リカバリー志向でいこう !  

精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

食べることと生きること。

2011年09月22日 | Weblog
松本で開催された在宅ケアを支える診療所市民全国ネットワーク、第17回全国の集いinしんしゅう2011の2日目は並列で並んだ企画が多すぎて他のセッションにも出たかったのだが、結局一日「お口づくし」だった。

午前中は全国にネットワークが広がる山梨お口とコミュニケーションの会の「ふるふる」一座のシンポジウム。
テーマは「食べることと生きること」
古屋先生の絶妙な進行で期待通りのエキサイティングかつモチベーティブな内容だった。

小川滋彦先生の「胃ろう」の話しでは「胃ろうがあるからこそ落ち着いて経口摂取へのチャレンジがつづけられる。」ということを再認識した。
いつぞやの学会でNSTのリーダーの東口先生と、摂食嚥下リハで有名な藤島先生が、胃ろうをつくるべきか激論を交わしていたのを思い出した。
重要な点は胃ろうはゴールではなく、最後まで経口摂取への挑戦をあきらめてはいけない。

「胃ろうはトラウマであり、病院においてその存在を肯定されない場合がある。」
家族からも見捨てられコミュニケーションがとれない(ように思える)老人をかかえる病棟のスタッフはモチベーションも下がる。
しかし在宅では寝たきりになって意思表示が出来ない状態になっても家族などの中の「関係性の中で生きている」。
これは太田仁史先生の言う「存在役割」のことだとおもった。
まさに尊厳だろう。

山梨の誇るカリスマ歯科衛生士の牛山先生の被災地支援の話しで印象に残ったのは

「仕事や役割は自分でみつける。気付いた事は何でもやる」(掃除でも何でも)
みんながパンパンな被災地では迷惑にならない行動。
どんな状況でも相手を受容して、それから伝えること・・。(被災者でも他の支援者でも)
現場に会わせた方法で。たくさん言ってもダメ。1つか2つで・・。
継続的な支援を。マイナスがプラスになる支援を。

などなど、これらは被災地に限らず日々の現場でもそのままあてはまる教訓と思った。
「よろず相談かつ自分の全てを総動員」という対人援助の原点を再確認した。

小山珠美さんの急性期病院でも摂食へのアグレッシブな挑戦の話しだった。

「急性期から口をきれいにして、身体を起こして(離床)、抑制を外して、栄養管理をして、一刻も早く口から食べる!単なる廃用症候群や合併症予防に留まることなく、経口摂取による早期リハを実践しその成果を示す」というミッションを突き詰めて継続、実践し超急性期から、そこまでやれるんだという仕組みと文化を作り上げてきた実践には改めて感服した。
二木立→石川誠らの急性期リハと同様の流れが、お口の分野でもおこなわれてきているということなのだろう。
紹介されたナイチンゲールの「看護覚え書き」もあらためて読み込んでみたい。
(映画、「看護覚え書き」もあるのね。)

栄養士でありケアマネでもある奥村圭子さんは、被災地に行った経験を、しみじみと語られ熱い想いと苦悩がつたわってきた。
在宅の場面での訪問栄養指導は実に有益であり、当地でも栄養士に活躍してもらうようにしていきたいと思った。

座長を務めさせていただいた午後のセッションでは小笠原正先生の口腔内の所見と歯科連携のポイント、松尾浩一郎先生のVFやVEの動画をフル活用したユーモアあふれるレクチャーであり、歯科分野についての基礎知識も乏しかった自分いははじめて聞くことも多かった。いままでは口の中のことは全然見ていなかったなぁと反省した。
口腔内や摂食・嚥下に関して、いくつも新たな視点をもつことができた。

摂食障害とは「食べられないのに食べている。食べられるのに食べていない。」ということ。
「食べられないのに食べている。」というのは窒息や誤嚥などに繫がる。
もっとも蒟蒻ゼリーがだめで、餅はいいというのは歴史の長さと文化の違いだけ・・・。
胃ろうなどが作られてしまったため「食べられるのに食べていない。」ケースもあまりにも多い。

詳細な観察やスクリーニング、VE(嚥下内視鏡)やVF(嚥下造影)などもツールとして使って、病態や刻々と変化する状況に応じてアセスメントをしっかりすることが大切だ。

歯科医師が摂食嚥下に関わるようになったり歯学部の教育に取り入れられるようになったのはまだ最近の事のようだ。
口腔内も見られて触れる、歯科衛生士や歯科医師がもっと摂食嚥下分野へ参加してくれれば心強い。

松尾先生らともメーリングリストを作りたいという話しをした。
長野県内でも地域医療の現場をつなぐ多職種のネットワークを紡いでいきたい。
そしてこのような機会を通じて、全国で地域ごとでネットワークを組んでレベルの高いケアを共創していければ良いと思う。

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