登山していた頃には、いつも胸ポケットに入る水彩セットとハガキサイズの用紙を携行していたが、人が周りに多勢居たり、描く時間がなかったり、疲労困憊してその意欲が湧かなかったりと様々な障りがあって、山のスケッチは僅か20点ほどしか描けなかった。
彩色までを含め10分から20分以内だからもっと描けそうなものだが、その気にならないことにはどうしょうもない。描かずには其処を去れないほどの情動が必要だったのだろう。
ある年('09)の秋、台風が静岡県に上陸して深夜に関東に抜けるという予報が出ていた。明日は台風一過の好天に違いないと信じ、山友の運転する車で、強風と豪雨を衝いて奈良田に入り、その夜は車中で台風の通過を待った。
翌朝、台風一過の登山口広河原から北岳を目指し、満を持しての白峰三山縦走を開始した。台風の通過直後の空は、高度を増すにしたがって澄み渡り、眺望は申し分なかった。
初日は北岳山荘に泊まり、翌日、快晴の稜線を漫歩して間ノ岳を越え、農鳥小屋へ早目に着いて荷を下ろした。稜線歩きで疲労が少なかったので、食事前のひと刻、小屋下の広場から仰ぎ見る農鳥岳を描くことに集中できた。
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