「ただいまぁ。おかあさん。」
僕はお母さんのいるキッチンへ走って行った。
「お母さん。あのね。今日ね。学校でね。次郎君がね。犬を飼うんだって言ってたんだ。でね。だからね。僕もね。犬を飼いたいんだけれど。駄目かなぁ。」
と、言ってみた。すると、お母さんは夕飯のしたくを止めて話を聞いてくれた後に、
「そうねぇ。でも、次郎君が飼うからむつきもって言うのは、おかしいとは思わない? お母さんも犬は好きだからむつきの犬を飼いたいと言う気持ちはすごくわかるけれど、やっぱり、お父さんも良いといわないといけないと思うの。だって三人で暮らしているんだから、ちゃんと話し合わないとね。」
と、なんだか納得がいかない返事だったから、
「じゃあ、お父さんに話してみていいって言ったら犬を飼ってもいいんだね。」と、言ってみると、
「もちろん。でも・・・。少しお父さんを説得するのは難しいかもしれないわね。」と、またあまりいい返事をしてくれなかった。
それってどういうことだろう? と、思った僕は「ひょっとしてお父さんは、犬が嫌いなの?」と、聞くと、お母さんは、
「嫌いってわけでもないみたいだけれど、何かあるみたいよ。結婚する前に聞いた話だから、はっきりと覚えていないけれど。」
と、答えてくれたけれど、よく分からない。でも、お父さんと話さなければ犬はやってこないと思った僕は、
「でもさ、前にも『犬を飼おう』って話をしていたよね。どうして、話だけで止めちゃうの?話しているだけじゃ犬は飼えないと思うよ。」
そう言うと、お母さんは少し困った顔をして、
「・・・そうだわね。ごめんね。」
そう言って、まな板の上の切りかけたにんじんをじっと見た。そして僕は何かを考えるお母さんの顔を見ながらその続きを待っていたら、顔を上げて、
「うん。むつきの言うとおりだわ。話をしていて、そのまま何もしないってだめだわね。じゃあ、今晩お父さんと話をしてみない?」
と、言ってくれた。うれしくなった僕は、
「うん!話をしてお父さんにもわかってもらおうよ。」
と、言うと、お母さんは「じゃあ、同盟の握手。」と言って手を伸ばした。僕は夕食の支度で少し冷たくなったお母さん手をぎゅっと握って、
「約束だよ。」と言うと、お母さんは
「いっしょうけんめいに話したら、お父さんもわかってくれると思うわ・・・。お母さんはね、お父さんのそうゆうところが好きなのよ。」
そう言って、少し照れながらまた夕食の支度を始めた。すっかり安心した僕は、食器棚にしまってあるお菓子に手を伸ばそうとしたら、お母さんが、
「それよりむつき。学校から帰ったら手を洗ってうがいをしなさい。それから鞄をかたつける。わかった?」
いつも言われていることを今日もまた言われてしまった。僕は「はぁーい」と返事をして洗面台へと向かった。