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玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

継続する精神

2016-12-10 17:26:18 | ぽんぽこ便り
皇居のタヌキの食性を紹介しましたが、私はその論文をたいへん深い感銘をもって読みました。ポイントは2つあります。
 ひとつは検出物の識別力が高いということで、これは植物の専門家の中でも特別に知識の豊富な人が担当したからのようです。
 もうひとつは5年間、毎週のように糞サンプルが集められた継続性ということです。しかもその5年間にほとんど年次変動が「なかった」のです。
 私は学生とツキノワグマ、ニホンザルなどの食性を調べて、ナラ類の結実が年によって大きく変動するので、数年は調べなければ簡単に結論が出せないことを体験しました。だから長期継続の意義は人一倍知っているつもりです。しかし、私のような凡庸な研究者からすれば、最初の年と次の年で変動がなければ、そんなに継続しなくてもまとめてもよいと考えてしまうことろです。しかし、皇居では5年も継続され、結果としてはそのあいだ食性が安定していたという事実が明らかになりました。そして、そのことが皇居の森林の安定性をずしりと重みをもって伝えてきます。そこに私は陛下の自然に対する謙遜な精神を読み取りました。

皇居のタヌキ

2016-12-10 16:05:21 | ぽんぽこ便り
玉川上水のタヌキということは、東京のタヌキということになりますが、東京のタヌキで忘れてはならないのは皇居のタヌキです。世界の大都市東京のまん真ん中の皇居に、野生動物のタヌキがすんでいるということ、それ自体が驚くべきことですが、まちがいなくいます。そのことの意味は改めて考えるに値することですが、ここではふれません。ともかく皇居にはタヌキがいます。その食性を5年間も追跡調査をした成果が今年英文の論文として公表されました。筆頭著者は明仁陛下です。
 それによると最も多くの糞から検出されたのはムクノキでこれは津田塾大と同じです。次がイイギリ、その次がクサイチゴですが、これらは津田では確認していません。その次がエノキでこれは津田でも出ています。そのほかイヌビワ、タブノキ、カタバミなども出ていますが、津田では出ていません。
 このように、概して皇居のほうが多様性が高く、明るい群落に生える植物も出てきています。このことは皇居のほうが安定した常緑樹林と落葉樹林や草本群落なども混在していて、タヌキが多様な食物を食べることができていることを示唆します。もっとも皇居では分析した糞数が164もあり、私が分析したのはまだ69で半分にもなりませんから、そのことも反映していますが・・・。

その特徴は

2016-12-10 15:19:44 | ぽんぽこ便り
 まだ1年がまわっていないのですが、2月から12月までをみたので、津田塾大のタヌキの食性が他の場所にくらべてどう違うかを考えてみます。
 津田塾大のキャンパスはシイやカシの常緑広葉樹が多く、うっそうとした立派な林があるのが特徴です。立派な林があるとタヌキの食べ物も豊富にあると思いがちですが、どうもそうとは言えないようです。
 シイやカシの林には秋にドングリがたくさんなりますが、タヌキの糞から殻はでてきませんでした。東京西部のタヌキはケンポナシ、ジャノヒゲ、ヒサカキなど雑木林に多い植物の果実、それに林縁にあるサルナシやキイチゴの仲間の果実をよく食べるのですが、これらが津田のタヌキの糞からはほとんど出てきませんでした。これらの植物はいずれも雑木林(コナラやクヌギの落葉樹林)に生える植物です。こういう植物は常緑樹林にはあまりありません。昆虫は糞からよく出てくるので、まずまずいるのだと思いますが、バッタなど草原にいるような昆虫ではなく、甲虫が主体でした。食物が乏しくなると哺乳類や鳥類がでてきますが、これはほかに何もないから死体を探して食べるのだと思われ、ほかの場所でも同様です。
 やや意外だったのは人工物が意外と少なかったことです。市街地の中にあるわけですからもっと多くでてきても不思議ではないのですが、その意味ではだいたいはキャンパス内の自然物でまかなえているようです。キャンパス内には大きなイチョウの木があってたくさんのギンナンがなります。ただしカキノキは確認していません。
 そういうことを総合的に考えると、津田塾大学の常緑樹林に暮らすタヌキは、雑多なものは食べないが、ギンナン、カキノキ、ムクノキなど季節ごとに供給される食べ物を利用し、乏しくなると昆虫や哺乳類・鳥類などを利用しているといえそうです。ただし秋のカキノキはキャンパスから出てどこかで見つけて来るようです。


津田塾大学のタヌキの食性を特徴づけるカキノキとムクノキの種子


ギンナン(イチョウの種子)





津田塾大学のタヌキの食性

2016-12-10 15:15:30 | ぽんぽこ便り
 タヌキの糞を分析してわかったことを紹介しましょう。おもな内訳を説明しておくと、動物質は昆虫、鳥類、哺乳類など、植物質は果実、種子、緑葉など、それに人工物です。「脊椎動物の骨」とあるのは、鳥類か哺乳類かわからない骨です。昆虫には甲虫の翅、脚、幼虫などがあります。種子は多くのものは種(しゅ)まで名前がわかります。
 さて、季節変化をみると、2, 3月の冬の終わりには鳥類や骨、それに果実・種子や緑葉がゴチャゴチャとでてきます。果実・種子としてはギンナンが多いのが目立ちました。春から夏にかけては昆虫が20〜40%と増えます。春から初夏にかけて果実は少なくなり、哺乳類が増えました。7月は昆虫と緑葉が主体になりました。9月以降は果実と種子が増えますが、主体はカキノキ(柿の実なのですが、植物学ではカキノキといいます)とムクノキでした。とくに10月は果実ばかりという状態でした。12月になると果実・種子がやや減り、昆虫や哺乳類がでてきました。


津田塾大学のタヌキの糞組成の季節変化


糞を覗く

2016-12-10 14:54:30 | ぽんぽこ便り
紹介した肉眼的にわかるものは一部で、大半は微細な動植物の破片です。それを調べて糞の組成を知るにはひと工夫が必要です。私(高槻)はあれこれ試行錯誤をしたうえで、スライドグラスの表面に1mm間隔の格子がついたものを使い、糞からでてきた破片が覆う交点の数をカウントするという方法を採用しています。
 若い頃、シカの食性を調べましたが、このとき初めて糞分析法に挑戦しました。これは日本で最初のもので、その後の私の研究を大きく進めました。私が東大にいたとき、スペインからアイムサ=カンポス・アルセイス君が留学してきました。彼はいま、マレーシアで大学の先生になり、アジアゾウ研究を精力的に進めていますが、当時、大学院に入る前に論文を書くために何かしたいというので、モンゴルの家畜とモウコガゼルという野生動物の食性比較を糞分析でしてもらうことにしました。


Ahimsa Cam@os-Arceiz @ Malaysia

彼がスペインのおばあさんと電話したとき、
「おまえ、日本みたいな遠い国にいって何をしてるんだい?」
と訊かれたので
「モウコガゼルの糞を分析しているんだ」
といったら、しばらく絶句してから、オイオイと泣き出したので、とりなすのに困ったと苦笑いしていました。それはそうでしょう。なにも極東の小国(スペインのおばあさんにとってそれはどれほど遠い国であることか)まででかけて、動物のウンコに取り組むなんて、こんな情けないことがあろうか、と思われたのは無理からぬことです。

 私がシカで初めて糞分析をしてから30年以上が経ちます。
「飽きないか」ですって?
ちっとも。ますますおもしろくなっています。
 昨年、定年退職したのですが、わが書斎で顕微鏡を覗いています。