硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「となりのトトロ その後 五月物語。」 20

2014-01-11 08:41:09 | 日記
「確かにそうなんだけど・・・。恋愛に対して弱虫だったのよ・・・。」

恋愛事となると姉はいつも慎重で、石橋を叩いて渡るようにいつも友達や両親に相談していた事が多かった。今の旦那様との出会いも文部省に勤めていた時に上司から持ちかけられたお見合いだった。

「弱虫って・・・。」

「うん。あの時私にもっと勇気があったら、今とは違う人生を歩んでいたわ。」

恋愛に勇気が必要。私にはそう言う気持ちは分からない。誰かを好きになったら、その人の事だけを想えばいい。すごく簡単な事なのになと思った。

「そういう姉さんの気持ちは、私には分からないなぁ。」

「そうね。貴方の恋愛はいつも猪突猛進だものね。でも、それで私達にどれほど心配させたと思っているのよ。」

姉はそう言ってフフフと笑った。

「またそのはなしをもちだすぅ~。」

そう言われると本当に困ってしまうけれど、今思い出しても無鉄砲だったなと思う事がある。それは私が高校3年生の一学期の終わり頃に図書館で出逢った大学4年生の彼に一目ぼれしてしまって、何度目かの図書館で私から告白して、その年の夏休みの間、親には友達の家で勉強すると嘘をついて、彼のアパートに泊り込んだことがあった。
それでも、母さんには心配させたくなかったから、後から彼のアパートにいる事を電話で伝えた。すると母は怒るでもなく「あまり迷惑掛けるんじゃありませんよ。」と、とても優しく行ってくれたから、それをいい事にずっと彼のアパートに泊った。でも、半月過ぎても帰らない私に、さすがに心配したのか電話を掛けてきて「もう、帰っていらっしゃい。これ以上彼に迷惑かけてはいけませんよ。」と諭した。その言葉に反抗する理由もないし、私は母さんが大好きだったから、彼にその事を告げると、彼は少し渋っていたけれど、お構いなしに家に帰った。家に帰ると父さんは「嘘はいけないよ。」とだけ言って普段通りに接してくれたけれど、姉は私の身勝手さに激怒していて、その怒りはしばらく収まることはなかった。

それほどに夢中だった彼との恋も卒業と共にあっさりと消えてしまったけれど、別に落ち込むほどの事でもなかったから、あっけらかんとしていたら、姉は「なんで、そんなに平然としていられるの!まったく信じられない。」と呆れていた。
その頃からだろうか。私は姉を少し疎ましく感じるようになり、すれ違い始めた互いの感情は次第に思春期の私達に大きな影を落としていった。そして、高校を卒業し就職先で出逢った健二君とほどなく恋に落ち、親の相談もなしに同棲を始め、出逢って半年くらいで結婚を決めた。それは、彼が大好きだった事が大きな理由だけれど、その頃、ちょうど姉のお見合い話が進んでいた事と、ぎくしゃくしている関係が耐えられなくなっていた事が結婚を速めたきっかけだった。

姉は、私が先に結婚した事にも余りいい顔はせず、ぎくしゃくしたまま口もきかなくなり、自然に距離を置くようになってしまった。