南九州の片隅から
Nicha Milzanessのひとりごと日記
 



のち

 「土日で部屋を片付けないとね」
 そんな会話をした後、昨日の疲れからか、妻も私も夕食を終えると、食器の片付けをするのも忘れてコタツで寝入っていた。
 あまりの疲れからか、何度か続く少しの余震では目が覚めなくなっていた。

 しかし、その静寂をぶち壊す瞬間がやってきた…。


 午前1時半頃、真下からドーンと思いっきり蹴り上げられるような物凄い衝撃が体を襲う!
 「ヤバい。来た。昨日よりデカい!」

 パッとテレビと照明が一斉に消え、一瞬で真っ暗闇になる中、横になっていた無防備な私の上に、衣装ケースや段ボール箱などが落ちてくる。
 「グフッ」「あ痛っ」「マズイ、これは死ぬかも知れない…」
 必死で両手で頭と顔を抱え、落ちてくるものから身を守る。

 妻は幸運にもコタツの中に身を潜めることができ、怪我はなかったようだ。


 長時間続いた揺れがようやく収まると、妻と手を取り合い、着の身着のまま家の外へ脱出する。
 近所の人も一斉に外へ飛び出してきていた。
 周囲を見渡すと、どこの家にも明かりが見られない。街中が停電した証拠だろう。


 しばらくすると、上空を何台ものヘリコプターが旋回している。
 思わずそちらを見上げると、皮肉にもお星さまが何事もなかったように綺麗に瞬いている。

 4月とはいえ、夜はさすがに肌寒い。妻と車に乗り込み、ラジオをつける。
 ラジオからは「熊本地方で震度6強」「震度6強は熊本市中央区…」「マグニチュードは7.3で阪神・淡路大震災と同レベル…」などの声が聞こえてくる。

 その後も強い余震が続く。
 余震のたびに、ギシギシ、ガンガンいう嫌な音が近くから聞こえてくる。
 何の音かと車外に出てみると、隣の家との境界にあるコンクリートブロック塀が根元から折れ、カーポートにぶつかる音だったことが判明。

 続けてラジオからは「南阿蘇大橋(正確には“阿蘇大橋”)が落ちたという情報が…」「俵山トンネルが崩壊した…」「白川に架かる竜神橋が落ちた…(のちに誤報と確認)」などという情報も入ってくる。


 そのままほとんど眠ることができず、ふと気がついたら周りが明るくなっていた…。
 車の外に出る。


 何事もなかったかのように、太陽は昇ってくる。
 何事もなかったかのように、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
 騒いでいるのは人間だけではないだろうか? 自然は何も変わらない。
 人間は無力だ…。


 斜め前の家では、コンクリートブロック塀が完全に道路側に倒れており、その屋根瓦もかなりの範囲で落下しており、その一部が隣家の自動車のリアガラスを突き破っていた。
 数軒先の交差点角のアパートでは、壁がほとんど崩落し、家の中が丸見えになっていた。

 自宅を見廻ると、屋根は被害はなさそうだが、壁や基礎の部分に今まで見たことがないひびが10数本走っていた。他にも、門柱が少し傾いているようだ。
 これは、次に3度目の大きな余震が来たら、家はダメかも知れない。
 つまり、このままこの家で生活するのは危険な気がする。

 家の中に入ってみる。
 せっかく片付けた台所と居間は、1回目の地震のあとよりも酷い状態となっていた。
 1回目のあと、片付けなければ割れなかったはずの皿やコップも…。残念無念。
 子供部屋では洋服掛けが再び倒れ、衣装ケースが破損。他でも1回目の地震では倒れなかった棚やケースなどがことごとく倒れていた。

 ブレーカーを操作するも、停電が続いていることが判明。
 しかも、蛇口をひねっても水も出ない。コンロを操作してもガスも出ない。
 まさかの、電気・水道・ガスの供給停止。21世紀の今日に、こんなことって…。


 近所の方から「公園で水と食料を配っているよ」との情報を得る。
 徒歩5分。そこには食料と水を求める長蛇の列ができていた。20分ほど並んだだろうか。ようやく2人分のご飯を手にすることができた。
 水は配布用の簡易袋の在庫がなくなったそうで、家から何か入れ物を持っていかないといけないようだ。

 電気が止まっているため、冷蔵庫内の生ものをどうにかしないといけないので、卓上コンロを使って、肉を調理。
 長丁場になるだろうから、食欲はないけど、ちゃんと食べておかないとね。
 昨日、ダイレックスで買い物していてよかった。


 近所の避難所(小学校・中学校)へ行くかどうかを近所の人と相談をする。
 その人が一度見てきた範囲で言うには、学校(体育館)は避難してきた人達で溢れかえっており、校庭も自動車でいっぱいなんだそうだ。
 悩んだ挙句、家の駐車場で車中生活をすることに決める。
 こういう震災時に、どさくさにまぎれて空き巣をする輩もいるから、家が心配だし。

 しかし、車のガソリンがほとんどないことがわかり、近くのガソリンスタンドが開いていないか確認するために、自転車で見て廻ることにする。

 途中、いくつもの建物が倒壊しかけていたり、大きく壊れているのを見かける。あれだけ大きな地震が2回も来たら、そりゃそうだよね…。
 何と、大通り(浜線バイパス)の向こう側は停電していないことが判明。自動販売機も動いている(ただし、ほとんど売り切れ)。
 そして、一番近いガソリンスタンドも動いているようだ(ただし、長蛇の列…)。

 家に戻って、早速車を運転してガソリンスタンドへ。
 30分くらい並んだものの、無事に満タンにすることができた。こんなときに営業しているガソリンスタンド、そしてそのスタッフには感謝してもしきれない…。

 昨日買い物に行ったダイレックスに行ってみると、おお、今日も営業している。
 カップめんはさすがに売り切れ。飲用水も売り切れ。
 袋菓子やお茶(1家庭1本まで)、乾電池やラジオ、ブルーシートなどを購入。レジも長蛇の列。40分くらい並んでようやく買い物終了。レジの店員さん、本当にお疲れ様です。


 家に戻る。
 すっかり夕方になり、普段ならば街灯や家の明かりがともる時間だが、我が家の周囲は一面真っ暗闇。
 自家発電気を回している近くの公園にも避難してきた人、人…。そして、たくさんの自動車。

 昼に調理したお肉と、昨日炊いていたご飯を食べる。

 車の中の生活は不自由だ。
 なかなか眠れないけど、ちゃんと寝ないと体力が回復できないからね。

 明日は日曜だけれども、職場に顔を出してみよう。

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■今日の行動
 避難生活

■今日の買い物
 ガソリン給油
 ダイレックス

■今日の献立
 朝:ヨーグルト、ヤクルト
 昼:配給ご飯
 夕:焼肉、唐揚げ

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