インドにおける宗教と、仏教とヒンドゥー教の生成

2016年11月11日 | 人生は旅である。
インドにおける宗教の起源は、インダス文明の遺跡や遺物にまでさかのぼることができる(西尾秀生2001*1 )。

インダス文明の遺跡から出土した多くの印章に刻印された動物や樹、蛇神や卍印などヒンドゥー教や仏教に現れるさまざまな「記号」が確かめられている。また、女性像が示す農耕民族特有の地母神の出土物や、火葬の痕跡など、インダス文明のヒンドゥー教や仏教への影響を確かめることができる。

紀元前十五世紀ころに中央アジアからインド西北部に侵入したアーリア人は、村を形成し火の祭りを行った。そして、紀元前十二世紀を中心に、神々に対する賛歌の集成である、『リグ・ヴェーダ』を始めとした四つのヴェーダ *2が編纂された。
これらのヴェーダには、賛歌の対象となる神々、賛歌の形である歌詠、祭詞、呪詞が含まれており、宗教の基本要素である、信仰の対象(神)、信仰の対象と私との関係性(信)、信仰の形(儀式)が揃わっている。

ヴェーダをよりどころにする宗教的活動をヴェーダの宗教と呼ぶこともあり、この宗教環境を「バラモン教」と近代ヨーロッパでは呼んだ。

バラモン教の生命観は、「業」に起因する「輪廻」にあり、輪廻からの解放である「解脱」を究極の目標とする。また、解脱の形は「宇宙の原理であるブラフマン」と「生命の本体であるアートマン」が合一することにある、とする。特に「業と輪廻」は、後のヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教での生命観に取り入れられて、現在に至っている。

仏教は、紀元前五世紀ころのバラモン教が正統とされた宗教環境の中では「沙門(異端の思想家)」の一人であるゴータマ・シッダルータによって起こされる。

西尾(2001)は、他に6人の沙門を紹介している(p.58-p.62)が、その中の一人 ニガンタ・ナータプッタはジャイナ教の開祖である。ジャイナ教は、業と輪廻と解脱を解くものであり、ゴータマの説いた原始仏教との類似点が指摘されている。

仏教成立後、紀元前四世紀から紀元後四世紀にかけて、ヒンドゥー教の聖典である二大叙事詩「マハーバーラタ」と「ラーマ―ヤナ」ならびにプラーナ文献が成立する。これをもって、ヒンドゥー教も聖典を基に体系化されていく。

仏教とヒンドゥー教は共に業と輪廻と解脱というヴェーダの信仰(バラモン教)の生命観を引き継いでいるが、根本的違いは解脱の主体の広がりである。両方ともに、解脱に至る道を「自らの行為によるもの」「精神的体験を通じた智慧によるもの」そして、「信仰によるもの」の3点を挙げている 。

そして、「信仰による解脱の道」すなわち他力救済が、バラモン階層に限定されていたそれまでの宗教観を一変させ、カーストを越えた汎宗教環境を生じせしめたと理解することができる。

インドで成立した仏教は東進して日本に至り、ヒンドゥー教はインドネシア・バリ島に定着した。

年表にすると、下のようになる。
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*1 西尾 秀生,「ヒンドゥー教と仏教―比較宗教の視点から」,ナカニシヤ出版, 2001/1
*2 「リグ・ヴェーダ」、「サーマ・ヴェーダ」、「ヤジュル・ヴェーダ」、「アタルヴァ・ヴェーダ」


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