道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

抽水植物

2012年08月29日 | 自然観察
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前エントリーで紹介した馬込川左岸の、宗良親王上陸顕彰碑のある辺りには、ヨシ、ガマが密生し、遠目には草原に見える。ヨシはイネ科、ガマはガマ科に分類されるが、それぞれの種は互いに覇を競い合うかのように群落を固めている。

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この国の始めの頃、低湿な平野部や盆地部の池沼には、これら抽水植物が見渡すかぎり叢生して草原状を呈し、トンボ(秋津)が群れ翔んでいたと神話に記されている。その豊葦原のクニに、水稲栽培の技術(農耕と灌漑)をもった人々が土着し、以来世々の住人は葦原を稲田に改良する作業を営々と続け、豊葦原瑞穂国(トヨアシハラミズホノクニ)を造り上げた。

この列島における稲作農耕の黎明期には、低湿地を覆い尽くしていた在来植物のヨシ・マコモ・ガマを駆逐して水田化する永い苦闘の歴史があったにちがいない。米の収量増産にともない、人口は飛躍的に増え開墾はいっそう加速して、江戸時代には、治水可能な低湿地は余すところなく水田となった。

明治以後の急速な工業化は、耕作地に成らず残っていた低湿地と海を埋め立て造成し、産業の立地と住宅用地として利用した。天然のままの水辺の自然景観は、それによって日本からほとんどが失われた。今日、これら野生の抽水植物が自生している場所は、微々たる面積に限られている。人間の生活が自然に依拠している以上、利用と保護のせめぎあいは、果てしなく続くだろう。

抽水植物には水質浄化の機能・作用があり、水質の悪さでは定評のある佐鳴湖では水質改善に活用されている。

通りかかった釣り人に訊くと、馬込川のこのあたりでは今キビレが釣れ盛り、一昨日は30cmもの獲物を釣り上げたと言う。セイゴも数多く上るらしい。岸辺に密生している抽水植物のはたらきで、視た目よりも水質が良いのかもしれない。

高度成長期に進んだ河川湖沼の汚染は、今着実に改善に向かっているようだ。何事も、旧の状態に復すのは無理としても、悪い方向に向かってさえいなければ、それを善しとすべきだろう。

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