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精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

地域医療を守れ

2012年05月12日 | Weblog
先日の再構築検討委員会で、やっと院内に向けて正式にマスタープラン素素案を公表するという方向になり、院内の会議などでも話し合われ始めたようである。もっとも昨年の職員全体集会で院長から公表されていたのではあるが、その後、院長からは意図的にか積極的な情報公開や議論は再構築検討委員会以外の場ではなされていなかった。
再構築検討委員会の広報はあったもののリニアックはあくまでも多くの検討課題の一つに矮小化され、情報をしっかり公開して議論しようよという動きは封じられ、リニアックの導入の是非を問う掲示は怪文書扱いされた。
日常業務だけでも精一杯で再構築どころではないというのが現場の実感であっただろう。
しかしやっと知らない間に物事がかなり進んでしまっており、とんでもないことになっているという危機感が職員や住民の間でも共有されはじめているようだ。他地域の方にも「大変ですね」と心配される始末である。
このブログの解説も院内外の多くの人に分かりやすいと言われ、役に立っているようで嬉しい。
意見や反論、不正確な点などがあれば指摘していただきたい。

来週、院長のヒアリングがあるが、そこでどのような話ができるか今から楽しみである。
どのような落とし所を作れるか・・・。

自分としては、臨床をやりながら、できるところから動いて行きたい。
研修医の救急外来のケースカンファレンスも再開し、在宅支援科から訪問診療に定期的にでるような枠も作った。
地域の医療福祉機関、安曇野赤十字病院や市立大町総合病院などとの様々な形での連携をさらに強化していければと思う。

そこで、だいぶ以前に買っていたが、途中までしか読んでいなかった「地域医療を守れ」という本を読みなおした。
千葉県の山武地区の東金病院のことが中心だが、丹波の柏原病院や北海道の「せたな」の事例、当地にもお越しいただいた伊関友伸先生(まちの病院がなくなる!?)のことも出てきて、昨今の地域医療再生の情勢をまとめた本となっていた。

地域医療を守れ―「わかしおネットワーク」からの提案
平井 愛山,秋山 美紀
岩波書店


要約して印象にのこったところを拾って抜き出しておく。

千葉県は人口は北海道と同じくらい多いのにもかかわらず医学部は千葉大学ひとつしかなく、主要な医療機関は東京に近い北西部のエリアに集まっている。
房総半島や太平洋沿岸部には「亀田メディカルセンター」や「旭中央病院」という臨床研修でも有名な病院があるが、ここまで東京から電車でも2時間以上かかる。
これは新幹線ができた今となっては長野県の佐久から東京に行く方が近い。新幹線ってスゲェ。
(もっとも、私の今いるエリアからは3時間以上かかりますけど・・・)

その間の九十九里のエリアも例にもれず卒後研修義務化や医局制度の崩壊のあおりをうけて、病院勤務医が減り医療崩壊寸前までいったが、東金病院の平井愛山先生を中心に「面で支える発想」で地域医療再生が図られてきた。

私も2006年に佐久で平井先生の公演を聞いたときになるほどと思ったものだ。→地域循環型の医療連携


医師不足時代に「新しく立派な病院を建てれば医者はあつまる」と主張し、医師不足対策の決め手として、病院新築を推進する地方行政関係者や議員がいるが、それは大きな誤りである。
本質は地域社会の崩壊であり、地域医療とは地域づくりそのものである。
地域医療にはマクロ的な視点が不可欠で、一人の患者の後ろには多くの患者が控えている。
患者という「点」から地域を「面」として捉える発想の転換が必要で、地域中核病院は自院の利益だけではなく、地域全体の医療の底上げに真剣に取り組む必要がある。
しかし、地域医療連携に不可欠なヒューマンネットワークとチームワークは一朝一夕には育たない。
これらを育てるには、みんなが同じ土俵に上がり、知恵と力を出しあう関係が必要だ。
そのためにまず取り組むべきことは、情報発信、そして対話の場をつくること。
正しい判断は正しい知識から。顔をあわせて勉強会を重ね、「人の健康・命を守る」という同じ目的に向かって、住民・医療機関・行政がそれぞれの立場から意見を出し合い、知恵をしぼらなくてならない。

東金病院とNPO法人「地域医療を育てる会」が一緒になって取り組んでいる若い医師のコミュニケーションスキルをおこなう医師育成サポーター制度もそのひとつで、地域で「医師を育てる」意識も根付きはじめている。
なんとか頑張って臨床研修のネットワークにも加わり、さらに内科認定医や内分泌専門医などを育てられる体制もつくり若い医師をひきつけている。

病院というハコは、あくまで医療を提供するために存在している。
医療を守ることが病院を守る結果になることはあるにしろ、病院を守ることが、医療をまもるということになはらない。
「はじめに建設ありき」で地域の「身の丈」を越えた分不相応な病院を建設すると、後に大きな禍根をのこすことになるということも全国の事例からも明らかだ。

山武地区でも新病院建設をめぐって、今もいろいろごたついてはいるようであるが、ネットワーク、人と人とのつながりがあればきっと乗り越えていけるであろう。
東千葉メディカルセンター建設の是非を問う東金市民の会


当地域での医療再生についても皆で真剣に考えなければならない。そのための場をつくらなければならない。

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