味は好かったが、〈パンガシウス〉(別名バサ)なる原材料名を見て愕いた。メコン川流域をはじめ、南アジア一帯の河川に生息する、大ナマズの一種だという。大きなものは2mにもなるとか。パンガシウスは学名で、英名はシャーク・キャットフィッシュというらしい。鮫ナマズでは人は買わないだろう。流通させるにあたって、ラテン語名を流用しかなかったのだろう。
欧米での魚の料理は、フィレの形で調理するのが普通だから、淡白な白身で大柄なこの魚は、冷凍してフィレ加工され、EU・北米に盛んに輸出されているらしい。日本も欧米並みに輸入し、外食産業などで、タラに代る白身食材当てられている。もちろん養殖である。
しかし、数万年にわたる列島での生活実績をもつ、魚食民族の私たち日本人、特に私のような魚好きは、海魚のタラならともかく、淡水産大型ナマズのフィシュフライと聞くと、食欲が減退してしまう。
日ごろ淡水魚(川魚)好きを吹聴しているが、それは山紫水明な日本の清流や湖水で獲れる川魚に限ってのこと、常に濁って水量の多い大陸河川育ちのの巨大魚など、食べたいとも思わない。近くの佐鳴湖に、中国原産のソウギョが棲息しているが、食欲を唆られる日本人は先ずいないだろう。
私は以前から、是非一度ナマズの蒲焼を賞味したいと願っているが、これは日本産のナマズを想定してのこと。国内のナマズ料理は中国の養殖モノが主流になっているようなので、未だに味わったことがない。
欧米人で魚の鮮度に拘るのは、フランス、イタリア、スペイン、ギリシャなどラテン系民族で、ゲルマン系民族は魚を常食にしないこともあって、パンガシウスにあまり抵抗がないらしい。日本人の消費者は、魚の鮮度を目で確かめる習慣があり、お頭付きは、新鮮な素材であることを示すものである。
ところが昨今の若い主婦は、頭が付いた状態の魚は買わないそうで、今は調理に便利なフィレが主流である。魚の調理が欧米化している証左だろう。
目が怖いなどと聴くと、「カワイコぷるのもいい加減にしろ」と言いたくなる。それにしても、食の多様化はとどまることがない。
調べてみたらこの〈パンガシウス〉、冷凍食品のフライ材料として業務用スーパーで大量に売られているらしい。相当給食や家庭料理に浸透していると見てよいだろう。美味でクセがなく価格も安ければ、消費者に歓迎され普及するのは当然だ。
もともと欧州では、ナマズを食べる食習慣まあるようだし、アメリカのミシシピー川のナマズ料理は有名だと聞いている。欧米風魚食文化の逆輸入ということになるのだろうか?
昨今ではスーパーで頭の付いた魚は若い主婦に全く人気がない。お頭付きの塩焼き、煮付けは料理に手間がかかり、共働きの家庭でのメニューに向かない。頭・皮・骨を除いたフィレなら、フライパンで焼くか揚げるだけだから、手間がかからない。子どもたちも、魚のフライは給食で慣れている。魚のフライというとアジフライがメインだった私たち世代の食の記憶は、遠くなるばかりだ。
食事全般が欧風化して70年、魚も欧風調理に向く種類と下拵えが一般化した。その最たるものはサーモン(実際はレインボウ・トラウト)である。これも大きいからフィレ加工に向く。
私のように近海天然の刺身・焼魚・煮魚に固執する人間は、社会的にも家庭的にも、邪魔くさい存在になりつつある。欧米人や中国人から見れば、小魚を箸でチミチミ突ついて食べる日本人の魚の食べ方は、呆れるほかはないだろう。








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