リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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マニック・ドラゴン・ハイテンション

2011年07月15日 | Weblog



やっぱり!(;꒪▱꒪)

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松本龍前復興相「軽度のそう状態」 入院先の病院会見
 



 松本龍前復興担当相(60)=衆院福岡1区=の入院先の九州大学病院(福岡市東区)は14日、記者会見し、病状を「気分障害で軽度の躁(そう)状態」と発表した。「知恵を出さないやつは助けない」など復興相辞任に至った今月初めの被災地での言動については「一部は躁状態が関係した可能性が高い」との見方を示した。

 九大病院によると、会見は報道機関などからの問い合わせが相次いだため、松本氏の家族の要請で、久保千春・病院長らが開いた。病状について、主治医団長で躁や鬱(うつ)など気分障害が専門の神庭(かんば)重信教授(精神医学)が「震災対策で心身ともに消耗し、不眠、生体リズムの失調などが重なり、気分障害が誘発されたと思われる」と説明。発症時期は「6月初めぐらい」と答えた。

軽度の躁状態では気分が高揚し、本人の本意とは違うことを口走ったり、普段ならしない行動を取ったりすることもあるといい、「松本氏の行動のいくつかはこうした精神状態と関連する」との見方を示した。 

Asahi.com(朝日新聞社)2011年7月14日

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その言動で被災者他の怒りをかい、お茶の間を騒がせた、民主党、松本龍前震災復興担当大臣の就任わずか9日目の辞任劇。

ま、それほど間違ったことは言ってはいないのだろうが、「民主党も自民党も公明党も嫌い」と公言したり、チームドラゴンを名乗りサングラスで会見に現れたり、岩手県知事にキックオフだとサッカーボールを蹴ったり、宮城県知事に尊大な態度をとったりして辞任するはめになったが、辞任してからもまったくへこたれず、いい経験をしたとか、九州の人間ですけんとか、B型で短絡的なところがあって、などと下手ないい訳をしたり、突然思いついたようにポケットマネーで長野県栄村にもいったり???!!(;゜д゜) .... !???な行動が続いていた。

あまりに不可解な言動に自爆テロなのではという憶測も流れたほどだ。

もともとお人好しで、尊大で、率直で、オッチョコチョイな人ではあったのだろうが、当院でも「これ、絶対、躁状態だよね。普段からここまでの言動であれば、いくらなんでも大臣までの地位には登り詰められないでしょ。」という話しになっていた。
報道によれば地元の秘書や友人達も普段の物静かな彼とは違う、何かおかしいと感じていたようである。

人が良く、お調子者なのは、まさしくクレッチーマーの循環気質。
どこか憎めない躁鬱病の人の病前性格といわれる。
中小企業の社長などにも多そうなタイプだ。
もっとも周囲がしっかり補佐しないと成功はおぼつかないだろうが。

躁鬱病は別名を双極性障害という。
さまざまなパターンがあるが一生のうちに動き過ぎ、止まれなくなる「躁状態」と、動けなくなる「うつ状態」を繰り返す。

大きく分けて躁状態の時に入院するほどではないが過活動となる双極性障害Ⅱ型障害と、尊大となり唯我独尊となり、入院しないと周囲は振り回され本人も人生を棒に振りかねないほど言動がぶっ飛ぶ双極性障害Ⅰ型がある。

双極性障害Ⅱ型障害は平均的な人との連続していると考える双極スペクトラムという考え方がある。
気分や感情、対人関係が不安定で自傷行為などで周りを振り回し、周囲が辟易する一見、ボーダーラインパーソナリティのように見える人のベースに気分変調があり気分安定薬というタイプの薬を中心にして治療にすると安定することがあるようだというのは近年のトピックスである。(ボーダーラインパーソナリティは状態像であるともいえる。こういう人にSSRIなどの抗うつ薬やマイナートランキライザーは逆効果である。)

双極性障害Ⅰ型障害は遺伝的要因も大きく、病気の中でも別格である。

躁状態の時には病識はなくなり、言動は拡散し、無茶な事業を始めてみたり、貞操を気前よくくれてしまったり人生を破滅させてしまう。
アルコール依存症をはじめとする他の精神疾患との併存も多い。
躁状態の時には病識はなく当初は気分爽快であるが徐々に怒りっぽくなるパターンが多い。周囲が困って病院へ連れて来て強制入院(医療保護入院、措置入院)になることも多い。
そして躁状態のときに使ったエネルギーは長く苦しい鬱で支払わなければいけない。
うつ転したときに躁状態のときにしでかしたことを振り返って後悔し自殺してしまう危険性も高い。
実は単極性のうつ病(うつ状態だけ)よりも双極性障害の方が自殺率は高いのだ。
そういう意味では松本龍氏も心配であるが、自殺する政治家も多い中、医療につながってよかったと思う。

治療としては抗精神病薬や炭酸リチウム、バルプロ酸などの気分安定薬を使うが、内服治療は一生涯にわたり治療を続けるのもなかなか難しい疾患である。
もっとも松本龍氏は普段から対等なパートナーシップをとれないという点から見るとパーソナリティ障害(特に自己愛性パーソナリティ障害)も併存しているとも言えるかもしれないが・・・。

ところで「選挙躁」という言葉がある。
選挙はお祭りであり選挙をきっかけに躁転した患者さんもいた。
まぁ、躁のような勢いを借りないと選挙のようなものはなかなか乗り切れないのかもしれない。
そう考えると政治家には潜在的に気分障害(躁鬱病)の素因をもつ人は多そうだ。

葬式躁というのも有名だ。
悲しいはずの近親者との死別なのに悲しい出来事に引き続いて躁になってしまう。
これは「躁的防衛」という心の防衛機能が働くためと考えられている。

知らなかったのだが「災害躁」という言葉もあるそうだ。
思えば3月11日以来、自分もかなりおかしい精神状態だった。
ストレスフルの状況を乗り切るためには躁的防衛による火事場の馬鹿力の発揮が必要であり、それが止まらなくなってしまうこともあるのだろう。


たとえば全国から被災地支援のために行われた以下の様な行為。

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 願い事、天まで届け=「夢ハンカチ」5000枚―宮城・石巻      


 「行方不明の全員が家族の元へ戻れますように」―。7日は七夕。東日本大震災で被害を受けた宮城県石巻市で、約5000人の子どもに夢や願い事を書いてもらったハンカチを一枚一枚つなげ、空に向かって広げる催しがあった。

 「夢ハンカチ」と題した催しで、佐賀市に住むアーティストの大志さん(36)が企画。知人やボランティアも協力し、宮城県の幼稚園児から高校生までの子どもが震災後の思いを書いたハンカチを集めた。

 漫画家の故石ノ森章太郎さんの作品を集めた「石ノ森萬画館」隣にある公園で、ハンカチをつなげると、約5000枚は直径20メートルの円に。

 大志さんは「震災に遭った子どもたちの閉じた心を開きたい。夢を持ち、明るく元気になってくれたら、親たちも元気になるのでは」と話した。 

(時事通信 7月7日(木)18時41分配信)

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長さ311メートルの応援 被災地に、松本の市民団体
 Asahi.com (朝日新聞社)2011年6月9日




 311メートルに4250人の思いを込めて――。障害のある人たちの社会参加を目指す長野県松本市の市民団体「信州の自然と福祉の会」が、東日本大震災の被災者への応援メッセージをまとめた。震災発生日に合わせて長さは311メートル。東北各県の避難所などに、順次、回す予定だという。

 4月から同市内の小中高校生などに、手形やメッセージを寄せてもらった。8日には、阿部守一知事が「皆さんのふるさとの一日も早い復興を信州から応援します」と記した。前野弘美代表(53)は「みんなの思いがつながっている布。一人でも多くの被災者に見てもらって、生きる力にしてもらえたら」。(野津彩子)

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どちらも、まぁ多大な労力と情熱をもって遂行されたもので被災地の応援として悪くはないのかもしれないが、やり過ぎ、あるいはどこかズレていると感じる人もいるだろう。

ただ、私にはこのようなことを臆面も無くやり切ってしまうことにどこか躁的なテイストを感じてしまうのだ。

躁状態に関する考察に関しては春日武彦氏の以下の本がおもしろい。
今回の様な躁にまつわるエピソードがコレクションされている。

問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ (光文社新書)
クリエーター情報なし
光文社



また躁鬱病で有名な作家である北杜夫氏と娘の共著本も躁鬱病を知るのに参考になる。
「突然、自宅をマブゼ共和国として独立してしまう」とか「一夜にして庭にプールを作ってしまう話し」など、まさに躁がなせる技だ。

パパは楽しい躁うつ病
クリエーター情報なし
朝日新聞出版


ある種の天才性とも関係があり、世の中に彩りと滑稽さ、面白さ与え時には何事かを成し遂げてしまう原動力となる双極性障害であるが、当事者は大変である。
中川昭一氏の事件をきっかけにアルコール依存症に対する理解が広まったように、こういった事件をきっかけに双極性障害についての理解が広まれば松本龍氏も本望であろう。

・・・それにしても分からないのは菅直人総理の精神構造なり。

双極性障害―躁うつ病への対処と治療 (ちくま新書)
クリエーター情報なし
筑摩書房


ちなみに双極性障害の入門としてはこの本がおすすめ。原因論から治療までコンパクトにまとまっている。

いわゆる「新型うつ病」とは何か?神庭先生の講演会。

2011年07月09日 | Weblog
松本で信州うつ病治療フォーラムの講演会があった。
九州大学の神庭重信先生の講演でタイトルは「いわゆる「新型うつ病」とは何か?」



言い尽くされた感じのある「いわゆる新型うつ病」に関するよくある講演とは異なり、内容は文化心理学、社会心理学の知見を盛り込み話題は脱線しつつ多岐にわたった興味深いものだった。
印象に残ったところをピックアップ。


こころには世界共通の普遍的なmindと、文化に依存するmentalityがある。
集団主義や個人主義というのは後天的に獲得された形質。
民族、地域ごとに異なった、いわゆる文化的アフォーダンスにより我々の思考や​行動は規定されている。
(ちなみに性差や発達特性の差異による個人因子にもアフォードされていると思う。)

日本は個人主義的になってきたところもあるとはいえ、As if 個人主義といった段階。

新型うつ病の人に対しては、ついつい皮肉な眼をむけてしまうがこれはいけない。
(これ自体すでに文化的アフォーダンスの一例だろう。)

ずるずると職場でうつ状態が続く、適応障害やいわゆる新型うつ病のような病態はオーストラリアでは精神的医学的に問題になることはないそうだ。
それは、そういう状態になれば、やめればいい、横にうつればいいから。
そういう道があるから。

集団主義的な日本ではまだまだ村社会、縦社会であり、その中でポジションを維持しようとするから苦しくなる。本当はより自分にあった生き方を求めてドロップアウトしたり横に動けばすむはずなのだが・・・。

また、かつては企業にも余裕があり、うつ病者も、ゆったりとリハビリしたり、居場所を見つけることもできた。
しかし今や企業にも余裕は無く、医学に復職リハ(リワー​クプログラム)を期待し、100%良くしてから戻って来てから即戦力とし​て働いてもらいます、というスタンス。

しかしこれには無理があるのではないか。

新型うつ病とはいえ治療は急性期には良質な休養と薬物治療が中心(笠原の小精神療法のような。)
症状が軽快したらリハビリと精神療法にウェイトを移す。
その際、弱みでは​なく強み(ストレングス)に眼を向けることも大切。
本人の長所を活かしつつ、短所の成長を促す。
病棟に短期間入院したりリワークのプログラムでグループ(セルフヘルプ)の力を引き出すのもよい。
だいたい3年くらいでよくなるが、休養期間の切れ目がきっかけとなることも多い。
(期限がないと人は動けないもの。)
期待より希望をあたえるように。
「いずれ、よくなるはずである。」と言うのが良い。

しかし診察室でできる精神科医の仕事には限界がある。

復帰してもまたすぐにダメになる職場は上司が未熟なことが多い。これは上司を呼べばわかる。
未熟型うつ病の未熟とは上司が未熟なのではないかと思うほどだ。

鍵となるべき産業医も精神疾患への理解はまだまだで、聞きかじってあたかも分かった様なことを言う人や、精神疾患は一切関わらないというスタンスの人が多い。
うつ病を理解し、職場と当人の間に入り一生懸命ていねいにやってくれる人はまだまだ少ない。

場合​によっては仕事をやめることがよくなる道かもしれない。
やめることや、降参することが​恥ではない社会、再​チャレンジも許される社会、ならばいわゆる新型うつ病の病態もかわってくるのではないか。
個人主義的、個々が確立​している国民が作ったやり方である認知行動療法もいいが、我々に​はあるがままを受け入れる森田療法的な生き方が合ってい​ることも多いのではないか。


ってな内容でした。

うつになってはじめて休める。価値観の転換を迫られる・・・・。
やはり価値観の​転換、優先順位の付けなおしがリカバリーにはもとめられますね。
期限が大切というのも身につまされます。
弱者へのまなざしが優しく、いろんな価値観が許され、降りて行く生き方も認められる文化なら、うつになる人も自殺する人も減るんじゃないかなと思いました。

疑問に思ったのは、気候が良く一生懸命働かなくても食べて行けて、仕事をシェアするインドなどの南の国は?社会保障制度がととのった北欧の人は?ワークシェアリングのすすんだオランダは?個人主義のフランス、人生を楽しむラテンの国々の人は?イスラムの人は?いわゆる「新型うつ病」のような状態になるのだろうか?ということ。
それぞれの国の人に聞いてみたいものです。

あと、講演会後に同僚とディスカッションしていて
「現代は選択肢は増え、組織から飛び出ての横への移動は昔と比べてやりやすくなっているはずではないか?それなのに新型うつ病が増えているのは何故か?」という話しになりました。
これに関しては確かに選択肢は増えたけど、移れる条件の人とそうでない人がいる。
皆が同じようなコースしか無かった時代、同じ夢を見られていた時代は他の選択肢のことなど考えもしなかったし、いつの時代にも突き抜けた人はいただろうがそれはごく少数であっただろう。
震災後の物資の支援のときにも明らかになったが、日本人は皆で我慢することは強いが、不公平感に弱い。
選択肢は増えたように見えるが、個性的な生き方を選ぶことに躊躇しない個が確立した人は今でもそれほど多くない。
その辺りに苦しさがあるのではないか・・・。
という話しになりました。

これこそがAs if 個人主義なのでしょうか。

プライマリケア連合学会見聞録

2011年07月04日 | Weblog
大学時代の後輩の結婚式とプライマリケア連合学会があるので札幌に行って来た。
北海道に行くのは実に5年ぶりでずいぶんのご無沙汰だ。

プライマリケア連合学会は病棟総合医(ホスピタリスト)や医学教育が中心の総合診療学会、開業医の多いプライマリケア学会、新進気鋭の若手の多い家庭医療学会が合わさった学会であり、学生や薬剤師や看護師の参加も多くプライマリケアに関わる多職種の学会を目指しているようだ。
若手からベテランの町医者まで様々な立場の人がおりまとまるのは難しいところもあるだろうが、技術からではなく個人や地域のニーズをベースとし、地域づくりまで関わっていこうというスタンスは共通している。

理事長の前沢 政次先生の、良い加減な雰囲気と人徳でまとまっているのだろうとおもった。

学会は発表やシンポジウムは雑多な内容であったが、ワークショップなど参加型の企画が多くコンベンションとしての意味合いが強いように思えた。
ジェネラリストというのは地域や患者のニーズによって自分をあわなければならずアイデンティティを確立するのが大変と言われるが、若手部会なども活発なようで、こういう場をつかって繋がりを育て仲間を増やしているようだ。
クリニックの継承者を探したり、病院ごとの研修プログラムの紹介などでのリクルートの場にもなっているようだった。

懐かしい佐久総合病院時代の先輩や同期、後輩、そして北海道で地域医療をされている先生方とお会いすることができた。
自分が今は精神科でやっている聞いて、「(裏切って)違う世界に行ってしまったのね。」とでもいいたげな冷たい反応の人もいれば、「ほぼ近いことを多少違う立ち位置からやっている。一緒に頑張ろう。」と言ってくれる人もいた。

自分の興味や適正と、地域のニーズの合わさるところがたまたま精神科だっただけなのであるが・・・。
精神障がい者というのは医療支援をうけることそれ自体に支援が必要な人たちであることもあり、ある意味医療が行き届いていない過疎地でもある。
慢性疾患を多く相手にするプライマリケア医に、付き合いの難しい患者さんと付き合って行く技術やスタンス、リカバリーやエンパワメントの視点があってもいいし、精神科医にもプライマリケアの技術(コモンな疾患とエマージェンシーの対応)も求められていると思うのだが・・。
実際、うつや不安障害、アルコール依存症へのブリーフインターベンション、動機付け面接法、ワークライフバランス、医師の問題行動について考える・・など精神科的な内容のセッションも多かった。

そのようなことをみていると、どうせならせっかくプライマリケアの実践を行う人が集まる場なのだから、いろんな専門科の学会がブースやセッションをもって最新の知見を披露し、プライマリケア的には最低限どのような知識をもってどのような対応をしてほしいのかということをコンパクトに伝えられる場にすればおもしろいのにと思った。

P.S
ところで抄録をみると、ランチョンセミナーで1日目のファイザー(ジェイゾロフトの会社)が主催のときは、「かかりつけ医のためのリスクの少ない実践的なうつ病治療」とかいって血中濃度が投与量に比例して上昇する「線形性」の薬剤を推奨(ちなみにジェイゾロフトは線形、パキシルは非線形)とか言っていて、2日目には旭化成ファーマ主催(トレドミンの会社)で「生き辛くなった日本社会・急増するうつ病と自殺者ーうつ病治療の第一洗濯としてのSNRIの意義」とか言ってデュアルアクションの薬剤を推奨・・とか言っているのは露骨すぎ。ランチョンセミナーはスポンサー付きのフリーランチだからこんなものなのか? どっちもいい薬なんだけど。