リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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地域から見た地域支援~信州精神医療交流会

2012年02月26日 | Weblog
ビレッジ安曇野で恒例の信州精神医療交流会があった。
メゲそうなことも多くて時々は集まってヤイヤイ言ってないとやってられない仕事だから・・・。
対人援助職にはこういう集まりは多いのよね・・。

最近は木曽の金松直也先生を囲む有志の集まりの勉強会といった雰囲気になりつつあったこの集まりも、今回は松本、伊那、佐久、善光寺(そして諏訪)の4つの平から参加者があり合計で50人も参加があった。
北信病院、佐久病院、諏訪湖畔病院、こころのケアセンター駒ヶ根病院、安曇病院、いくつかのメンタルクリニックのドクター、各地の障害者総合支援センタースタッフ、事業所などのスタッフなどが参加。
最近ではまれにみる盛況であり、名実ともに信州精神医療交流会という感じであった。

まずはそれぞれの所属から一言づついただき近況を報告。
北信総合病院も佐久総合病院も医師不足で総合病院の精神科病棟を縮小の計画を余儀なくされているようだ。
地域移行が進み、地域のリソースが増え一般病棟の力量が上がった上での縮小ならよいのだろうが、ニーズはありつつも経営上の問題と医師不足での縮小であり現実は厳しそうだ。

つづいて今回のテーマにもとづいた講演とディスカッション。



テーマは「地域から見た地域支援」というタイトルで、今回のスピーカーは松本県域障害者総合相談支援センター「Wish」の鈴木ふじ子さんと、木曽障害者総合支援センター「ともに」の垣外里香さんの「ふじこ&りかこ」のパワフルコンビ
いつも明るく面倒見の良い頼りになる支援者で普段からケースを通じてもお世話になっている。

松本を中心に退院支援コーディネーター(最近は地域移行支援コーディネーター)をされているWishの鈴木ふじこ氏からは地域移行事業の概要や動き事例の報告があった。
病棟に長期入院されていたかたや、長期間引きこもっていた方が地域で生活をはじめるための支援はお金も手間もかかる。
日常生活のあらゆる生活相談に乗らなくてはいけないし、地域の偏見もある。
いろんなものと戦わなければいけないし、地域に戻って本人が寂しい思いをするのでは本末転倒である。
それでも火をだしたり、病気がみつかったりして病院に舞い戻るなと大変な仕事ではある。



ACTのような医療もバックアップした仕組みがあればよいがなかなか採算ベースにのせることもむつかしくどこでもそのような仕組みは利用できない。
地域移行支援コーディネーターは、コーディネーターの枠を超えて谷間に落ちてしまう支援を心意気でやっているのが現状である。

しかし「社会復帰訓練」を終えた人々を、「地域の偏見を取り除いた上で」退院させる、というのではなく、病気を抱えつつも退院して、まちの中で暮らし、働く、その姿を見て、人々の偏見が消えていくのだから本当に大切な仕事だろう。



つづいて木曽の障害者総合支援センター「ともに」の垣外里香さんからの報告。
木曽は香川県ほどの人口に36000人が住み、精神科病床はもたず、県立木曽病院にパートの医師がいるだけである。
その木曽の障害者総合支援センターはコロコロ変わる制度に振り回され、実績を報告しなければならず、その上で当事者に寄り添わなくてはならない。
しかし木曽には松本のようなNPOなどの事業所がたくさんあり繋げばいいというわけではなく介護保険だけで手一杯の社会福祉協議会しかない。
頑張ってはいても木曽は受け入れは悪いなどといわれてしまう。

障害を評価して本人のニーズや希望にそったプランを立てて、場合によっては365日、24時間、直接支援もする相談事業は手間ひまもお金もかかり、心意気も実力も必要なことだ。
しかし国は障害者のケアマネジメントを軽く考えているようにみえる。
自立支援法にかわる障がい者総合福祉法も迷走しておりこのような状況は今後も続くだろう。

病院のスタッフからは、「病院にいると、どうしても問題リストをあげて、あれもだめ、これもだめという見方になりがち、しかしそうではなく、ストレングス(強み)を見出し本人の希望をいっしょに探し、目的に向かって支援をしていくという関わり方もあるのだということに気づいた。病院スタッフもかわらなければならない。」という声もあがった。

ゆっくりと、しかし確実にパラダイムシフトが起こっている。

食事交流会の第2部、宿泊室での第3部はさらにディープな話。

浦河べてるの家にも何度も行き、当事者主体の文化を色濃くもった伊那の「はらっぱ」の方々(パン屋とレストランを運営)の活動のお話は私も関わらせていただいている「ほたか野の花」の今後の活動にとって参考になった。

ゲバ棒がどうとか、触法精神障害者が心神喪失ということで裁判も受けさせないというのは逆差別ではないかとか、総合病院精神科はどうなるのかとか・・・。精神医療というものがなくなるようにと思ってやってきたがやっぱり必要だとか・・・。総合福祉法はどうだとか・・・。金松先生が佐久総合病院でインターンをされていたというのも驚き。

・・夜中まで熱い話はいつまでも続いておりましたとさ。

次回はおそらく9月1日(土)16:00~、筑北村西条温泉とくら(長野と松本の間、麻績インター近く)で開催されます。
信州の精神保健医療福祉関係者であればどなたでも参加できます。
忘れずにダイレクトに案内がほしい方は事務局(安曇総合病院メンタルケアセンター(az-menc★dhk.janis.or.jp(←★を@にかえて)) までメールをいただければ詳細がきまれば案内のメールをいたします。
こぞって参加をば。

千曲市家族会の勉強会

2012年02月17日 | Weblog
本日は千曲市の家族会の勉強会の講師でよばれて行ってきました。
安曇病院からは車でも1時間以上離れた診療圏もことなる遠くの町です。(山をこえて来る患者さんもいますが。)

「病気の理解と家族の役割」「安心して住める地域づくり」という欲張りなテーマをいただきましたが、家族会の役割、病気とのつきあい方、大北、安曇地域での活動などのお話させていただきました。
ここの家族会は保健師さんのサポートもあり、毎回あらたな家族の参加もあるそうで家族会がちゃんと機能しているのがいいですね。
しかし訴えられる切実な悩みはどこも共通です。
医療福祉資源は乏しい地域ですが、通所授産施設(ちゅーりっぷの家)が生活支援、リハビリなども含めた支援をおこなったり、保健センターを利用したディケアも定期的に開催されています。
しかし常設の居場所が欲しいという声もたかまってきており、どうやろうか家族会でも作戦をねっているようです。
街づくりともからめて面白いことができるといいですね。

その帰りに小諸のワークポート野岸の丘に行って、「せいしれん」のセミナーの分科会の打ち合わせをしてきました。
ワークポート野岸の丘は市から委託された公園などの清掃や軽作業などをやっている作業所です。
ウィズハート佐久というNPOが運営していますが、このNPOはたくさんグループホームをつくったり本当にスゴいと思います。
昼間は作業所(就労継続B)ですが月と金の17時30分から19時までは居場所としてのピアサポートセンター「こころのつどり話」になり働いている当事者などもふくめゲームをしたりおしゃべりをしたりして過ごす場となっています。
まさに部室(クラブハウス)という感じ。
週末に地域のお祭りでだすという種子島の安納芋という甘い芋の焼き芋をいただきました。

その「せいしれんセミナー」ですが、今年は3月9日に松本の美ヶ原温泉のホテル翔峰に全部で400人以上の当事者、家族、支援者が長野県中からあつまります。
希望者は温泉のあるホテルで宿泊しての宴会もあり作業所の少ない工賃を積み立てて泊まりがけでくることを毎年楽しみにされている方もいます。

私は、その分科会の一つ「地域で病気と付き合いながらくらす方法」のお手伝いをさせていただくことになりました。
喜んでいただける企画にすべくメンバーさんやスタッフといろいろアイディアをだしあいました。
当事者主体で「こんな医者は嫌だ」「こんな薬は嫌だ」などの紙芝居か寸劇をテンポよくやり、開場からも意見を聞いて、こんな薬がほしい、こんな作戦で行くべし、薬とのつきあい方、ダメ医者の上手な活用法、親との付き合い方.などなどのアイディアをミニレクチャーをはさみながらディスカッションするという予定になりました。

参加したことで元気になれる内容をとおもっています。
ご期待ください。

「ここまで来たうつ病治療」やはり残念な番組でした。

2012年02月16日 | Weblog
NHKスペシャル、「ここまで来たうつ病治療」という番組があった。
以前からNHKの「うつ病」の特集番組は残念な内容が多かったのだが今回はどんなものかと思って一応は見ておく。
どうせ患者さんにも聞かれるだろうしね。

まず「うつ病はこころの病気ではなく脳の病気」という場面からスタート。

なんかしょっぱなからアメリカの最新治療は素晴らしいという論調・・・嫌な予感。

はじめにrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)という磁気刺激による治療法の紹介。
うつ病患者では前頭葉の血流が低下しており、不安や恐怖などの感情をつかさどる扁桃体が暴走してうつ病になるという仮説に基づいて、前頭葉のDLPFC(背外側前頭前皮質)を直接磁気で刺激して扁桃体の暴走を抑えるという理屈らしい。
入院したり外来にかよってrTMSをやって帰るというのが標準的な治療の時代がくるのか?
つづいて電極を埋め込んで脳の深部(ブロードマン25野)を直接刺激する治療の紹介。
rTMSも電気磁気刺激もすでにパーキンソン病の治療では行われているものでたまに電極を埋め込んだ方もみかけるが、うつ病で電極を埋め込むというのはあまり想像したくない。

特にうつ依存症や身体表現性障害の方にうっかりそのような手術をしてよけいドロドロしないか心配だ。

そういえば骨折なんかでも直接物理的に刺激すると早く治るということで温熱療法や超音波の治療が行われている。
脳でも同じだとするとなんとも原始的な感じ。
しかし、これらはまだまだ研究段階の治療法である。
それならば、すでに世界中で広く行われていて効果も安全性も立証されているmECT(修正電気けいれん療法、安曇総合病院でもやっています。)はなぜ全く紹介しないのだろう。

脳機能や脳血流の改善ということを考えると作業療法や運動療法などで体をうこかしていくのもいいだろうが、このへんにも全く触れられず。

「うつ病」の診断にも科学的手法がとりいれられるようになってきている、と、操作的診断であるDSMの弊害とともに客観的な臨床検査である光トポグラフィー検査(NIRS)を紹介。つづいて双極性障害をうつ病と診断されたり、うつ病を認知症と言われて不適切な治療を受け続けてきた人間も多いというようなケースを紹介。
NIRSが認知症や、うつ病と双極性障害、統合失調症などの鑑別の補助になるのはどうやら確かそうだから、あれば便利だろうが、DSMと併用するとかえってますますいい加減な診療が増えそうな気もする。

従来の問診による診断はそんなにダメか?

さらに軽度のうつは「ことばの力で治す」ということで、カウンセリング(特に認知行動療法)で脳を変えるという研究を紹介。
認知行動療法の訓練を受けて回復したという女性が登場していたが、高強度で集中特訓みたいにやっていた。
訓練を重ねると悲しい気持ちになっても前向きな考えができるようになり感情がコントロールできるようになるという。
さらに脳のfMRIの扁桃体の画像を分析した図を見て観察しながら楽しかった出来事を思い出してフィードバックをかけて扁桃体をコントロールできる方法を習得する研究の場面を紹介。
アメリカの自己啓発ポジティブ教の人間改造みたいでなんだかいやだなぁと思ってしまった。

ライフイベントによるストレスをゆがんだ形で受け止めてしまう認知の癖を修正する認知行動療法はたしかに有効である。
しかしこれは生活の中で行なっていくことがベターだと思う。訓練のための訓練ってのはつまらなそう。
とくにうつ状態のときには苦行だろう。
楽しくできないと続けられないから当事者をあつめたグループで当事者研究っぽくやれればなおさらいいと思うけど・・。

番組としては「脳科学が変え始めたうつ病治療、その恩恵が早く広まるようになってほしい」とのまとめだった。
それはいいにしても、いろんな研究や実践が紹介されるものの終始軽い調子でありなんだか無理やりである。そして新しいことを言っているようで、大して新しいことは言っていない。

なにより問題なのは、まだまだ実験段階の診療をセンセーショナルに取り上げ、どこでも受けられる有効性が確立した治療に関してはふれなさすぎなこと・・。
特に抗うつ薬の治療にかんしては双極性障害につかわれると危険ということをあおるのみで、その有効性についてはまったく触れなかった。
以前の番組といいディレクターは抗うつ薬に恨みでもあるのだろうか。

大勢の人を助けている薬による治療はそんなにダメか?

気分障害はアイドリングの不調という例えをよく使うが、オーバーヒートしたエンジンの冷却がおわったらrTMSやmECTによる治療はイグニッションキーを回したり、キックスターターを蹴ったり、押しがけをしているような感じなんだろう。(抗うつ薬はオイルや洗浄剤をいれているイメージ)しかし、エンジンだけかかればいいというものでもない。
燃料を浪費しない上手な運転の仕方も練習しないといけないし、行き先も見つけていかなければいけない・・・。
失われた時間や、思い描いていた未来を修正していまの場所から新たな物語をつむいでいく作業はどのみち必要なわけだし。
最新治療も含めて、いろんな治療は確かに回復のきっかけにはなるが、それですべてではないよなぁと思う。
結局悪循環になっているところを絶ち切ってどう良い循環にしていくかということに尽きると思う。

そのために動かせるところから動かしていくということ。
こういう情報も苦労されている方には希望の一つにはなるとはおもうが・・・。
最新治療もいいが、ていねいな従来治療といろんな治療や支援が有機的に連携していることがいちばん大切なのだとおもうのよね。

そういった意味で「うつ病治療」の特集としてもプロデューサーの意図的な取捨選択がおこなわれたなんともアンバランスで残念な番組構成と思いました。
まぁ、テレビ番組の特集というのはこんなもんなのかなぁ。

光トポグラフィー検査をやっている病院や、TMSで臨床研究をやっている神奈川県立精神医療センター芹香病院なんかは相談が増えて大変だぞ・・・。
オラシラネ(;´д`)トホホ…



新春・拡大医局麻雀大会

2012年02月05日 | Weblog
新春の佐久総合病院拡大医局麻雀大会が開催された。
初期研修医のころから断続的に参加してきたため、今年もお声がかかり、はるばる佐久市臼田の清集館まで行ってきた。



この大会は随分前から開催されているようだが、医局だけでは人数が集められなくなり、OBや、一般職員、他の厚生連病院などの愛好家にも声をかけ、今年は7卓だして総計28人の参加での開催。4半荘(初戦と最終戦以外は時間で打ち切り)での入れ替え戦。
お酒もあり夕食の弁当を挟んで3時から8時までの長丁場である。
厚生連の理事長、統括院長や副院長(2名)、事務長などの幹部クラスから、新入の若手職員までそろってのパワハラ禁止の競技麻雀である。
自分も含め麻雀をするのは年1回、この時だけという人も多い。
たまの麻雀も楽しいが、いろいろな人とも顔見知りになれ、情報交換もできて面白い。
自分が大学生のころ低学年の頃には麻雀はしょっちゅうやり、国試前にクラスで雀荘を借りきって麻雀大会が開かれたくらい盛んであり教養の必須科目といってもいいくらいであった。
しかし研修医などは大学時代に麻雀をする人も少なくなったのか麻雀ができる人も減り、若手は最近は参加は少なかったようだが今年は2名の研修医が参加し、その内の一人があまつさえ優勝をしてしまった。(史上初の快挙)
再構築や電子カルテの導入で疲れはてたのかいつもはブイブイいわせている幹部クラスがそろって元気がないのが気になった。

遠方なので第二部には参加せずに帰宅。


「精神障がいについてもっと知ってほしい」講演会

2012年02月05日 | Weblog
2月3日に安曇総合病院のある地元の池田町で、社会福祉協議会主催の生活・介護サポーター養成講座の公開講演会として「精神障がい」をテーマにしての講演会が開催された。

地元で住民対象にこういう話をさせていただく機会は貴重である。
過去2回は同じ会場で認知症をテーマに話をさせていただき、認知症だけじゃないよ、障がい全体についてのことだよと訴えてきたので純粋に嬉しい。
それでも認知症をテーマにした講演ほどは人は集まらないであろうと思っていた。
しかしこれまでと同じくらいの約50人以上の方があつまり和室の会場はほぼ埋まって質疑応答も活発であった。



当事者の時代である。
統合失調症当事者で通信制高校に通いながら他の患者さんのサポートをしてくれている百瀬悠二さんとともに話をさせていただき統合失調症をはじめとした精神障がいの基本的な知識や、精神医療でどのようなことをやっているか、安曇病院や地域としての取り組、今後目指したいことなどについてお伝えした。

地域での精神障がい全般についての理解と支援がひろまるきっかけになればと思う。

精神障がいについてもっと知ってほしい
 
スライドはこちら↑

コア・コンピタンスである総合病院精神科病床。

2012年02月05日 | Weblog
安曇総合病院再構築においてリニアック導入しようとする動きの他にもう一つ気になる動きがある。

それは精神科病床を削減しようという動きである。
中川院長は、精神科病床90床は多すぎると考え、地域のニーズはありながらも診療報酬を安くおさえられているため構造的に収益を産まない精神科病床を削減し、コンサルテーション・リエゾンで回していくという意向があるようである。
安曇総合病院は精神科があることが問題であり、どういう計算かはわからないが原価計算をすると毎年2億円の赤字をだしているのだという。

「精神科医療や精神科医療無きを期す」ということを考えると長期的には病床数削減の方向性はありえると思うが、現在の安曇病院の精神科部門が地域で果たしている役割を考えるとそれはあまりに早急であると思う。

総合病院精神科病棟は全国的に絶滅危惧種である。
その希少価値ゆえに大北医療圏のみならず長野県全体においてなくてはならない存在になっている。
精神科部門は今や安曇総合病院においてコア・コンピタンス(競合他病院を圧倒的に上まわるレベルの能力」「競合他社に真似できない核となる能力」の事を指す。)なのだと思う。

イタリアは精神科病院を全廃し、代わりに全総合病院に精神病床を置いた。
しかし日本は収容施設である精神科病院の病床削減は進まず、ニーズの高い総合病院の精神科病床が減るという正反対のことが起きている。

本来ならば高機能高密度で機能している総合病院精神科病床の単価が上がるような診療報酬の改定を中医協に訴えていき(総合病院精神科の診療報酬の創設など)、最終的には単科の巨大精神科病院は縮小し、公立、公的病院に総合病院精神科病床を増やすような医療制度にするのが望ましいのだとおもう。診療報酬への圧力団体は我が国に多い民間の巨大精神科病院が中心であり公立病院や公的病院が中心の総合病院精神科のことは顧みられていない。
結果として精神科の病棟への診療報酬は、スタッフの配置基準も緩い単科の精神病院を基準に考えられているため入院単価が低い。構造的に総合病院精神科では不利で赤字な診療報酬体系なってしまう。
当院の診療報酬の単価は平均一日約2万円弱と他の一般病棟の約半分であり、院長に言わせると新築した精神科病棟の減価償却もあり、事務や検査部門の経費は病床数割りに配賦され原価計算をすると赤字を産みつづける安曇総合病院でお荷物の部門となっているらしい。
どのような計算かさっぱりわからないが、他への波及効果(地域で他に代えがたい役割を果たしている。患者や若い医者が集まる、精神科の若手医師の全科当直への貢献、人材育成など)は考慮されているのだろうか?
精神科をすべて廃止すれべば2億円の赤字が解消され、万々歳なのだろうか?


多くの総合病院の精神科病棟は医師やスタッフがいなくなり仕方なく削減している。
あるいはアンチスティグマがすすみ、アウトリーチの体制がととのい一般病棟や地域への移行が順調にすすんだため削減するというのならわかるが、当院はそのどちらにも当てはまらない。
安曇病院の精神科病床を削減するのは、一般の病棟で精神障害をもつ患者のへの対応能力があがり、単科の精神科病院の病床が減る代わりに地域でのリソースが増え、どの医療圏の総合病院にも精神障害者の身体合併症に対応できる病床ができたときだと思う。
医療福祉のバックエンドとして多様なニーズに応えようと頑張っている精神科病床を、単に利益を産まないから削減というのでは志が低すぎると私は思うし、当院の理念にも反すると思う。


精神科部門のスタッフ数は100人強であり、訪問からディケア、外来、病棟まで有機的に連携し機能している。
全員が見知った存在のチームとしてまわるには最適な規模であろう。
人に投資をし、多少余裕をもたせた人員配置でアウトリーチ活動や就労支援などの展開を積極的に行なっている。



安曇総合病院の病床数は90床であり、医療的、社会福祉的に他の病院で見ていくことが困難なケースなどを積極的にみており、大北医療圏を超えた広域での様々なニーズに答えているため常時、ほぼ満床でまわしている。
この規模があるからこそ精神保健指定医のケースレポートになるような医療保護入院、措置入院のケースも集まる。
未来の医療を担う医学生、看護学生、OTやPSWなどの実習も引き受けることもできる。

松本医療圏、大北医療圏でも各科が一応そろった総合病院の精神科病床は信州大学病院と当院しかない。
長野県で3つしかない認知症疾患医療センターでもある。(他は飯田病院、佐久病院)
安曇総合病院では大学病院と同様に麻酔科と連携しmECT(電気けいれん療法)や血液内科と連携してクロザピンによる治療といった生物学的精神医療の決定版の治療もおこなっている。
しかし大学病院には開放病棟の40床しかなく、閉鎖病棟がないことから重度の精神病状態の患者はみることが出来ず、また看護体制上、合併症の患者をみるのにも消極的である。またケースワーカーの数が少なくケースワーク機能も乏しいことから松本医療圏で統合失調症で飛び降りて骨折や脊損となった患者などは手術が終わると信州大学救急部から精神科と整形外科の強い当院へリハビリと退院支援のために直接転院してくるケースも多い。
松本地域からやや離れていることもあり中信地域の輪番病院には入っていないものの、精神科救急においても3次医療まで担っているのである。
依存症治療においてもアルコールリハビリテーションのためのプログラムをもっていることから遠くは松本医療圏、長野医療圏など他の医療圏から依頼されての入院患者も多い。
その他に長野県内の他の厚生連病院にも医師を派遣し外来と連携を担っている。
このように広域の精神医療センター病院的な役割も多分に担っていることも忘れて欲しくない。

このようなセンターとしては長野県には最近改築された公立病院である長野県立こころのケアセンター駒ヶ根病院(129床、医師7人)があるが、こちらは総合病院ではないため病院機能が限られてしまう。
また、こころのケアセンターのように県の予算を潤沢につかって豪華な建物を新築し、職員給与比率率が100%を超えても公費から補填されて維持していけるような恵まれた条件にはない。

医師の数は最近では常時7人前後(現在6名、4月から7名)おり、ベテラン、中堅、研修医と屋根瓦ができており、能力や特性の凸凹を補い合いながら、切磋琢磨し、ケースをディスカッションするのにも、夜間休日の拘束を交代でまわすのにも丁度よい規模でまわっている。
当院で同様の医師の屋根瓦ができているのは整形外科部門であり、こちらも若い医師が自ら希望してあつまってきている。
内科は残念ながらそういう体制にはなっていない。

諏訪中央病院のように総合診療方式にすれば内科でも可能だとおもうが、院長は専門医を各種そろえる方針のようだ。

個人的にはチームがまわり、多少給与が下がっても良いから休日の出勤の代わりに、研修日というかたちなどで平日にフリーに使える時間ができ、大学などへ行っての研究活動や、地域での活動ができる時間がつくれればベターであろうし若い医師もあつまりやすくなるとおもう。

院長の方針は、利益を産まない精神科は縮小し、がん診療連携拠点病院は目指さないのにもかかわらずリニアックを導入しがん診療の充実を図り、心カテ検査や脳外科などの今までやっていない急性期医療を拡充し、ミニ佐久病院、ミニ大学病院をめざすということのようだが、それはこれまでさんざん主張してきたがうまくいかないと思う。
結局、患者も医者もあつまらず、なんの特徴もなく赤字を産み続け自沈していくぱっとしない病院になってしまい結局地域の高齢者の医療や住民の健康増進を担うことすら困難になりかねないと私は思う。

奇跡的に存在する現在の強みである病床をもつ精神科部門と整形外科部門を一つの核とし、内科部門を立て直してなんとか総合病院機能を維持した地域医療センターという姿が当院のコアコンピテンスを活かした取りうる現実的な生き残り策であると思う。

公費公休を使って、ドイツのベーテル市にまで見学に行き、福祉のまちづくりを目指すと主張していた院長が何故、急性期病院を目指し、リニアック導入を突破口と考えているのかがわからない。
病院の将来を心配して直接院長に訴えたら、「先生はわかっていない。そんなこというのなら先生(私のこと)が院長をやればいいんじゃないですか。僕が院長なんだから従ってもらいます!」といわれ議論にもならず(院長は独裁を自認し、ほとんどの会議でも同様のことになってしまうそうだ。)、病院や地域の方に掲示物などの原始的な方法で訴えようとしたら怪文書扱いされ「組織というものをわかっていない。」と言われてしまう。

院長は地域医療のデストロイヤーのようだ。

組織というのは理念を同じくするものの集まりである。
理念に合わないことを強要するとモラール(士気)の低下は避けられず医療は崩壊し、いったん崩壊したらそれを取り戻すのに何年もかかるだろう。
病院は果たしてカネ勘定と存続のためにあるのか?それとも人助けと地域の元気と幸福のためにあるのか。
誰のため、何のために医療をしているのだろうか?

折り合うことが見いだせなければ、最終的にはどちらかが出ていくしかないのだろう。

しかし、まず、このような大切なことは職員や住民にも情報公開し全病院的、全地域的に関心をもってもらうということは、組織を乱す間違ったことなのだろうか?

若月俊一曰く
「民衆と一緒に、まじめな仕事をしていれば、何も心配ない。大衆に支持されていれば何もこわくはないのだ。」

松下幸之助曰く
「正しい仕事をしていれば悩みは起こらない。悩みがあれば自分のやり方を変えればよい。世間の見方は正しい、だからこの正しい世間とともに、懸命に仕事をしていこう……こう考えているのである。」
松下幸之助一日一話「世間は神のごときもの」)

・・・まじめに臨床しよう。道を見失わないためにも。