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精神科医師のブログ。
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「ここまで来たうつ病治療」やはり残念な番組でした。

2012年02月16日 | Weblog
NHKスペシャル、「ここまで来たうつ病治療」という番組があった。
以前からNHKの「うつ病」の特集番組は残念な内容が多かったのだが今回はどんなものかと思って一応は見ておく。
どうせ患者さんにも聞かれるだろうしね。

まず「うつ病はこころの病気ではなく脳の病気」という場面からスタート。

なんかしょっぱなからアメリカの最新治療は素晴らしいという論調・・・嫌な予感。

はじめにrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)という磁気刺激による治療法の紹介。
うつ病患者では前頭葉の血流が低下しており、不安や恐怖などの感情をつかさどる扁桃体が暴走してうつ病になるという仮説に基づいて、前頭葉のDLPFC(背外側前頭前皮質)を直接磁気で刺激して扁桃体の暴走を抑えるという理屈らしい。
入院したり外来にかよってrTMSをやって帰るというのが標準的な治療の時代がくるのか?
つづいて電極を埋め込んで脳の深部(ブロードマン25野)を直接刺激する治療の紹介。
rTMSも電気磁気刺激もすでにパーキンソン病の治療では行われているものでたまに電極を埋め込んだ方もみかけるが、うつ病で電極を埋め込むというのはあまり想像したくない。

特にうつ依存症や身体表現性障害の方にうっかりそのような手術をしてよけいドロドロしないか心配だ。

そういえば骨折なんかでも直接物理的に刺激すると早く治るということで温熱療法や超音波の治療が行われている。
脳でも同じだとするとなんとも原始的な感じ。
しかし、これらはまだまだ研究段階の治療法である。
それならば、すでに世界中で広く行われていて効果も安全性も立証されているmECT(修正電気けいれん療法、安曇総合病院でもやっています。)はなぜ全く紹介しないのだろう。

脳機能や脳血流の改善ということを考えると作業療法や運動療法などで体をうこかしていくのもいいだろうが、このへんにも全く触れられず。

「うつ病」の診断にも科学的手法がとりいれられるようになってきている、と、操作的診断であるDSMの弊害とともに客観的な臨床検査である光トポグラフィー検査(NIRS)を紹介。つづいて双極性障害をうつ病と診断されたり、うつ病を認知症と言われて不適切な治療を受け続けてきた人間も多いというようなケースを紹介。
NIRSが認知症や、うつ病と双極性障害、統合失調症などの鑑別の補助になるのはどうやら確かそうだから、あれば便利だろうが、DSMと併用するとかえってますますいい加減な診療が増えそうな気もする。

従来の問診による診断はそんなにダメか?

さらに軽度のうつは「ことばの力で治す」ということで、カウンセリング(特に認知行動療法)で脳を変えるという研究を紹介。
認知行動療法の訓練を受けて回復したという女性が登場していたが、高強度で集中特訓みたいにやっていた。
訓練を重ねると悲しい気持ちになっても前向きな考えができるようになり感情がコントロールできるようになるという。
さらに脳のfMRIの扁桃体の画像を分析した図を見て観察しながら楽しかった出来事を思い出してフィードバックをかけて扁桃体をコントロールできる方法を習得する研究の場面を紹介。
アメリカの自己啓発ポジティブ教の人間改造みたいでなんだかいやだなぁと思ってしまった。

ライフイベントによるストレスをゆがんだ形で受け止めてしまう認知の癖を修正する認知行動療法はたしかに有効である。
しかしこれは生活の中で行なっていくことがベターだと思う。訓練のための訓練ってのはつまらなそう。
とくにうつ状態のときには苦行だろう。
楽しくできないと続けられないから当事者をあつめたグループで当事者研究っぽくやれればなおさらいいと思うけど・・。

番組としては「脳科学が変え始めたうつ病治療、その恩恵が早く広まるようになってほしい」とのまとめだった。
それはいいにしても、いろんな研究や実践が紹介されるものの終始軽い調子でありなんだか無理やりである。そして新しいことを言っているようで、大して新しいことは言っていない。

なにより問題なのは、まだまだ実験段階の診療をセンセーショナルに取り上げ、どこでも受けられる有効性が確立した治療に関してはふれなさすぎなこと・・。
特に抗うつ薬の治療にかんしては双極性障害につかわれると危険ということをあおるのみで、その有効性についてはまったく触れなかった。
以前の番組といいディレクターは抗うつ薬に恨みでもあるのだろうか。

大勢の人を助けている薬による治療はそんなにダメか?

気分障害はアイドリングの不調という例えをよく使うが、オーバーヒートしたエンジンの冷却がおわったらrTMSやmECTによる治療はイグニッションキーを回したり、キックスターターを蹴ったり、押しがけをしているような感じなんだろう。(抗うつ薬はオイルや洗浄剤をいれているイメージ)しかし、エンジンだけかかればいいというものでもない。
燃料を浪費しない上手な運転の仕方も練習しないといけないし、行き先も見つけていかなければいけない・・・。
失われた時間や、思い描いていた未来を修正していまの場所から新たな物語をつむいでいく作業はどのみち必要なわけだし。
最新治療も含めて、いろんな治療は確かに回復のきっかけにはなるが、それですべてではないよなぁと思う。
結局悪循環になっているところを絶ち切ってどう良い循環にしていくかということに尽きると思う。

そのために動かせるところから動かしていくということ。
こういう情報も苦労されている方には希望の一つにはなるとはおもうが・・・。
最新治療もいいが、ていねいな従来治療といろんな治療や支援が有機的に連携していることがいちばん大切なのだとおもうのよね。

そういった意味で「うつ病治療」の特集としてもプロデューサーの意図的な取捨選択がおこなわれたなんともアンバランスで残念な番組構成と思いました。
まぁ、テレビ番組の特集というのはこんなもんなのかなぁ。

光トポグラフィー検査をやっている病院や、TMSで臨床研究をやっている神奈川県立精神医療センター芹香病院なんかは相談が増えて大変だぞ・・・。
オラシラネ(;´д`)トホホ…



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19 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やっぱりなあ (ししとう43)
2012-02-17 03:35:53
NHKのメンタルヘルスに関する番組は、スカを引くことが多いのですわ。
どうも、腰が引けてると言うか。
私は、録画してまだ観てないけど、1.3倍再生で観ようか、もう削除しようか、迷い中です。
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情報として (といぴ)
2012-02-17 23:50:49
見ておくのは悪くはないと思いますよ。
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知識不足の批判はやめよう (ポンポコ山のコン太)
2013-04-19 07:06:13
このような治療法の正否を理解するためには、生物物理学という分野を勉強していなければなりません。NHKの番組が正しいとは言いませんが、その批判が科学知識に基づかず、疑似科学と同様のレベルであってはならない。

書店に行って、生物物理学関連の書を読まれることをお勧めする。最先端の研究分野であり、簡単に理解できることではないが。
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Unknown (といぴ)
2013-04-22 00:27:38
ポンポコ山のコン太さま。
何かオススメの本はありますか?
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Re. (ポンポコ山のコン太)
2013-04-23 16:51:49
病気が起きるのは、分子生物学が明らかにしたように分子レベルです。現代医学では、分子の化学反応によって説明し、治療をしようとします。ところが、薬物を使用しなくても、自然治癒や、鍼灸などに見られるように物理的に治癒することがあります。この意味を考えてください。

現代科学では、化学は物理学の一部となっています。したがって、物理的に説明することは一般解であり、化学のそれは特殊解ということに。治療とは、遺伝子異常など一部を除けば、生体分子機械をいかに制御するかという問題です。この階層・領域では、量子力学が支配しています。ここから、治療法を導けばよい。生体が物理法則に従っているということは、その法則を知れば物理的に制御可能ということですから。直接的にその答えが分かるような本はまだないでしょう。関連分野の本をあれこれ読んでいくと分かってくるのです。私も、多くの本を読み、自己実験、思考実験を繰り返して辿り着いたのですから。

一般解であれば、原因や症状・病名などに関わらず、多くの病気に適用できるでしょう。はじめにどのような方法がよいかを選択しなければなりませんが。詳細は、いずれ明らかになります。
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Unknown (といぴ)
2013-04-23 22:11:25
ポンポコ山のコン太さま。

生物学的な病態生理から治療法がうまれたものもありますが、むしろ多くは理屈はわからないけれども、こんな方法でうまくいったという経験とそれを集積した統計学的なエビデンスからなる治療法も多いです。
もちろん逆にそこからメカニズムの解析も行われていきますが・。

薬物治療も精神療法もリハビリテーションも基本は自然治癒力が最大限働くような環境調整を図ることだと思います。
「快」ということにヒントがあるとおもいます。
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Unknown (ポンポコ山のコン太)
2013-04-24 08:54:14
メカニズムの解析とは?化学的説明でしょうか、それとも物理的説明でしょうか。物理学は化学を包摂するのですよ、化学的説明では限界があります。それは治療の限界と不確実性につながる。一般理論となりうる物理的説明こそ研究者が目指すべきものでしょう。物理学は全ての諸科学の基礎であり、統一的理解を可能にするものです。

疫学の場合は集団を対象し、相関関係を探るのが目的なので統計学の適用は可です。しかし、臨床では適用不可です。法則性を知らなければ本当に有効な治療は行えないからです。物理学は事実を基に構築されますが数学は論理だけです、統計学を適用したからといって、治療法の探究に役立つものではない。                          

生命には物理法則に基づく秩序があり、病気をその秩序からの逸脱と考えると、法則を応用して治療ができるはずです。統計学は無秩序であることが前提となっています、したがって、法則性があることが明らかになった現象に対しては適用してはならないのです。臨床は個人を対象とし、生体内に法則性が潜んでいるならば適用できません。法則を知れば、これまでをはるかに上回る有効な治療が可能になるので、統計的処理を行うことは無駄というものです。                            

物理法則というものは、その適用範囲内の現象に対しては、ほぼ確実に制御できるものです。70パーセントの確率で成り立つ物理法則なんてないでしょう。生命が物理法則に従っていることを理解すると、医学の不確実性が大幅に解消されるはずです。

現代医学だけではなく、中国医学などの代替医療、生物物理学などを横断的に理解し、実際に体験されなければ納得できないでしょう。
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Unknown (といぴ)
2013-04-25 22:44:54
医療は実学で、法則が明らかでなくても、現場では多少は科学的な装いをまとった未完成の知識や技術を総動員して次々とおこる問題を解決していかなければならないのです。
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Unknown (ポンポコ山のコン太)
2013-04-27 11:50:24
法則はすでに明らかです、未公表ではあるが。例えば、うつ病なんてその場で即効的に治癒可能です。超重症のうつ状態を数十年経験したが、研究していたある物理療法によって薬物を使わず瞬間的に解消させた。しかし、その後も生活が極めて不規則なので、不眠・疲労のために軽いうつ状態に陥ることがあるが数分も要しない。

その治療法則は、原因・症状・病名などが異なる多くの病気にも適用できる。例えば、喘息も、肝炎も、神経痛も、

原始的にみえる治療法であるが、それを説明するには最先端の研究が必要となる。

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ポンポコ山のコン太さま (リコ)
2013-07-08 22:40:42
私のうつ病を治して下さいm(_ _)m
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