リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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噴飯モノ。「精神科は今日も、やりたい放題」?

2012年07月31日 | Weblog
「精神科は今日も、やりたい放題~”やくざ医者”の、過激ながらも大切な話」という挑発的な本が大々的に売られています。

精神科は99%が誤診!ついに出た、医学界内部からの告発 精神科ほど、甘~い商売はない。というキャッチーな帯がかけられ、近くの書店でも本棚の大きなスペースで並べられ、これまでに累計10万冊以上も売れているようです。
苦しむ患者さんをなかなか良くすることができない精神医療を叩くのは気持ちがいいですから、世の中には、このような言説を求めているのでしょう。最近のNHKの番組を始め、この様な言説が出てくるのは精神医療周辺ではいつものことなのですが、これは病気で苦しんでいる患者さんや真摯な精神医療従事者にとって非常に失礼な話です。妙な精神科に対するルサンチマンが渦巻いています。
精神科をたたくことで病者が救われるなら文句は言いませんがね・・・。

内容はよくぞこんな本がかけたものだというレベルで個人的に見れば、怒りを通り越して笑える本なのですが、こういう言説が広まることで精神医療による医療被害と逆の意味で不幸をつくりかねないので、この場で一応反論させていただきます。

精神科は今日も、やりたい放題
内海 聡
三五館


東洋医を名乗る内海聡氏は、初期研修後に内科、消化器内科、東洋医学などを研修、大学卒業後わずか7年目で御開業されたようです。
精神科での研修の経験はないようですが、精神科セカンドオピニオン活動として漢方薬を使い精神疾患の患者さんも見るようになったようです。すごいですね~。
ブログもはこちら→(東洋医の素人的処方箋

きっとそこで大量処方をうけていた患者さんの減薬が、たまたまうまくいって感謝されたケースが続き、自分をヒーローか神様かと勘違いしたのでしょう。
このあたりは「こころの病は脳の傷」の京橋未来クリニックの松澤医師と同様ですね。

参考:サイコビジネス魑魅魍魎~こころの病は脳の傷?~

この本はいわゆる反精神医学やサイエントロジーの流れを組む内容で内海氏は精神病を否定し精神科は存在自体が悪と主張します。あろうことか精神科医と親が共同虐待していると主張しています。(これは苦しんでいる当事者や家族にとってセカンドオピニオンならぬセカンドレイプですね・・)
そして精神病は甘え、自己責任であり、登山やサウナで治せという論調で、躁鬱病や統合失調症、発達障害をDSMもびっくりの私見で独自に定義しています。

曰く「誰でも支離滅裂になる時がある。統合失調症を病気であると判断するその概念そのものが、社会がロボット管理を求めるがゆえの「おかしな行動は許さぬ」という思想に等しいのだ。百歩譲って本物の統合失調症があるとしても、薬を飲みたい患者さんだけが、最低限度で飲んでいれば良い話ではないか。薬で統合失調症になる。うつのほとんどが社会ストレスが原因。まともな精神科医などいない。」
と精神病の現状を無視したパラノイッシュな主張です。

患者さんや家族の苦悩などいざしらずですが、苦しんでいる人がいるのに、そんな現実は無視してそんな病気はないというのは酷い差別ですね。

もっとも精神医療の負の歴史はあり、世間には未だにひどい精神医療をおこなっているところも確かにあります。
林公一先生がその著書「サイコバブル社会」でも述べられているように精神医療の領域が無節操に拡大し製薬会社のディジーズモンガリング戦略に踊らされたチェックリスト医療などがはびこりつつあることも否定しません。

しかしそんな精神医療を生み出して存続させているのも現代のこの社会なのです。

このブログのエントリーは参考になります→精神科に「やりたい放題」にさせた「システム」(狂気をくぐり抜ける)

これまで社会があらゆる厄介事を精神医療に押し付けてきたのにもかかわらず、社会が精神医療をどう受け入れていくのかを考えるのではなく、精神病をなかったコトにして精神医療を全否定して悪者にするのはおかしくないでしょうか?
精神医療を諸悪の根源としてで現実がよくなるならよいのですが、そんなに単純なものではありません。

私だって「医は医無きを期す、精神医療は精神医療無きを期す」とおもっています。
医師は自らの医療実践ををつねに省察することも必要ですし、医倫理と科学的、統計学事実をもとに患者さんに害をなさず益となるように責任を負う最後の砦だとおもっています。ヒポクラテスの時代から医師は"Do not harm."が大原則ですから。

まぁ、世の難題を目の前にした時に無責任な非専門家のコメンテーターは「的はずれな一点突破」を好みます。
著者の内海聡氏は「精神科さえ存在しなければ、人々は自分で精神的諸問題を解決するのだ。」「精神科医は危険な毒を出す薬屋であり、収容所の管理人にすぎない。その人間たちに癒しや根本的な解決など決して望んではいけないのである。」と主張しています。

すべての精神科医が患者さんを不幸にしようとする悪の手先だとでも言うのでしょうか。
内海氏は精神科に受診する前の10の心得を上げ、精神症状への対処方法として登山やマラソン、太極拳やヨガ、断食、教育などをすすめています。
それだけの余裕のある人はすればいいと思いますし別に否定はしないのでですが、落ち着いて考える事もできず、せっぱつまってそんな余裕もない人もいますし混乱している人はどうするのでしょうか。

そもそも上手に支援を受けられず支援を受けることそれ自体に支援が必要なこともあるのが精神障がいです。
まず、支援につながるまでが大変なのです。
そして精神医療に関わるものは時には患者さんに攻撃されることもありますし、家族や当事者のサンドバックになることが必要な時もあります。
これは精神医療の業(カルマ)でしょうね。

また本来的には精神医療の役割ではなく他の支援(経済的なことや司法や宗教など)が適当な場合でも医療、特に精神医療につながればとりあえず自死をせずにすみ、他の継続的な支援につなぐ可能性があるというワンストップの窓口としての意味もあります。
適切な支援につながらないことで自殺や自傷他害に至る悲劇も多いのです。

社会の見たくないものは見ないという態度がスティグマを産み、有効な介入のあるはずの疾患への介入が遅れます。(この本はそれを助長するものです。)

内海氏は自分のところに来た精神医療から逃げ出してきた一部の患者(信者?)の例からしか、精神医療を見ていないのでしょう。
本当に重症の精神疾患をかかえる方やその家族の現実とがっぷり四つに組んで付き合い続けた経験などないのではないのでしょうか?
精神科救急の現場に携わったこともなく精神科のトレーニングも受けておられないようですので無理もないことですが・・・。

内海氏が非難するダメな精神科医同様、内海聡氏がもし精神疾患の患者さんを相手にしているのにもかかわらず精神医療をきちんと勉強しようとしないならば、それは患者さんにとって非常に失礼なことですし悲劇を生みかねないことだと思います。

医師を続けることは許されません。

内海聡氏は不思議な熱意と正義感をもって取り組んでいらっしゃるようですが、氏の思考には様々な認知の歪みがみられるように思えます。
内海氏が全知全能の神ならともかく、精神医療を全否定してしまっては救われるものも救われません。
氏がすべての精神病をかかえる方や家族を救ってくれるなら文句は言いませんが・・。

こんな本がスティグマを広げ、苦しんでいる人を適切な医療介入から遠ざける事になるならそれこそ悲劇です。

今日も、やりたい放題なのは内海聡氏とこの本をだした出版社なのだとおもいます。

逆説的ですが、反精神医学を主張する人々に居場所や生きる目的をつくっているのも精神医療だったりしますしね。
内海聡氏も信者をのぞき世間からも相手にされなくなってきているようで、この調子がつづけば最後には内海氏の否定する精神科でしか相手にしてくれなくなるかもしれませんね・・・。

まぁ、現場としては真摯でまっとうな実践を淡々と続けるのみです・・・。

※認知の歪み10パターン

全か無か思考、過度の一般化、心のフィルター、マイナス化思考(プラスの否定)、結論への飛躍、心の読みすぎ(読心術)、先読みの誤り、拡大解釈(破滅化)と過小評価、感情的決め付け、すべき思考、レッテル貼り、個人化(責任転嫁)

精神科ってどうなの?という方には次の本をおすすめします。「ツレがうつになりまして」、や「私の母はビョーキです」、「日々コウジ中」などなどのマンガを題材に精神障害やその対応について林公一先生が説明しています。

名作マンガで精神医学
林 公一
中外医学社

地域医療推進セミナー@信州大学

2012年07月28日 | Weblog
市立大町総合病院にもいらしている中澤勇一先生にお招きいただき信州大学でお話をしてきました。
中澤先生は長野県の寄付講座でもある地域医療推進学講座の准教授の先生で、地域医療の学生実習や研修のコーディネートなど幅広い活動をされています。

地域医療に関わることなら内容は自由とのことでしたので、「リカバリー志向で行こう、弱さを絆に地域を紡ぐ医療実践」というタイトルとさせていただきました。

スライドはこちら

2ヶ月に1度程度開催されていて、今回で23回目となるセミナーですが、これまで佐久病院時代の指導医だった川尻先生や長先生、北澤先生、諏訪中央病院の佐藤泰吾先生など、自分も大変お世話になってきた先生方も話しているセミナーのようで緊張しました。
大町総合病院で医療再生に取り組まれている外科の高木先生も話したことがあるようです。

学生のほか、うちの研修医や公衆衛生の先生なども来てくださり、新たなつながりを持つことができました。

唐松岳学校登山付き添い

2012年07月26日 | Weblog
山に囲まれた長野県の中学校や高校は学校登山というのがあります。
先日、地元の中学の学校登山の付き添いに行ってきました。

当院にも毎年、地元の複数の中学から医師会を通じて学校登山の医師の付き添いの依頼が来ます。
医師会の開業の先生は高齢で医院を休むわけにも行かないので、若い医者の多い病院に回ってくるのです。
学校登山で喘息死がでてから医師が付いて行くようになったといいます。

地元の中学校の教育現場の雰囲気に触れられるので貴重な機会です。不登校や発達障害の相談を受けることも増えてきているので・・。
年に1回の楽しみ?です。

前もって、その日は、外来を休止にして段取りを付けますが、雨などで中止となることも多いです。
昨年は雨で中止となり、予備日も雨で中止となりました。

ずっと爺ヶ岳ばかりだったので今年は唐松岳・・。
早い者勝ちです。
変化に飛んだ人気のコースでゴンドラとリフトでかなり高い地点からスタートです。

しかし、同僚がついていった別の学校では滑落の事故がありヘリコプターで運ばれたという話を聞き緊張しました。

山では何があるかはわかりません。
毎年行っている危険なところの少ない安全なコースを選んでいる言え、先生が1対1でついていられるわけではなく、天候も変わりえます。
体力や病状的に懸念のある子どもはドクターストップがかかっていますが、不登校であっても学校登山だけには出てくる子などもいます。
教職員向けのしおりに「山頂では多動児に注意」とかいていたり、他動で危ない子は先生のもつ杖を話さないようにして移動したりしていたこともありました。

今回は、ガスが多く曇りがちでしたが、かえって暑くもなく雨もふらずちょうどいいくらいの天候でした。
事故や急病もなく良かったです。

唐松岳のコース、花の種類と量は圧倒的でした。
「北アルプス花三昧」と銘打っており観光地でもあり、リフト+1時間程度でいける八方池まではツアー客や観光客もたくさん来ます。


ニッコウキスゲ、別名エゾカンゾウです。


キヌガサソウです。

季節をさかのぼりながら山に登ると、マイヅルソウ、ゴゼンタチバナ、エゾカンゾウ、シラネアオイ、ウルップソウ、ヨツバシオガマ、チングルマ、コマクサ・・・・・。色とりどりで形も大きさも様々な高山植物に出会います。

名前の通り北海道の海岸部、礼文島や千島に連なる場所では平地で咲いていることもある花です。
なんとも不思議な感じがしますね。

小学生や親子連れ、遠方の修学旅行の中学生もたくさんいました。
そこから先の丸山ケルン、唐松岳山頂までいく学校もありますが、登山という感じになります。
長野県の中学校は山小屋での宿泊です。100人以上もいる学校とのすれ違いは大変です。


山頂に行くまではガスがあったのですが、山頂では日がさし、富山側の視界が一部開けました。


山頂から荷物をデポした唐松山荘まで下ります。コマクサが咲いています。


山荘の食堂から正面に「点の記」で有名になった剱岳が正面に見えます。
カレーを食べて就寝。翌朝のご来光は残念ながら曇っていて見えませんでした。


白馬三山を雲が乗り越えてきています。壮大な景色ですが、すぐにガスがでてきました。


小さな雪渓を下ります。



リフトの駅が近づいて来ました。
遠方に白馬の街が見えます。パラグライダーも飛んでいました。

下山後、学校の先生やガイドさんたちとのお疲れ様会も楽しみの一つです。
温泉に使ってから合流。少し時間があったので、小谷村診療所に寄っててかつての同僚にあってきました。

こういう場では地元の山岳ガイドさんの話や、学校の話が聞けて面白いです。
中学のいじめの問題が取り沙汰されていますが、当地の子供たちは皆、本当に大事にされて、先生方、地域の人に愛されていることを感じました。

学校登山付き添い

家族介護者の会交流会

2012年07月14日 | Weblog
7月13日午後、池田町保健福祉センター「やすらぎ」で地域の家族介護者の会、交流会が開催されました。
池田町地域包括支援センター、地元の事業所、安曇総合病院認知症疾患医療センターの共催です。

今回は40人程度の家族、介護者と10人程度の支援者の参加がありました。
長年介護されてきたベテラン、誘いを受けてはじめて参加された方、はじめて認知症をする方・・
また介護者としては配偶者、息子、娘、嫁などさまざまな立場の方が参加してくださいました。

企画として寸劇、ミニ講演、介護体験の発表、茶話会の4本立てでした。





包括や病院、事業所のスタッフが事前に2回ほどあつまって打ち合わせて、認知症がテーマの寸劇の練習もしました。
やっているうちに地元のネタなや、認知症の方と家族にありそうなセリフなど、アドリブがどんどん出てきて、脚本にとりいれられます。



認知症のおばあちゃん役の主役のIさん(ディサービス高姫所長)、上手すぎです。



カーテンコールでの役者の紹介です。
安曇総合病院の研修医も医師役で出演しました。

つづいて「ハローグッバイ!認知症」というタイトルでミニ講演。

認知症はどちらかとえば「病気と思う」、「老化の一種と思う」は半々でした・・。
死に方ではPPK(ピンピンコロリ)の心筋梗塞や巨大脳卒中が圧倒的な人気で、認知症は人気がありませんでした。
ぼけ封じ観音やぴんころ地蔵が人気なわけです。
個人的には条件がととのえば認知症も悪くはないと思いますが、その条件というのが大変です。
地域社会も文化も変わらなければいけません。

その後、認知症の姑を長年介護された、介護経験者のお話がありました。



最期にグループに分かれて、お茶やお菓子をいただきながらの交流会でした。
認知症に気づいたエピソードとか、運転をどうやめてもらったか、とか、ショートスティが1週間か1ヶ月しかダメだと言われたとか・・。

診察室とは違う形で家族介護者ののリアルな話が聞けました。

いつ終わるかもわからない介護を続けていくことは大変です。
でも、こういうところに出てこられる人はいいのでしょう。
抱えてしまっていて男性介護者などどこにも繋がっていない人が心配ですね。

もっと気軽に参加できるように定期的に開催してオランダのアルツハイマーカフェみたいになればいいとおもいました。
(スライド参照)
今後も事業所ごとの持ち回りで介護者家族の会は続けていくようですので、はじめての方も近くの日程で参加できるといいですね。

例によって寸劇のシナリオをアップしておきます。
認知症の劇のシナリオのニーズはあるようですので、もしよろしければ地元の言葉に手直ししてご自由にお使い下さい。
(左のコラムのメッセージから一言連絡をいただけると嬉しいです。)


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   認知症寸劇「新薬登場 ボケ封じの薬の巻。」

母:(ウメさん)認知症をかかえるおばあちゃん。
嫁(サツキさん):認知症なのだからと何もさせない嫁
娘(ノブコさん):認知症の母を受け入れられずサプリメントや脳トレをさす。
息子(ヒロシ):やや無関心な息子。
医師:普通レベルの医師
上條さん:ディサービスのスタッフ

「だんだんだだーん、ボケていく、だんだんだだだーん忘れてく。八十代の忘れにボケボケ、お医者さんに相談だ・・・。」

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嫁:「ぼけてしまえば本人は楽だけど、まわりは大変よねぇ。ひとさまには迷惑をかけたくないわ・・・。ピンピンコロリと逝きたいわね。」

娘:「みじめだわ。認知症にはなりたくないね。」

息子:「「認知症の新しい治療が始まっています」というCMをやっていたね。認知症は薬で治るようになったのかい?」

さぁ~?・・ガヤガヤ・・。

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ナレーション:膝の手術のために安曇総合病院に入院したおばあちゃん。慣れない入院で夜になって混乱してしまいました。

母:「ここはどこだい。たすけてくれ~。こんなところに閉じ込めて。何するだい!」

診察や検査、頭部CTなどの結果、アルツハイマー型認知症と診断されました。

医師:「アルツハイマー型の認知症が疑われますね。」

嫁:「やっぱり。お義母さん、最近、迷って帰れなくなったり、同じ物を何回も買ってきたりしてどうも様子がおかしいと思っていたのよ。」

息子:「あの、アルツハイマー・・・ってどういう病気なんですか?」

医師:「脳が徐々にやせていく高齢には比較的ありふれた病気です。物忘れなどの症状がすすみ、日常の生活が困難となってきます。」

息子:「入院したことで認知症になってしまったのですか?」

医師「いいえ、もともと認知症が徐々にすすんできていて、新しいことを覚えたり、ここはどこかをなどを認識する能力が低下していたところに、入院して混乱したのだと思います。」

嫁:「先生、それは治す方法はあるのですか?」

医師:「現在でも症状の進行を多少遅らせる可能性のある薬はあります。
しかし大切なのは周囲の人の理解と支援です。それがないと本人は混乱し不安定になります。認知症をかかえる人の気持ちを理解することと、歩くのが大変になったら車椅子や杖が必要なように、認知力が低下して難しくなっていくことに対しての支援が必要ですね。地域に増えてきた様々なサポートも活用するのがいいでしょう。」

息子:「・・まぁ、おばあちゃんも歳だし、そんなもんでしょうね・・・。いいほうじゃないのか。」

嫁:「お義母さん、認知症なんですって。もう一人で出かけないでくださいね。」

母:「そうかなぁ・・。」
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ナレーション:しばらくして。おばあちゃんは離れて暮らす娘とともに外来を受診しました。
(先生・・・こんにちは)
娘:「お義姉さんところでは、認知症だからって何もさせてもらえないようなんです。あんなところにいたら母がまいってしまいます。なるべく私のうちに来て過ごしてもらうつもりです。」

母:「私は大丈夫。自分のことは自分が一番良くわかっているんだからね。」

娘:「うちに来ているときのお母さんの表情は違います。きっと認知症なんかじゃなかったのよ・・・。私が用意した脳トレのドリルだって毎日楽しんでやっていますし・・・。この縫い物も母が作ったんです。治ったんでしょうか。」

医師:「うーん。そうですね。役割を持って楽しんでやれるならいいと思います。」

娘、「そういえば、認知症の新しい治療があるっていうじゃないですか・・。一番いい薬をください。とにかく母の認知症をすすめないためには、なんでもさせますから。」

医師:「そうですね認知症の薬として、日本では長らく一種類の薬しかありませんでしたが、昨年から使える薬が少し増えました。」

娘:「それはどんな効果があるのですか?」

医師:「残念ながら今使える薬はどれも根本的に治したり進行を止めたりするわけではありません。効き方にも個人差がありますし・・。
効く人には脳を活性化して症状の進行を半年~2年くらい遅らせる効果くらいですかね。ただ副作用として下痢や吐き気などのお腹の症状がでることがありますし、徘徊や怒りっぽさなどの症状をあおってしまうこともあるので注意して使わなければいけません。」

娘:「そうですか。」

医師:「薬は上手に使えば、いい時間をつくるのに役に立ちます。でも認知症に関する理解と支援も大事です。一緒に考えていきましょう。」

母:「ボケ封じの薬、飲んでみます。」

ナレーション:しかし認知症は徐々に進行し、さまざまなことが困難になってきました。ある日おばあちゃんが洗濯をたたんでいると・・・。
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嫁:「ただいま~。仕事から帰って来ましたよ・・・。あっ、お義母さん、それは私がしますから、休んでいてくださいよ。」

母:「サツキさんが忙しい忙しいっていうから手伝おうと思ってやっているじゃないかね、なにいっているかい・・。」

嫁「お義母さん、いつも膝が痛いって困っているじゃないですか・・・。ん、ちょっとあら、何の匂いかしら、焦げ臭いにおいがするじゃない。」

母「そうかい、におうかい?」
嫁、「お、お義母さん、大変、鍋が焦げているじゃない!火事になる寸前でしたよ。
   もう、お義母さん、火をつかうことは二度としないで下さい!」

息子「なんだいまた喧嘩しているだかい。」

母:しら~。

ナレーション:次々とこのような困ったことがおこって来ました。
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娘:「薬も飲んでいるのに、もの忘れが進んでいます。新聞の一面の下の本で紹介されていた偉い医学博士の先生やっている東京のクリニックまで連れて行って診てもらいました。
赤身肉とバナナを食べて運動して、サプリメントを飲めば脳の傷が治るって・・。でも、すごく高いんです。この薬・・。先生のところで出してもらえますか?」

医師:「うーん、それは普通に食事をしていたら十分とれるビタミンですね・・・。」

母:「なんだい?なんだって・・・?」(戸惑った様子)
 
娘:「とにかく、これ以上もの忘れがすすんだらうちで暮らせなくなります。他に薬はないんですか!」

医師:「うーん。今飲んでいる薬の組み合わせがめいいっぱいです。」

娘:「お母さんちゃんと薬を飲んで、脳トレのドリルも毎日やりましょうね。」

嫁:「今日は長く時間がかかったわね・・。おまんじゅうかって帰りましょう。・・病院にくるのが大変だから、家まで先生が来てくれればいいのに・・・。」

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嫁:「。今日はおとなしくしてましたか?お母さん、なんにもしなくていいですからね。さて、私は買い物に行ってくるからお留守番していてくださいね。」

母:「おとうさん~。みんながいじめるだ。早くお父さんのいる西の国に行きたい。薬はのみたくないだ。毒をのませようとするだよ~。」

ナレーション:おばあちゃんはいたたまれなくなり家から出ていってしまいました。

母:「家に帰るからね、あたしゃ・・!」

(・・・出ていってしまう。)

嫁「あら、おばあちゃんがまたいない。あ、ノブコさん、お母さんが見当たらないのよ・・。」
娘「おばあちゃーん。どこへいったの・・。」
嫁「おばあちゃん、帰ってきて下さい~。」
息子「ばば、どこ行ったんだ・・・。警察に連絡しなきゃだめかな・・。」
(しばらくウロウロする)
(・・・・ディケアのスタッフとともにニコニコして帰ってくる。)

娘、嫁「あ、いた、よかった・・・。」
嫁:「あ、高姫の上条さんじゃない。」

ディスタッフ「ウメさんをディサービスの送迎の途中でお見かけして・・・
庭の畑の収穫も手伝ってくれたり、子どもと遊んでくれたり。
とっても助かったんですよ。サツキさんのお手伝いをしたいと話を伺っていました。」
母:「ほら、お茶出してあげて・・・。」

嫁「そうだったのね、おかあさん、出来ることだってたくさんあるのに、役割を全部奪ってしまってごめんなさい。」
娘:「認知症になったお母さんを受け入れられなくて、頑張らせてしまってごめんなさい。」

母:「どうにかこうにか若い時のようにやれりゃあいいだがね。私くらいの歳になればサツキさんものぶこさんもわかると思うよ。」

息子「母さん・・。わるかったよ。認知症だからってお母さんはお母さんなんだよな。みんなの力を借りながら支えていくから・・・。」
上條さん:「また、うちのディサービスに来ていろいろ手伝って下さい。」
嫁:「あら、先生もきてくださって・・・。」
(ガヤガヤ・・・)
医師:「良かったですね・・・。」
*********************************

その後のおばあちゃん。認知症は少しずつ進行していますが、みんなの力を借りて、ディサービスなども利用して楽しく穏やかに過ごされています。


これまでの寸劇。

「どうなる!どうする?認知症」の寸劇。


どうなる!どうする!認知症 再び




北アルプスを囲む2次救急病院交流会

2012年07月02日 | Weblog
6月30日土曜の夕方から安曇野赤十字病院救急部の主催で初の「北アルプスを囲む2次救急病院交流会」が開催されました。




北アルプス山麓の複数の病院から救急外来に出ている初期研修医、指導医参加が参加しました。



他の病院にも声をかけましたが今回参加があったのは市立大町総合病院、安曇総合病院、安曇野赤十字病院の3病院。
安曇野赤十字病院には5人、安曇総合病院には4人の研修医がいます。(信州大学病院とのたすきがけを含む)
大町市立総合病院には信州大学のプログラムの一環として1ヶ月ごとに研修医が来ているのですね。



経営母体が違う病院でこれまであまり交流はありませんでしたが、救急医療や研修医教育を通じてはつながれそうです。

・大北の医療の要でお産もやっていて老人保健施設もある大町総合病院。
・精神科病棟やディケアがあり、整形外科手術も盛んで、リハや在宅医療に力をいれていて、血液内科もある安曇総合病院。
・ER方式の救急部や脳外科もあり、心カテなども緊急治療もおこなっている安曇野赤十字病院。

将来的にはそれぞれの病院の特色を活かした地域型の研修プログラムができるといいと思いました。

トップはdisり合っているようなところがありますが、現場にはそんな余裕はありません。
患者さんのことではお世話になっていますし現場同士でとっとと繋がってしまいましょう(^_^;)



今回の勉強会はドクターG方式のケース検討のあと、日赤の神経内科の中野武先生の脳卒中に関するレクチャーがありました。
日赤の副院長でもある中野先生は、スキマ産業医だそうで、神経内科だけではなく、高齢者施設の嘱託、回復期リハ病棟、研修医教育など広く活躍されています。どの科でも見たがらないような患者を積極的に診たりしているそうです。
こういう先生は本当に貴重ですね・・。
安曇総合病院に来て欲しい・・・(^_^;)

安曇野赤十字病院では月に1例くらいある脳梗塞のtPAによる治療も救急部と協力しながら行なっているそうです。
今回は脳卒中の初期治療の基本や、めまいや頭痛に潜むピットフォールについてお話をいただきました。

突発の頭痛でのくも膜下出血、めまいでの小脳梗塞、小脳出血は見逃しの多い疾患で注意が必要ですね。



その後、院内のレストランで交流会が開催されました。
新築されたばかりの安曇野赤十字病院、院内にいいレストランがあっていいですね。



さらに遅くまで2次会も・・・。
豊科は(池田とくらべると)都会ですね。飲食店も多く歩いてハシゴができます。いいなあ。

大町病院外科のT先生が研修医や日赤救急部のF先生にFacebookをしきりに進めていました。
すっかりFacebookにはまっていて勢いで大町病院のFacebookページも作ってしまったようです。

同じ地域で患者さんをお願いすることは多くても、あまり直接交流することがなかった3病院がこういう形でつながれたのは良買ったと思います。
直接、交流があると患者さんのことでも相談などもしやすいですしね。
準備にあたって下さった日赤の救急部の先生方、事務局のUさん、参加して下さった方ありがとうございました。
第2回以降がつづいて開催できるといいですね。