玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

2019年3月の観察会

2019-03-10 21:58:09 | 観察会


 2019年3月10日に観察会をしました。天気予報では少し前には雨、昨日には曇りでしたが、朝起きると青空でした。家族には「ホントに天気男だね」と言われました。確かに3年ほど毎月観察会をしていますが、雨で中止になったことはありません。
 今回は花マップとの合同にしました。というのは先日行った花マップで新しくメンバーになった人がいるので、調査の仕方を確認すること、また観察会の参加者にもそれがどういうものかを見てもらうのはよいことだと思ったからです。
 玉川上水駅に集合することにしました。南口に花マップの松山さんと新メンバーの新開さんがいましたが、ちょっと少ないようです。そうしたら花マップの小島さんがきて
「みんな上にいますよ」
ということで、皆さん集まりました。17人もいました。
 はじめに挨拶をして、一緒にすることの意味を説明し、花マップの記録の仕方などを伝えました。



さっそく歩き始めましたが、まだ春も浅いようでした。最初に見たのはアセビでした。


アセビ

アセビの説明をし、花マップの記録用紙に記録するところを見てもらいました。ウグイスカグラも咲いていました。


ウグイスカグラ

「あ。カモだ」
「あれがオスだろ?」
「あれはマガモのオスです。他の茶色いのはマガモのメスとカルガモです」



少し歩くと小平監視所につきました。そこは鉄柵があってコナラの林は途切れます。そこで説明をしました。
「ここが小平監視所で、ここより上流はたっぷり水が流れていますが、ここで東村山の方に送られて利用されます。そのため、ここより下流はぐっと水が少なくなります。その意味では、ここが今の玉川上水を大きく2つに分ける重要なポイントと言えます。それが一点。
 もう一点は、植物のことです。あそこで」
と言いながら、30メートルほど上流の林を指さしました。



「コナラの林が途切れます。そしてあそこまで」
と言って今度は下流の林を指さしました。
「この100メートルほどで林がない明るい場所になるわけです。それはこの監視所は水の管理で重要な場所ですから、がっちりした柵で囲うというわけです。そうすると、直射日光が当たりますから、林の下とは全く違う植物が生えるようになります。これはなんでしょう?」


「オオイヌノフグリ」
「こちらは?」
「ネコジャラシ」


エノコログサ

「そうです。ネコジャラシ、正確にはエノコログサと言います。これは粟おこしの粟と同じ種です。この果実は少し小さいですが、粟にそっくりです。こういう植物は明るいところでどんどん伸びます。夏になれば繁茂しますから、背の低い植物は競争に負けてしまいます。ここにあるこれはなんですか?」



「ヨモギ」
「そうです。草餅に入れる餅草です。こっちにあるのは去年の花の終わったものです」
「へー」
「ところで、お灸に使うモグサってありますね。あれはこの若いヨモギに生えている産毛みたいな毛を集めて作ったものなんですよ」
「えー、そうなの?」
「はい。どうやって集めるのか、そう考えるとすごいことですが、そうなんです。考えてみれば、ヨモギの成分が体の中に入るわけじゃなくて、加熱するだけなんだから、ヨモギでなくてもいいように思いますが・・・」
と言っていたら、ドクターたる関野先生が口を開きました。


関野先生

「チベットではモグサだけでなく、ビワのモグサもあるんです」
「ああ、ビワも微毛が生えてますからね」
「でも気圧が低すぎて火が消えてしまうものだから、焼けた鉄棒をそのまま皮膚に押し付けるんです」
みんなが「えー、熱そう」
「だから物理的に熱でツボを刺激するということなんだけど、すぐに燃えてしまってはダメだから、ヨモギのモグサはじわじわと長いこと燃えるのでいいんじゃないかな」
「そうか、なるほど。それに、あの匂いを嗅いでいると心が落ちつくから、そういう心理的な効果もあるかもしれないね」



「あれは効きそうな気がするからね」
「さて、こういう明るいところに生える草は補償点といって光合成ができる明るさが強いので、暗いところではダメなんです。林の下に生える草は明るいとまずいということはないのですが、明るいところでは他の草がどんどん伸びて覆ってしまうので、負けてしまうんです。
 どちらが優れているかということではなく、こういう競争し合う乱世には元気よく上に上に伸びる力がある草がのし上がるんです。私は自分のことを考えると、つくづく林の草だと思いますよ」
というと皆さん笑いました。
「話はまだ続きます。この明るい場所は光は十分にあるからエノコログサやヨモギは育ちますが、これらは踏みつけには弱いわけです。見てください。歩道の方ではなくなって代わりにこういうのが生えています」
そこにはヘラオオバコとセイヨウタンポポが生えていました。


エゾオオバコ

「見てください。こういうのをロゼットと言います。地面にペタッとくっついています。これは縦に伸びる草に比べて、踏まれることに強いということもありますが、今のようにまだ気温が低い時、こうして触ってみるとわかりますが、昼間は地面が案外暖かいのです。光合成はクロロフィルによる化学反応ですから、温度が高い方が合成力が高くなります。少しでも温度が高い方が有利ですから、地面にくっついていることで温度を有効利用できるわけです。
 たった1メートルほどの範囲ですが、ここまでとここからでは」
と歩道に近いところと離れた場所を指さして言いました。
「・・・違う環境があって、それぞれにふさわしい植物が生えているということを見ることができるというわけです」




 そのあとで、水面近くまで降りられる場所に行きました。松山さんによると、ここの水は処理水だから水温が高いということでした。そこで記念撮影をしました。

 その後、ウグイスカグラなどを見つけて記録しました。しばらく歩くと南側に畑がありました。そこにはホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ナズナ、タネツケバナ、オランダミミナグサ、ハコベなどが生えていて、皆さん観察していました。これらは玉川上水沿いの林にはほとんどないこともおもしろいことです。


ホトケノザ


ナズナ


ヒメオドリコソウ


タネツケバナ








テントウムシ

 その畑の続きには梅が植えてあり、ちょうど花が咲いていました。下にはナズナがびっしり生えていました。



 畑を後にして、また上水を歩いていると、
「これなんですか?」


「クサイチゴです。キイチゴの仲間です。不思議なことに、キイチゴ類でよくあるのはニガイチゴとモミジイチゴなんですが、玉川上水ではごく少ないんです。どういうわけですかね。ニガイチゴは真っ赤な実をつけます。キイチゴの仲間はRubusという属ですが、それはRubiaから来ていて、赤いという意味です。赤い実をつける植物というわけです」



「食べられんですか?」
「はい、とくにモミジイチゴはとても美味しいです。ニガイチゴも苦くはありません」
「ヘビイチゴは?」
「あれは全然違います。オランダイチゴもそうですが、花の下部(花床)が肥大して、その表面に種子がついています。だから、漢字では四角の中に点々で母、それに草カンムリというわけです。その点、キイチゴは中に種子があって周りにジューシーな果肉があり、その小さな果実が集合したものです。大きさはヘビイチゴなどと同じくらいになりますが、由来は全然違うわけです」



「なるほど」

「ここにササがありますが、これはクマザサです。熊笹ではなく隈笹で、緑色の縁が冬になると白くなり、そのコントラストがきれいなものです。


クマザサ

お寺などによくありますが、山にはありません。さっき、もう少し葉の細いササがありましたが、あれはアズマザサです。この前NHKで牧野富太郎をしていましたが、あそこで奥さんの話がありました。壽衛子さんですが、牧野は自分が見つけたアズマササの変種にスエコザサと命名しました。
 ササは笹と書きますが、あれは国字、日本で作った漢字です。多分世界のどこにでもある竹という意味でしょう。日本人にはありふれた植物ですが、ササは中国では揚子江以南、日本よりずっと南にしかありません。イネ科で大量にあって常緑であるのはユーラシアでも北アメリカでも中緯度以北には全くありません。日本列島だけが例外なのです。それは日本が湿潤だからです。実はこれがシカにとって重要で、食物が乏しい冬に常緑の植物が大量にあるのですから、またとない食料になるわけです。そういうわけで、日本人にとってありふれたササというのが世界的にはめっずらしいものだということです」
 そこで時間を見ると1時間近くが経っていました。ところが記録用紙をみると11の区画(橋と橋の間)のうちまだ2つしか進んでいません。
「ちょっと急ぎましょう」
みんなが笑いました。
小川橋を超えた時、それまで歩いていた南岸から北岸に移りました。そこにはアマナの葉がたくさんありました。これだけあればもしかしたら一つくらい花が咲いているかもしれないと思って探しましたが、見つかりませんでした。アマナは4月の第1週に咲きます。1ヶ月も早いのだから、仕方ありませんが、今年は暖かいからもしかしたらと思ったのです。諦めて先を急ごうと思っていた時、列の後ろの方から「せんせーい!」と豊口さんが大声をあげました。
「アマナがあったんだな」
と思って行くと、まさにそうでした。
「良かったですね」
とみんなで眺めました。


アマナ

 その後はやや急ぎ足で進みましたが、いこい橋を超えたところで、シュンランが見つかりました。


シュンラン

 地味な花なので見過ごしがちです。おもしろいことに、そう思って辺りをみると、他にもいくつかありました。
「あると思ってみれば見つかるんだよ。これまでもきっと見落としてるな。もう一度見ないといけないな」

 そうして上水公園に達しました。この辺りになると、しょっちゅう歩いているので「ナワバリ」感があります。
「この辺りは小平らしい景観ですが、多分1週間たてば新しい緑がぐっと増えます。1ヶ月経てば様変わりです。そのくらい早春の林の変化は劇的です」
鷹野橋について締めくくりました。
「時計を見たら1時になっていました。いつも予定より少し伸びるのですが、今日は大幅に伸びてしまってすみません。お腹もすきましたね。今日は少し長めの距離を歩いて、花マップの記録の仕方を見てもらいました。いろいろ観察できて楽しかったです。花マップはこれから春の号のための情報収集をします。それから玉川上水の違う場所を選んで参加できる人が普段歩かないところを歩くようにすることを予定しています。観察会の方は解説だけでなく、簡単な調査の要素を入れて続けます。では解散とします。ご苦労様でした」

今回も写真は豊口信行さん撮影です。ありがとうございました。
コメント
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