクリニック医師】
多職種と連携して定期的な訪問診療と緊急往診、24時間の対応をおこなっている。時々、研修医も受け入れている。研修医に訪問の同行見学をすすめる。

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ディスカッション後、ミニレクチャー。
半数弱の参加者は多職種カンファレンスを普段から経験、半数はほぼ初体験のようでした。
数年前は「ケアマネ何それ?」という指導医もいたようですが、介護保険制度も成熟してきたためか、田舎の病院の医師が多かったせいかわりと慣れた感じでした。

まぁまぁ初期の目的は達成できたかな~。

ケア会議の技術
野中 猛,上原 久,高室 成幸
中央法規出版

安曇総合病院の行方は?

2012年11月16日 | Weblog
安曇総合病院の再構築の動向についてはあちこちから注目されているらしくいろいろ聞かれる。

すったもんだの末、安曇総合病院は地域医療再生基金でリニアックの導入は目指さないことになったところまでは周知の事実であろう。

中川院長は「リニアックを入れて看板を掲げ急性期病院を目指さなければ安曇病院は先がないんです!」と主張していたが、あの手この手をつかっても院内の意見はまとまらず、コッソリやるのも限界で勇気ある撤退をすることを決意した。
だいたい「◯◯をしなければおしまいだ」というような物言いで脅しをかけ議論をすっとばし性急な決断を求めるときには何か裏があるのだ。
これに対し、がん征圧をライフワークとし、中川院長とともにこの計画を推進してきた宮澤敏文県議が「准がん拠点病院は大町病院にするぞ!」とおどしてきているような話も聞く。
「どうぞ。」と言いたい。
肺がんはともかく、産婦人科や泌尿器科、消化器外科などがんに関わる科は大町病院の方が充実している。
大町は松本や安曇野市からも遠い大北の中心であるし公立病院の方が補助金などの支援も得やすいだろう。

安曇総合病院では中川院長が撤退するという話や後任の人事などについて噂はいろいろ聞こえてはいたものの情報統制で確たることはわからずオープンにも出来ない状態だった。
それが本日、職員全員参加の参加を要請された職員全体集会がありはじめてこれまでの動きの一部が公表された。
(ってわが国の国会の有様みたいだな・・。)

まずは中川院長から収支の報告。
これって普通、事務長がやることだと思うだけど・・・。
グラフや数字をスライドで示し、今年前半は赤字になった。外来収入は伸びているが入院での収入が減っている。一方で人件費が伸びている。

人件費を抑えて患者を確保しろとのこと。
あいかわらず確保って・・(~_~;) 犯罪者か~。

そんな中川院長は6月に長野厚生連の理事長から、「病院再構築における管理者の中での対立(リニアック問題)に関して、病院運営における安曇病院の危機を感じる。」とのことで名誉ある撤退(?)をすすめられ、派遣元の医局の大学教授からも「安曇病院に残っているのは難しいのではないか?」と言われ来年3月での選択定年(予定より1年早い)での退職を決意したことを発表した。

しかし後継人事に関して両副院長は院長になるのを辞退した。
(まるで副院長が追い出したように思われても困るからだろう。)

この重要な時期に院長不在の混乱を避けるため、かつて中川先生を安曇総合病院院長として紹介した長野厚生連中南信担当の理事である富士見高原医療福祉センター統括院長の井上憲昭先生を中心に後任人事が検討されたようだ。


突然現れて仕切りだした井上先生

その結果、本院、精神科、白馬診療所などをセンター化し独立運営とし、そこに新たに骨盤底治療センター(!?)を追加。
大学泌尿器科教授の西澤 理先生を統括院長として2013年秋以降に正式に迎え先生のライフワークである骨盤底治療センターを開設する方向性となった。
(またもや青天の霹靂!)
さらに本院の院長として2013年4月から整形、リハビリテーション部の畑幸彦先生を迎える方針だそうである。

それらの体制が整うまでの間、井上先生が院長代行として週1回来て診療をやりながら再構築の実務もやるということのようだ。
厚生連の病院同士や信州大学との関係を強化し、安曇病院は大北地区の基幹病院を果たすべく古い病棟の再構築は来年度中に着工し1年半くらいでおこなう方針で、来年2月までに計画をまとめ厚生連の理事会で承認を得る方向とのこと。
実質的に占領軍の統治下に入り、傀儡政権が樹立されるということだろう。


(・・;)??


ベテランの外来看護師さんが
「思いきって発言します。新しい院長には若い先生の声を聞いて欲しい。医局でまとまって欲しい。内科もバラバラではなく一つでまとまってやってほしい。地域の住民として安曇病院が潰れては困る。職員もそれぞれの人は良い人なのだが、まぁいいかとやる気を出さず、つめたくなってきているように感じる。」
と見事に安曇病院のかかえる課題を浮き彫りにする発言をしてくれた。

さまざまな疑問が浮かんでくる。

何故、院長が交代とならなければいけなかったのか?
院長、統括院長、院長代行と3人も院長的な人をつくってそれで組織がまとまるのか?
管理者の中での対立というが一体何があったのか?その総括はどうなのか?
そして何故、この地域で突然骨盤底センターなのか?
(それこそ産婦人科や泌尿器科が充実している市立大町総合病院の方がいいような気もするが)
一般内科医が足りないといっているのに泌尿器と整形外科の院長を二人も招聘するのか?
大町総合病院や安曇野赤十字病院との連携や役割分担はどうなのか。

やはり地域の状況、地域住民のニーズと現場から見て現実的に必要と思われる医療が先というよりも「信長の野望」みたいな旗立てた!のようなことや、大きいことはいいことだみたいな価値観が見え隠れする。

これじゃ、コソコソやってリニアック欲しいといっていたのと変わらんやんけ~(~_~;)。

とにかく、あまり大げさなことはせずにハードとしては在宅医療を推進する地域ケアセンター(病棟中心)だけはつくって、あとは普通にいろいろ使いまわせるシンプルで使い勝手のいい病棟を作り、ソフトとして高齢者を地域で支える仕組みを整備すればいいとおもうのだが・・・。

しかし現実的に政治屋などとうまくやり合い、地域や本所と渡り合い、病棟建て替えを強力に推進していける人材がいないのも確かで、富士見での実績のある井上先生をうまく利用してやっていくしかないのも現実か・・。

地域の医療の未来を真剣に考えてみませんか?