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精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

障害者自立支援法(国リハからレポート。長文です)

2006年07月06日 | Weblog
障害者自立支援法についてのレクチャーを受けるチャンスがあったのでレポーする。
佐久、南佐久地域の障害者福祉、地域リハビリテーションを推進するきっかけとなる制度と考える。

 7/4-6まで、埼玉県所沢市の国立身体障害者リハビリテーションセンター(国リハ)で開催 された高次脳機能障害支援事業関係職員研修会に参加させていただいた。国リハにくるのは昨年の義肢装具適合医師等研修会に引き続き2回目。当院のMSW(超優秀!)、リハのスタッフ数人とともに参加して、 レクチャーの後、みんなで飲みに行って帰ってから宿舎に帰って書いている。
 しかし、こういう、たまにいく平日の出張はとてもありがたい。出させていただいた上司や、診療所の代診などを引き受けていただいた同僚に感謝する。当直明けでの眠い頭ではたして起きていられるか心配したが大丈夫だった。

初日は厚生労働省の官僚(厚生労働省社会援護局障害保健福祉部企画課長補佐、武井貞治氏、精神・傷害保健課長補佐、杉江卓也氏)による障害者自立支援法 と、高次脳機能障害支援モデル事業の講演だった。地域の現場の人間の実践の話のように熱く伝わってくるものはないが、さすがに慣れているのか話は上 手で立て板に水のごとくよくしゃべりわかりやすい。介護保険制度のときにも感じたことだが、厚生労働省の官僚は頭が良いし、頑張っていると思う。NPOや行政、福祉施設などで手弁当で現場の人間がやっているよい実践を法的制度的にサポートして広めていってほしいものだ。(福ぽん、ファイトだ!)

「高次脳機能障害」とは何か聞きなれない方のために一応、解説すると、脳外傷、脳血管障害、脳腫瘍等の後遺症としての、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害等の障害のことを言う。交通事故などでの脳外傷を契機に、いままでできていたことができなくなり、本人も周囲もそれがどうしてなのかわからず、適切な支援もなされないまま、なんど就労しても失敗し、2次性にうつになり、引きこもり、自殺するなどという悲劇がおきていた。一見正常に見えるため周りからも理解されづらく、軽症の場合復職、復学の社会復帰にあたりはじめてそのハードルに気づくことが多い障害だが、しかし、今までの制度では身体障害、知的障害、精神障害のいづれにも該当しない、いわゆる「はざまの障害」で、そういった障害があること自体、医療者や福祉関係者も知らずに適切な連携もとれず見逃されていた現実がある。厚生労働省の推計では全国に約30万人程度いるとされ(18歳から65歳までだと7万人)、救命救急技術の進歩で急増しており、いまや医学的、社会的リハビリテーション 分野の一大テーマの一つだ。(自分の専門分野にしたいと考えている。高次脳機能障害をテーマとしたトレンディドラマや映画がヒットすれば一気に理解は広がる でしょうか?)
私個人としては先天的か後天的かの違いはあれ、アスペルガー症候群などの広汎性発達障害や、ADHD、統合失調症の後遺症等と生きづらさという点で支援は同様の枠組みでとらえてよいと考えている。モデル事業では現状で支援の手が差し伸べられていない、この一群の特徴をはっきりされるために高次脳機能障害に絞っている。)

 もっとも、おなじ高次脳機能障害でも、高齢者の場合は、現実問題として、認知症としての扱いとなり、当院の精神科医師の言葉をかりれば「残された日々を穏やかにすごしていただく」ことを優先して考えればよいのかもしれない。しかし先の長い若者が多い交通事故による脳外傷が中心の高次脳機能障害は、官僚の言うように「社会的に蓄積された資源を消費する側に回るか、生産する側に回るか?社会、本人、家庭にとって大きな課題。(セコイ 発想だが)」であるし、本人のQOLを考えても何とか社会参加を支援していきたいところだ。

  さて、平成18年4月1日より施行された障害者自立支援法である。障害者の扱いは平成15年度から、市町村が主体となって行政の権限として施しをしていた措置から、サービス利用者である障害者の自己決定を尊重し、主体となって使うサービスを選択できる支援費制度に変わり、さらに障害者自立支援法の施行に より介護保険そっくりな仕組みとなった。(介護保険をモデルにしてつくったのだから当然。3年後の改正では介護保険との統合が課題といわれている。)

 障害者自立支援法では、介護保険同様、収入や能力に応じた応能負担から、利用したサービスの一定の割合を負担する定率負担(応益負担)となった。また食費等のコストは自己負担となった。あまり切りつめをやると、社会保障でなくなってしまい、セィフティネットの役を果たさなくなるが、生活保護世帯や低収入者、市町村非課税世帯は上限キャップ等の負担軽減策は用意され、実質上、応能負担に近くなるという。
 制度利用には各種障害に対応すべく、介護保険の76項目+αの106項目の調査項目を基にしたデジタル判定と、主治医意見書を加味した審査会によるアナログ判定で障害程度区分が決まり、利用できるサービスの上限利用額(詳細未定)が決まるので、その中でコーディネータ(介護保険のケアマネに期待とのこと)を中心に本人の選択でうまく 地域にあるサービスを組み合わせ利用してくださいねという、これまた介護保険同様の仕組みである。

 本当は、ハンディキャップをもって生活している人の生存権と社会参加を保障するために必要な支援を必要なだけ行えるようにするが、福祉のフリーライダーと、障害者を食い物にしようとする事業者は許さない、という発想で制度設計してほしいところなだが国民を本当のところ信用していないのだろう。
 受益者は、若い障害者中心となるのだから、当事者自身も制度作りに参加して、物言わぬ(言えぬ?)高齢障害者の代わりとなって、介護保険もふくめた制 度改革に関わってほしいところ。その支援こそが、われわれリハビリテーションにかかわる専門家に期待されていることだと思う。(「あなたは私の手 になれますか?」を記した札幌いちご会の小山内美智子氏や、「こんな夜更けにバナナかよ」の故鹿野氏だったらなんというだろうか?)いみじくも官僚自身 (精神障害福祉課長補佐・杉江拓也氏)が言っていたように、「行政官は移動あるため制度の行く末を見届けられない。一貫性を保つためには皆様(当事者およ び我々現場の人間)の監視が必要。」なのだ。

 閑話休題。サービスの内容としては、身体障害、知的障害、精神障害の枠組みが取り払われ、いままでの施設系、居住系のサービスといった分類ではなく、訪問系、日中活動系、居住系という風に分類となった。一方で施設基準を緩め、複数の事業を組み合わせた小規模で多機能な多様なサービスを提供できるようにし、また就職に結びついて継続的に雇用につながるように生産活動の場、就労的な役割を果たす小規模作業所なども推進することで多様なニーズにこたえようとの目論みである。NPO、廃校の空き教室、民間住宅などの地域の社会資源をいかしさまざまな障害を抱えていても地域で普通に暮らせる街づくりを図る。キーワードは”多様性”で、このあたりのセンスは悪くないと思った。いわゆる「ゆびきりげんまん」など富山方式の宅幼老所や「せんだんの家」などの 逆ディサービス、「浦河べてるの家」などの地域での多様な実践が、やっと制度としても裏付けられた形だ。当院の関係なら「小海通所授産施設、福祉工房ぽっぽ」 や「宅老所、やちほの家」「せんたくハウスそよかぜ」などがそうだろう。

 この動きを推進し、地域の実情に合わせたきめ細かいサービス提供が可能となるように、地域生活支援事業という制度もつくられた。これは市町村、都道府県が予算の枠のかなで必要と思う事業をやってくださいというもので規模に応じていろいろな運営が可能である。レベルの低い自治体だと、いつものごとく、「新たな予算だ。ほれまた取りあえず新しいハコつくれ。」とやってしまうのではないかと心配ですが・・。予算の使い方には各々の自治体のやる気と能力が問われる。地域で地道に頑張っているNPO等や民間人の活動を支援するようなスタンスでやってほしいものだ。

 さて、この制度で、地域により8倍も格差があった障害者への支援費の地域格差、また障害種別の格差を減ることが期待されている。これにより、最低限のことができていなかった地域ではレベルアップが期待さるが、バランス感覚と、センス、行動力ともに優れ、地域で頑張っていた小規模自治体にとっては、ある意味、縛り無く自分たちの裁量で地域、個人のニーズにあわせて自由にやれた措置時代のほうがマシというかもしれない。事実、介護保険導入以来 地域で住民の命と暮らしを守る保健婦の活動は危機に瀕しているといいう。かつて地域の人々の生活、裏、表を知り尽くし、愛情と行動力で、地域に来た医師をも上手に使い、地域でのつながりをつくり、地域のために村でいろいろなものと戦い、医療福祉を必要な人に必要なだけ提供してきた村の保健婦。彼女たちが、いまや国や県からの、さまざまな施策や制度にあわせ実行するめ忙殺され、保健婦本来の公衆衛生活動ができなくたってしまってきているというのがベテラン保健師の共通の危機感のようだ。

 なにはともあれ、いよいよスタートを切った障害者自立支援法だが、この制度の素性は悪くは無いと思う。「ニーズにあったサービスが提供できるのか?」「障害者の定義」、「高次脳機能障害者の扱い」、「介護保険制度との統合」など、まだまだ3年後の改定に向け課題宿題を積み残した制度だが、実際に運用しながら、サービス利用者、提供者とともに良い制度にそだてていきたいものだ。

 本日も、本題の高次脳機能障害の支援モデル事業についても話があったが、これについては明日以降の話が中心となるので、それも踏まえて後ほどレポートしていきたいと思う。

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