道々の枝折

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動物性脂肪食

2021年06月02日 | 人文考察
ハンガリー人は、ヨーロッパ人の中でも遊牧民族の血を色濃く受け継いでいるらしく、国民もそれを自覚しているようだ。
その特徴の最たるものは食生活で、動物性脂肪の摂取量が極端に多いことである。

かつてテレビで、各国の新婚家庭を訪問し朝食を視察する番組があった。ブダペストの新婚さんが朝からラードの角切りを食べているのを見て仰天した。とにかくハンガリー人は、動物性脂肪の摂取量が半端でないと知った。
もしやと思って調べてみたら、ハンガリー人の心疾患者数は世界一位だった。炭水化物や砂糖を摂取する現代の食生活で、毎度の食事が動物性脂肪主体で成り立っていては、身体は堪らない。

どうして遊牧民の末裔が動物性脂肪を好むかというと、祖先たちが穀物をつくらず、家畜に依存する食生活が永かったからである。

遊牧民は穀物栽培を嫌う。遊牧の適地である草原を破壊する農耕は、彼らにとっては忌むべき行為だった。
手近にいる家畜から採れるバターをはじめとする動物性脂肪食品で必要なエネルギーを賄うのが、遊牧民の食生活の基本だった。

草原や砂漠を長駆移動する遊牧の人々には、①腐敗しにくく②調理に水を要さず③携行に便利でカロリーが高い動物性脂肪は、他の食物の何物にも増して優れた食品だったろう。
1グラムあたりのカロリーは9kcal、糖質やタンパク質の2倍以上の熱量がある。

穀物は農耕民から掠奪するかまたは交易により手に入れたが、食性を換えさせるほどの量は得られない。
何千何万年もの遊牧生活で、空腹を満たす動物性脂肪食品に馴染んだ遊牧民の末裔が、現在もその食味を嗜好するのは、農耕民の末裔が小麦や米への嗜好を保っているのと変わらない。

遊牧民族が中世世界で精強な軍隊を維持できたのは、騎馬と短弓など兵器にも増して、動物性脂肪食に負うところが大きかったと思う。動物性脂肪主体の携行食が、彼らの高速移動を、可能にしていたのである。

農耕民族の軍隊は、作戦行動にあたり荷駄・輜重で穀物と水、燃料を運ばなければならない。調理に水を必要とする穀物は、軍隊の機動性を大きく損ねる。銃火器が実用されるまでの遊牧民の軍隊が、向かうところ敵なしだったのは、高い機動性を有していたからである。

かつて登山の携行食に「ペミカン」というものがあった。由来は北米先住民の携行食で、獣脂に干し肉やドライフルーツを混ぜたものである。それは欧米の登山家に採用される。

日本でのペミカンは、外国人登山家を経て日本の登山家に普及、大学の山岳部の携行食に取り入れられた。野菜やナッツ、調理した肉を刻み混ぜ、ラードで固めたものと聞く。レトルト食品が普及するまで、ペミカンは縦走登山の必携アイテムだった。

狩猟民族インディアンが剽悍で機動力があったのは、ペミカンとかビーフジャーキーなど、調理を要しない携行食に負うところが大きかったからだろう。

してみると、現代の農耕民族出身の軍隊は、機動力を支える携行食においてハンディが大きい。カロリーの半分以上を米に依存し、動物性脂肪の消化力が劣る日本人の戦闘糧食(レーション)は、余程緻密に設計されたものでなければならないと思う。兵器と同等の意欲をもって、レーションの開発に当たらなければ、海外の軍隊に伍していけない。災害時の救急食も、おにぎりやカップラーメンでは落第である。




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