道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

チビドリ

2010年08月30日 | 随想
ゴーヤの花にチャバネセセリがとまっていた。子供の頃にはこの蝶と近縁のイチモンジセセリとの違いなど知らず、双方をまとめてチビドリと呼んでいた。

8月も終り頃になると、急に目に付くようになる地味な茶色の小さな蝶。それでいて身体の割に頭と目が大きく、顔が可愛い。翅の面積が極端に狭いから他の蝶のように優雅に翔べず、翅を早く小刻みに動かして高速で飛び回る。なぜか人を怖れない。フヨウやムクゲの花に群がり、夢中で蜜を吸っているこのチビドリだけは、幼い子供達でも容易に素手で捕らえることができた。

他の華やかな色彩の蝶類が目立つ時期にはそれらを追い回し、この蝶の存在をつい忘れているのだが、ツクツクボウシの声を聞く夏休みの終わり頃になると、ようやくこの虫に目を向けるようになる。

これを生き餌にして、トンボを捕らえる遊びがあった。イネ科のメヒシバの穂を一本だけ残し、種をしごきとって蝶の胴体のくびれたところを縛る。そしてその草の茎を持って、頭上に高くかかげる。トンボの目には、メヒシバの細い穂先に結ばれているチビドリが、自然に翔んでいるように見えるのだろう。あの強力な視力で見つけると、好い獲物とばかりにとびついてくる。魚釣りで謂うなら泳がせ釣り、まさにトンボ釣りだった。

罠と気付かず捕まえた獲物にしがみついて離さないトンボの、捕食本能むき出しの荒々しさに驚きながらも、アミやモチ竿で捕るのとはひと味違うスリリングな興奮を感じたものだった。

トンボ釣りという遊びも、テレビが普及し始めた頃から他の多くの野遊びと共に廃れていった。この間、生き物の生育環境も著しく変化した。かつては空き地や道脇の至るところに群生していたメヒシバも、除草剤によって駆逐されつつあり、川の土手などでしか見られない。チビドリの数も激減した。そもそも、ターゲットのトンボの姿を見ることがめっきり少なくなっている。孫にトンボ釣りを実演して見せるのは無理かもしれない。

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