硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 61

2021-06-24 21:06:12 | 日記
「あ~。そう見えちゃう? けど、川島君って、友達とは思うけれど、彼氏の対象になるかというとなんか違うんだよね。」

動揺している事を悟られないようにと、きっぱりと真実を語る平川綾乃。こう答えると、それ以上ツッコめないと踏んでの明回答だ。
その隣では、頷きながら長い手足をばたつかせ、「わかる~。そういう人いるよねぇ。イイヒトなんだけど、よく分からない人。」と、おどける君塚明日香は、見た目からでは想像のつかない、意外な体験によって、その解を導きだしていた。しかし、彼女にとって、それは黒歴史であり、なかったことになっている。

その始まりは、中学三年生の夏休みも数日を残した、少し暑さも和らぎ影が伸び始めたクラブ活動終りの部室での出来事であった。
女子中学生が集まれば、自然に会話は盛り上がるものである。そして、多感な少女達の話は、初体験の話になり、君塚明日香を除いた全員が「すませた」と告白した。
当時の君塚明日香は、まだ幼く、そう言う類の話には免疫体制がなかったため、ダイレクトに衝撃を受けてしまい、「私だけ遅れているのだ」と、いう孤立感に苛われ、気持ばかりが焦り、物事を冷静に考える事が出来なくなってしまったのだった。
そんな心理状態を引きずったまま、二学期が始まり、学業にもクラブ活動にも身が入らない悶々とした日々を送っていたある日、何処かぼんやりしている君塚明日香の様子を見かねた友達は、元気づけようと、隣町の中学の同級生で、今では名前も思い出せない、ちょっとカッコよかったチャラ男を紹介してくれたのであるが、好きか嫌いかもわからないまま、雰囲気に流されて、2回目のデートで、ささげてしまったのだった。