硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 66 

2021-06-29 21:05:38 | 日記
「でしょ。でしょ。なんか嫌いってわけじゃないんだけど、好きになれないって言うか・・・。内面が大事だっていう人いるけど、そんなの付き合ってみなきゃわかんないじゃん。おかしな人だったらホント大変だよ。」

まったくその通りだわと、心で呟き苦笑いする君塚明日香。

「でも、ぎゃくに、好きになるのは瞬間にわかっちゃうもんだよ。」

君塚明日香とは対照的に、一目惚れ肯定派である村主詩音は、自分の感性に素直だ。情熱に生きる人と言ってもいいかもしれない。初体験は君塚明日香よりも若干早かった為、君塚明日香を焦らせる原因にもなったが、彼女ほど波乱に満ちてはいない。
それは、村主詩音が一目惚れという運命的な出会いを信じているからであり、彼女自身から告白する事でしか、交際が始まらなかったからである。
そして、好きな相手に尽くす事を苦とも思わず、むしろそうする事で、精神は満たされていた。

そういう行為が性差別や不平等を生むのだと批判する者もいるが、ジェンダー問題やSDGs等は生徒会における重要な議題の一つであり、彼女自身にも、平等とは何かという意識は芽生えていて、しっかりとした意見も発信できる社会性を持っていた。
その上で、好きな人に尽くしたいと思うのは、そういった社会問題に正面から取り組む事より、まず、一人の女子としての幸せを感じていたいという想いと、好きという感情に嘘をつかないという気持ちと、その延長線上に、自身の家庭と同じように、温かい家庭を持ちたいと気持ちを秘めていたからである。