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精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

脅迫マーケティングと洗脳プロモーション

2012年04月11日 | Weblog
NHKなどでも認知症の番組が増え、樹木希林などが出演するテレビCMのせいか認知症外来への予約外来が急増している。
地域で生活できているのなら、普通にかかりつけ医でみてもらって困ったら相談でも全然いいと思うのであるが・・。


多少の物忘れはあるものの、近所のかかりつけ医にかかっていて90近くまで特に問題もなく過ごせている夫婦がいた。
診療所の先生に「物忘れの薬はない?」と聞いていたら「そんな薬があれば俺が欲しいわ。」と言われていたそうだ。
しかし仕事も引退し運転もやめることを考え・・と上手に隠居していっていた。
診療所の先生に看取ってもらうというくらいまでいい関係ができていた。
長野県の方言でいえば「なから(いい加減、適当)」でうまくいっていたのだ。
テレビ番組やCMをみた息子が大慌てで「物忘れ外来」に受診させた。

それはそれでいいのではあるが・・。

認知症疾患センターでは「ものわすれ外来」として認知症に関するよろず相談を受け付けている。
市町村や包括支援センターに相談したら、「こちらにかかれと言われた」といって受診してくる方もいた。
しかし、まずかかりつけ医にかかるように話してもらいたいものだ。
その上で紹介状をもらって受診していただければその後のフォローをお願いしやすいから・・。

物忘れ外来では本人の生活史や現病歴、家族の様子などを問診し(外来看護師や認知症疾患医療センター専従ケースワーカーが相談を受けた時から作り始める。)、スクリーニングの検査をし(MMSE,CDT、うちはたいてい心理士がやってくれる)、CTやMRIなど必要なオーダーする。
ほぼ、高齢者総合機能評価のような感じになる。

徘徊や暴言、暴力などのBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)が大変なときは更に大変である。
本人の話を聞き苦しみに寄り添い、家族など周囲からも愚痴を聞き、情報を集めそれぞれに関わり方などの作戦を練ってお伝えする。こんがらかった状況を整理する通訳的な役割だ。
場合によってはお薬をだしたり、介護保険サービスを中心とした支援を増やしたりする。それでもうまく行かない場合や一時的に介護者と離れたほうがいい場合で介護保険サービスのショートスティが使えない場合(急性の身体疾患を併発している、本人が断固拒否している、暴言、暴力など)などは入院、時に非自発的な入院が必要なこともある。

粘り強く本人や家族に認知症の自然史のなかの位置づけをお話しし、薬物治療や支援などの取りうる手段を考えて提示し、またケースワーカーなどにも動いてもらって関係各所に連絡をして支援体制を組み立てる・・・。
薬物調整などをおこなったり、検査を行なっていく場合はしばらくフォローする。
訪問診療が適当な方は訪問診療をおすすめする。

かかりつけの先生がいる場合はに見立てや方針を含んだ詳細な返書をお返しするようにしている。
あちこちにかかっているが主治医にあたる医師がいない場合などは大変だ。
とても手間も暇もかかり、たくさんの人は診られないから病院の収益的にも成り立たない。

そんなことを繰り返しているうちに、地域の開業の先生も認知症をよくみてくださる先生方も増えてきた。
安定している間はフォローいただきBPSDが悪化した時などにまた紹介していただいたり丸投げではなく丁寧な紹介状をいただくとこちらも嬉しくなる。

うつ病のTV番組の時にも書いたが、認知症診療の一部分でしかない薬物治療がクローズアップされすぎている現状がある。
認知症治療薬はたしかに役には立つが適応を広がりすぎているように思う。
めったやらたらに使えばいいものではない。
薬だって使い方の上手い下手はあるだろうが全てを解決してくれる魔法の薬はない。

現状では完全に製薬会社にやられていると思う。

精神科は関連学会があまりに多い。
精神科関連学会は主要なものだけでも数十個あり似たような顔ぶれが集まる。
これらには製薬会社の息のかかった集まりも多い。



コンシューマー向けのTVCMもますます盛んになっていくのだろう。
そのうち「だんだんだだーんボケていく、だんだんだだーん忘れてく。80代の惚けに忘れ、お医者さんに相談だ~」のような直接的なCMも出てきかねない。

相談してもらうのはいいんだけど、薬は出せるかはメリットとデメリットを考えてからですよ・・・。
と思いつつ「もういい、メンドクサイ。」って薬を出すことになりかねない。



脅迫マーケティング、洗脳プロモーションにまけず、ていねいに認知症をもつ人と家族に寄り添っていく文化をつくっていきたいと思うが圧倒的なメディアの影響力を前にめげ気味である。

プロフェショナル(個人、学会など)として、これらのマーケティングに対してどのように立ち向かっていくのか、真剣な議論が必要だと思う。


アメリカのアリセプトのTVCM。
「Talk to your doctor about Aricept,Don't wait!」
エーザイは食品医薬品局(FDA)に症状の改善効果が誇張されていると警告され放映は中止されたそうですが・・。

「ここまで来たうつ病治療」やはり残念な番組でした。

認知症の新薬と疾病の売り込み(ディジーズ・モンガリング)

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