硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「となりのトトロ その後 五月物語。」 23

2014-01-14 08:19:56 | 日記
「まぁ。紆余曲折だったわね。これで納得行った? 」

「うん。」

「そう。よかった。」

「でもね、こう話すとなにか難しいような感じがするけれど、実際は楽しい事が多かったように思うわ。学生運動を通していろんな人に会ったし、いろんなところに行けたからね。」

「いろんな所って? 」

「そうねぇ。一人では絶対に足を踏み入れない所。たとえば、演劇なんてよく解りもしないのに、演劇の好きな日大の人に連れていかれたシアターアート新宿文化や草月堂、ジャズと文学の好きな早稲田の人に連れていかれた、新宿風月堂とか、あと新宿ピット・インね。」

「それは? 」

「娯楽よ。娯楽。う~ん。アートと言った方がいいのかしら。」

「芸術? 」

「まぁ、そう言った方がいいかも。あの頃は何も知らない娘だったし、見るものすべてが刺激的だったわ。寺山修二さんとかオノ・ヨーコさんは良く解らなかったけれど、ジャズは衝撃的だったわ。社会に出てからも、その早稲田の友達とピット・インや、そうそう、国分寺のピーター・キャットにはよく行ったわ。あ~懐かしいわね。村上君との会話は知的で本当に面白かったわぁ。」

懐かしそうに語る姉を見ながら、この話は何処まで行くのだろうかと思って聞いていた。

「そういえば、その反動もあってか大学の3年になってから、山登りなんていうのも始めたわね。あれも、大学の先輩の誘いだったなぁ。」

「あーっ。それ覚えてる。車に乗った友達が迎えに来てくれて、大荷物を背負って出かけてた頃の事でしょ。姉さん、前日になるとすごく嬉しそうに準備してたのもね。」

「あら。覚えているの。」

「そりゃそうよ。あんなに生き生きとした姉さん見るの久しぶりだったから。」

「そうかぁ・・・。そうね。今思えば自然に親しむなんて、松之郷を出て以来だったからかもしれないわね。」

「そうだね。大学に行き始めてから、ずっとここにいたものね。」

「うん。だから自然に身いている自分を感じるとね、心がすーって澄んでゆくのよ。それがすごく不思議で、山からここに帰ってくると、思いのほか勉強に集中できたことも、山登りが好きになった理由だったわ。都会で暮らしていると何かと便利で有難いけれど、人間の根源的な要素が薄れてしまうような気持ちにもなるわね。」

「そう言うのって、姉さんらしいね・・・。でも、山登りっていえば、一度だけひどく疲れて帰ってきた事なかった。いつも、はつらつとして帰ってきてたから、その時の印象がすごく鮮明に残っているのよ。あの時、何かあったの? 」

そう言うと、姉は「う~ん。いつの事だったかしら。」といって腕組をした。