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竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

底冷えが卓の四脚を匍ひあがる 富安風生

2022-01-15 | 今日の季語


底冷えが卓の四脚を匍ひあがる 富安風生

はんぱなお寒気が部屋中に満ちている
それでもいよいよ寒気は強まって
ついには卓袱台の脚を這いあがってくるような
作者はどうにもやりきれない
みたことのない擬人化だ
(小林たけし)


【底冷え】 そこびえ
身体のしんそこまで冷えることや、そういう感じの寒さをいう。「冷たし」同様、皮膚に感じる感覚的な寒さをいうが、即物的な印象は薄い。

例句 作者

そこ冷えの夜ごとは筆のみだれけり 石橋秀野
眠りても底冷に置く耳ふたつ 橋本榮治
底冷えに水音のしてゐたるかな 猿山木魂
比叡暮るゝより底冷のはじまりぬ 岸 風三楼
底冷えの底に母病むかなしさよ 井戸昌子
底冷や詫びて仏間を丸く掃く 青木久美子
底冷の洛中にわが生家残る 村山古郷


マフラーやうれしきまでに月あがり 岸本尚毅

2022-01-14 | 今日の季語


マフラーやうれしきまでに月あがり 岸本尚毅

作者にとってこのマフラーは特別だ
思い出のものか
それとも持ち主の匂い体温の温もりの残る借りたマヒラーか
うれしきまでの月あかり
本人の弾む心は明解だが
その所以は読み手の想像力次第だ
(小林たけっし)


【襟巻】 えりまき
◇「マフラー」
防寒のため首に巻くもの。毛糸、絹、毛皮などが素材。現在は「マフラー」の呼称が一般的。

例句 作者

襟巻の紅きをしたり美少年 尾崎紅葉
襟巻の狐が抱くナフタリン 桃澤正子
襟巻やうしろ妻恋坂の闇 小川千賀
襟巻やしのぶ浮世の裏通り 永井荷風
襟巻や思ひうみたる眼をつむる 飯田蛇笏
風の子となるマフラーの吹流し 上田五千石
襟巻やほのあたたかき花舗のなか 中村汀女
霧ひらく赤襟巻のわが行けば 西東三鬼
汽車にねむる襟巻をまきかへにけり 川上梨屋
襟巻の狐の顔は別に在り 高浜虚子

ひたひたと寒九の水や廚甕 飯田蛇笏

2022-01-13 | 今日の季語


ひたひたと寒九の水や廚甕 飯田蛇笏


廚甕は台所に置かれる水甕のこと
寒の最中の廚甕のようすだ
おそらく水野音はしないのだろうが
よんどころない寒さを「ひたひたと」の措辞を用いたのだ
水と寒さにかかる絶妙な詠みといえる
(小林たけし)


【寒の水】 かんのみず(・・ミヅ)
◇「寒水」(かんすい) ◇「寒九の水」(かんくのみず)
寒中の水はとりわけ冷たい。その冷たい寒の水に古人は霊妙な効力があると信じた。特に寒中九日目の水を寒九の水と言い、それを飲めば、風邪や胃腸病に良く効き、身体を丈夫にすると信じられていた。

例句 作者

仏にも寒九の水をたてまつる 森 澄雄
焼跡に透きとほりけり寒の水 石田波郷
寒水に豆腐沈めしままの闇 赤尾恵似
焦土より寒水はしり出づるかな 加藤楸邨
寒の水飲めばたやすく心満つ 殿村莵絲子
米二合研ぎ澄むまでや寒の水 佐久間鮎子
寒の水ごくごく飲んで畑に去る 飯田龍太
金魚大鱗海の日に汲む寒の水 角川源義


成人式終りし大き雪片よ 飯名陽子

2022-01-10 | 今日の季語


成人式終りし大き雪片よ 飯名陽子

作者は成人式出席の本人だろうと想像する
雪片は見慣れた景なのだが
晴着を着た作者には
不思議に新鮮に感じた
そんな感覚を素直に詠んだのだろう
(小林たけし)



【成人の日】 せいじんのひ
◇「成人祭」 ◇「成人式」

例句 作者

八方の嶺吹雪きをり成人祭 福田甲子雄
成人の日の華やぎにゐて弧り 楠本憲吉
成人の日の大鯛は虹の如し 水原秋櫻子
成人の夜を家継がぬ子が泊る 萩原麦草
山に来て成人祭の焚火あと 吉田鴻司
帆株に成人の日の風鳴れり 原田青児
道に弾む成人の日の紙コップ 秋元不死男
かなしくも成人の吾子ひるがへり 岸田稚魚
足袋きよく成人の日の父たらむ 能村登四郎

まっ白いセーターを着て逢いにゆく 伊藤政美

2022-01-09 | 今日の季語


まっ白いセーターを着て逢いにゆく 伊藤政美

逢うは
その相手は恋人か思い人とされる
白いセーターに作者の意図がうかがわれる
その意図は読み手に委ねられている
(小林たけし)


【セーター】
◇「カーディガン」
毛糸で編んだ防寒用衣服。カーディガンも含む。


例句 作者

セーターにもぐり出られぬかもしれぬ 池田澄子
セーターに小さな毛玉父母いない 田中朋子
受付の花瓶に似合いそうなセーター 赤羽根めぐみ
妻知らぬセーターを着て町歩く 本井英
長男のセーター着こなし妻笑顔 渡部健


椰子の実になってみたくて初の旅 佐中真澄

2022-01-08 | 今日の季語


椰子の実になってみたくて初の旅 佐中真

漂泊も火宅もならず鰯雲 たけし

こんな句を詠んだことがあったが
だれしも晩年になると叶わなかったこんな思いがあるようだ
掲句もそんな気風を感じさせる
(小林たけし)

初旅】 はつたび
◇「旅始」 ◇「旅行始」
新年初めての旅行。旅始。旅行始。

例句 作者

ちょっといい未来へ一歩旅始 山口紀子
初旅や五分遅れし掲示板 重盛千種
初旅や防犯ベルをテストせり 遠藤古都女
夢中なり船の初旅はじまれり 倉田しげる
椰子の実になってみたくて初の旅 佐中真澄


野の色のうるみ出しけり七日粥 中村正幸

2022-01-07 | 今日の季語


野の色のうるみ出しけり七日粥 中村正幸

句意は明解
うるみだす の措辞が秀逸
椀のなかでの七種が目にやさしい
(小林たけし)

【七種粥】 ななくさがゆ
◇「七日粥」 ◇「若菜粥」
一月七日に、七種類の野草を摘んで粥に入れて食し、一年の無病息災を願う古来より伝わる行事。

例句 作者

天暗く七種粥の煮ゆるなり 前田晋羅
むさし野に摘みし若菜の粥なれば 下村梅子
七草に更に嫁菜を加へけり 高浜虚子
七草の粥のあをみやいさぎよき 松瀬青々
吹くたびに緑まさりて七日粥 小沢初江
小障子に峠の日あり七日粥 木村蕪城


しなやかにとぐろ巻きたく寝正月 大木あかり

2022-01-06 | 今日の季語


しなやかにとぐろ巻きたく寝正月 大木あかり

どこへも出かけずに家ごもりの正月
とぐろをしなやかに巻きたいとは?
作者の願望であって実際は多忙なのではないだろうか
と推察する
しなやかが不思議な味わいを感じさせて面白い
しなやかな肢体は猫を想像させるがそれでは俳句にならない
(小林たけし)


【寝正月】 ねしょうがつ(・・シヤウグワツ)
元旦や正月の休みに何処にも出かけず、寝て過すことをいう。

例句 作者
ゆふぐれの机ありけり寝正月 藤田あけ烏
寝正月なれと天地広くゐる 森 澄雄
旅行書の南海青し寝正月 大島民郎
次の間に妻の客あり寝正月 日野草城
初夢の唯空白を存したり 高浜虚子
ふるさとにのこす名もなく寝正月 古舘曹人
透きとほる葛湯さみしき寝正月 中村苑子