硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  44

2013-08-21 13:20:37 | 日記
帰り道の途中でスーパーに立ち寄り、翠さんに教えてもらった食材を購入して、会話の記憶をたどりながら時間をかけて夕食を作った。つまみ食いをしてみるとなかなかの出来栄え。思わず顔がほころんだ。一通りの家事を終え一息ついて時計を見ると午後七時になろうとしていた。するとインターフォンが鳴って玄関の扉が開いた。

「ただいまぁ。」

「おかえり。今日はどうする。」

「おなか減った。ご飯にするよ。」

「じゃあさっそく準備するね。」

着替えに行く彼。今日は絶対驚くはずと期待しつつ、食卓に料理を並べた。

「おおっ。今日は何。何かの記念日? 」

「へへへっ。今日はスペシャルメニューでございます。」

「ひっとして、どこかで頭ぶつけた? 」

「あっ!何、今の。もう食べてもらわなくって結構です。」

「あ~。ごめんなさい。お料理のご説明お願いします。」

「うむ。それでよろしい。では、本日のメニューをご案内いたします。」

「まず、こちらがラザーニャ・プロバンス。こちらが焼きトマト。そして、ピストゥスープでございます。フランスパンと共に召し上がってくださいませ。ご希望であればワインも用意してございます。」

「おおおおっ。すごいじゃん。ひょっとしてお総菜コーナー物? 」

「むっ。何か言った? 」

「なにもいわないよぉ。」と、言って笑っている。これは少し釘をさしておかねばなるまい。

「四の五の言わず食べるべし!」

「すいません。では、いただきます。」

彼の表情をじっと見つめる。私の作った料理を一口含むと表情が緩んでゆくのが分かった。しめしめ目論見通りだ。そう思ったら笑いそうになったけれど、ぐっとこらえた。

「うまい!これ。どうしたの。お店で食べてるみたいだよ。」と、言って驚きを隠せないようだ。

「へへへっ。すごいでしょ。これね。ある人に教えてもらったんだよ。」

「ある人?」

「きょうね・・・。」私は今日地球屋に行った事、そこで翠さんに出逢って地球屋の行方を聞いた事を話した。優一も少し驚いていたけれど、「でも、よかったね。地球屋の事。ずいぶん心配していたみたいだから。」と、言った。いつだったかひとり言のように言っていた事をきちんと聞いていてくれて、また、それを覚えていてくれた事がとても嬉しかった。