道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

シャクシャ

2009年11月04日 | 食物・料理
昔、浜名湖岸村櫛町に在った小体な呑み屋で、〈シャクシャ〉という妙な名前の魚の煮付けを食べたことがあった。身ばなれがよく、肝が格別に旨かった。

シャクシャとは土地の呼び名で〈アイゴ〉という種名、成魚なら30cmにもなる魚だと後で知った。暖かい海を生息域にし、漁獲は難しくないのだが、流通市場に出されることはない
 

その理由のひとつは、背ビレ、腹ビレ、尻ビレの棘に毒腺があること。うっかり刺されると、疼痛が数日も続くという。しかも魚が死んでいても、棘の毒は消えないらしい。これでは、誰もが取り扱いを嫌う。

もうひとつの理由は、食餌のせいで独特の磯臭さがあること。雑食性だが主に藻を食べるため、内臓に藻の臭みがある。獲れたらすぐにワタを出して洗わないと、臭いが身に移ってしまう。

そんなことで、この魚を料理して食べるのは、漁師や釣師など、慣れた人たちに限られる。県内でも浜名湖と御前崎を除き、一般にはほとんど知られていない。

最近になって、そのシャクシャが、浜名湖の水産物販売店に並ぶようになった。大きいのもあれば幼魚もある。大きい魚は、あらかじめ棘を鋏で切ってあって調理に危険はないのだが、見慣れない魚体にたじろぐ客が多い。店員が勧めてもなかなか手を出さない。一度食べてみれば、必ずリピーターになると思うのだが。獲れたてを刺身で食べてみたが、味は充分賞味に堪える。

アイゴの煮付けは、日本酒の肴としてまことに申し分ない。特にキモが旨い。この魚の棘に毒が無く、ワタに臭みが無かったなら、広く賞味されていることだろう。沿岸漁業の主体が養殖で成り立っている昨今、流通に乗らないが故に天然モノしかないこの魚の価値は、もっと見直されてよいと思う。


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