竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

ラの音の鳴らぬハモニカ雁渡る 水口圭子

2020-10-12 | 今日の季語


ラの音の鳴らぬハモニカ雁渡る 水口圭子

不思議な読了感がある
雁渡る」と欲しい音の出ないハモニカの取り合わせが妙にひびきあう
作者の独特の鋭い感性にひここまれて
読者は句意の解釈に没頭してしまう
これも俳句だ
(小林たけし)


雁】 かり
◇「かりがね」 ◇「雁」(がん) ◇「初雁」(はつかり) ◇「雁渡る」 ◇「雁来る」 ◇「雁の列」(かりのつら) ◇「雁の棹」(かりのさお) ◇「雁行」(がんこう) ◇「雁の声」 ◇「病雁」(びょうがん) ◇「落雁」(らくがん)
ガンカモ科のうち真雁、菱喰などの大型の種類の総称。一般には真雁をさす。北方で繁殖した雁は、10月初めころに渡来し、翌春3月ころ北へ帰る。10羽ぐらいずつが鉤状になったり竿状になったりして飛ぶ特殊な飛び方をする。古来、雁が音といって鳴く声が賞された。

例句 作者

一枚の空に鴈ある絹の道 角川春樹
一生のこの時のこの雁渡る 上野泰
一雁の列をそれたる羽音かな 能村登四郎
中天に雁生きものの声を出す 桂信子
人格は五大陸なり雁行す 山本敏倖
人等臥て雁のぬくみが空をゆく 桂信子
仏壇を閉ぢれば闇や雁の声 岸本由香
全景は一幅の黄泉雁渡る 島田節子
初雁のまぎれなかれし夜の雨 軽部烏頭子
初雁やその場に立ちてひらてみき 加藤郁乎
初雁や銀短冊の五六枚 野村喜舟
古九谷の深むらさきも雁の頃 細見綾子
噛みしめて深川飯も雁のころ 小檜山繁子
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忘我とは芒の真似をすることなり 塩野谷仁

2020-10-11 | 今日の季語


忘我とは芒の真似をすることなり 塩野谷仁

忘我とは
夢中になって、我を忘れること。心を奪われうっとりすること。「忘我の境に入 (い) る
と辞書にある

作者は芒の真似をすることに似ている という
風に揺れ冬に向かう芒原にいる作者はそこに我を忘れたのか
おそらくは無常の事だろうと推し量る
(小林たけし)


芒】 すすき
◇「薄」(すすき) ◇「花芒」 ◇「芒野」 ◇「糸芒」 ◇「尾花」 ◇「芒散る」 ◇「尾花散る」
イネ科の多年草。日当たりの良い山野のいたるところに自生する。秋、桿頭に中軸から多数の枝を広げ、黄褐色か紫褐色の花穂を出す。風が吹くと一斉になびく姿は風情がある。花穂が獣の尾に似ていることから「尾花」ともいう。冬近くになると花穂は開ききって光沢を失い、散りこぼれる。

例句 作者

折りとりてはらりとおもき芒かな 飯田蛇笏
山越せば海荒れて居る芒かな 阪井二星
穂芒の白き土蔵は一茶の地 角川源義
大佐渡も小佐渡も風の花芒 福島壺春
その辺の薄を剪りに行くところ 大岡芙久子
永劫の日輪渡る芒かな 松根東洋城
恭順の芒刈らるゝ演習地 西田紫峰
手のすすき車中を祓ひ了りけり 岡田一夫
手はすこし映画のように芒原 あざ蓉子
手を振つて芒の波に沈みゆく 長部多香子
投入れのすすきかるかや神隠し 岩永佐保
抱きたる胸のうちそと芒原 久保純夫

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秋の夜の男匂はすサクソフォーン 白田哲三

2020-10-10 | 今日の季語


秋の夜の男匂はすサクソフォーン 白田哲三

「男匂わす」は言いえて妙
サクスホン走者は凡そが男性だ
句意は聞こえてくるサクスフォンの音色に
男の匂いを感じるのようだが
秋の夜とあいまって自分の男を懐かしむようにも感じる
(小林たけし)


秋の夜】 あきのよる
◇「秋の夜」(あきのよ) ◇「秋夜」(しゅうや) ◇「夜半の秋」(よわのあき) ◇「秋の宵」
秋の夜は長く、月美しく、灯火書に親しみ、しみじみ秋の更けゆく思いを味わう。虫の音も聞こえもののあわれを感じる。概ね午後8時から11時頃までをしめす。また、「秋の宵」は日没後間もない時間帯をいう。

例句 作者

夜の秋あかい栞のなめし革 金子一与
子にみやげなき秋の夜の肩車 能村登四郎
客われをじつと見る猫秋の宵 八木絵馬
戸を固く閉めてひとりの秋夜かな 藤原み雪
母の死にはじまる秋の夜道なり 松澤昭
目のまへに海図ひろげし夜半の秋 久米正雄(三汀)
秋の夜のなぞなぞ遊び子が主役 安冨耕二
秋の夜の憤(いきどほ)ろしき何々ぞ 石田波郷
秋の夜の目刺の貌はみなちがふ 神生彩史
秋の夜の露天湯やけどの傷透かす 栃原百合子
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天つつぬけに木犀と豚にほふ 飯田龍太

2020-10-09 | 今日の季語


天つつぬけに木犀と豚にほふ 飯田龍太

あの龍太にしてこの句とは
格調高い龍太俳句に憧れている筆者だが
格調は遠く及ばないでいる
こうした句があればより一層親しみを感じる
句意の鑑賞は不要だろう
(小林たけし)

【木犀】 もくせい
◇「木犀の花」 ◇「金木犀」 ◇「銀木犀」 ◇「薄黄木犀」 ◇「桂の花」
モクセイ科の常緑小高木。晩秋に甘い香りを放ち、白い小さな花を多数ひらく。銀木犀とも言う。黄赤色の花をひらくのは金木犀。木質は緻密で家具、そろばんの珠などに使われる。

例句 作者

あちこちと匂い強けき金木犀 末広鞠子
まどろみの牛車の揺らぎ金木犀 髙井元一
仰向けに寐る猫木犀林散るよ 古沢太穂
口笛吹いて銀木犀を皿に盛り 水木涼子
放埒は銀木犀の花に始まる 福富健男
木犀の彼方におはす母の膝 吉原波路
木犀の金銀こぼれ 猫の伸び 森岡洋子
木犀の零落そこに犬の食器 横山白虹
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水底を水の流るる寒露かな 草間時彦

2020-10-08 | 今日の季語


水底を水の流るる寒露かな 草間時彦

いつも眺める川が
今日は特別澄んでみえる
川面の流れよりも少し水底の水の流れが速く見える
寒露の今日、川の表情は冬に向かう
(小林たけし)

寒露】 かんろ
二十四節気の一つ。10月8日、9日頃に当たる。露が寒冷に会って凝結する意。露は結び始めは涼しげ、やがて冷たく、終には肌寒さを感じさせるようになる。

例句 作者

茶の木咲きいしぶみ古ぶ寒露かな 飯田蛇笏
道傍の竹伐られたる寒露かな 星野麦丘人
切口の白き粗朶積み寒露の日 橋本春燈花
汲み置きの水平らかに寒露の日 角川照子
暦はや寒露の蘭の花の濃し 三田青里
暁闇の寒露へ向かふ父系かな 佐藤晴峰
老猫の眼あけて座る寒露かな 北原志満子
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ぶらり蓑虫けふは新聞休刊日 原田要三

2020-10-07 | 今日の季語


ぶらり蓑虫けふは新聞休刊日 原田要三

秋うららの爽やかな日差しのなか
ふと虚空に蓑虫がゆれている
所在ない新聞休刊日
ちょっとした眼福を得た
(小林たけし)


【蓑虫】 みのむし
◇「鬼の子」 ◇「鬼の捨子」 ◇「蓑虫鳴く」
ミノガ科の蛾の幼虫。木の葉や枝を綴り合わせて蓑のような巣を作り、この中でさなぎになり、羽化して蓑蛾になる。雌は羽化せず一生巣の中で暮らす。

例句 作者

まつさらな空気鬼の子ぶら下がる 野中久美子
みの虫のほめられもせずぶら下る 佐々木克子
みの虫の痴情 下弦の月にぶらさがる 前原東作
事なきに蓑虫顔を出して居る 秋葉紅陽
俺たちはみんな蓑虫空をみる 児山正明
午前中の蓑虫退屈で退屈で 田中不鳴
吹かれゐる気分蓑虫しか知らず 近藤栄治
恬淡を装ひてゐし蓑虫よ 大牧広
書き損じ「蓑虫ふう」にぬりつぶし 二郷愛
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ああいへばかういう兜太そぞろ寒 鷹羽狩行

2020-10-06 | 今日の季語


ああいへばかういう兜太そぞろ寒 鷹羽狩行

狩行と兜太の確執を知れば苦笑する
狩行にもこんな句があったことを知って
相互に認め合った好敵手を思う
そぞろ寒 とは言いえて妙
(小林たけし)


【そぞろ寒】 そぞろさむ
◇「すずろ寒」
そぞろ寒しの略。何となく身の内に覚える秋の寒さ。本格的な寒さではなくうっすらと感じる寒さをいう。

例句 作者

そゞろ寒猪口の小さきを鼻の先 角田竹冷
そゞろ寒鶏の骨打つ台所 寺田寅彦
雲二つに割れて又集るそゞろ寒 原 石鼎
がま口に蛇の衣入れそぞろ寒 相沢須磨子
そぞろ寒兄妹の床敷きならべ 安住 敦
かはたれの黒猫に会ふそぞろ寒 山岸由佳
そぞろ寒戻りし漁師汐木焚く 服平知草
そぞろ寒言葉に棘のあることも 田中美智子
われに向く大和の砲口そぞろ寒 蔵田緋呂子
兜煮の二つの眼窩そぞろ寒 原田要三
老舗また消える街角そぞろ寒 佐々木寿万子

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川の水澄み言の葉にある虚実 長井寛

2020-10-05 | 今日の季語


川の水澄み言の葉にある虚実 長井寛

掲句は澄んだ川の水と
自分の口から出る言葉を比しての述懐か
あまりのも澄んだきれいな川の流れ
そして己の言葉の虚しさを切なく思う
(小林たけし)


【水澄む】 みずすむ(ミヅ・・)
秋は夏に比べ水が澄んでくる。夏の間濁っている沼なども、底の石まで透けて見える。河川、湖沼、池から井戸水まで水が澄む。

例句 作者

正装の魚ぞくぞく水澄める 吉住光弥
水といふ水澄むいまをもの狂ひ 上田五千石
水澄みて四方に関ある甲斐の国 飯田龍太
水澄みて水の底より鬨の声 小高桂子
水澄みて雲流れゆく梓川 柳下美砂枝
水澄みにけり読み書きは朝のうち 下田稔
水澄むや川面に浮かぶ鬼の貎 高林文夫
水澄むや底に岡本太郎の目 岡本久一
水澄むや錆びたる鎌にものいうて 高見道代
水澄めり 石の丸みと石の過去 鷲山千晴
水澄んで怪談多き城下町 内田庵茂
水澄んで段差になつてをりし父 大石雄鬼
澄みてなほ水の逡巡ありにけり 三田きえ子

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養命酒ちびちび舐めて居待月 阿波野青畝

2020-10-04 | 今日の季語


養命酒ちびちび舐めて居待月 阿波野青畝

月の出を待つ作者
名月にはとっておきの酒なのだろうか
所在なさげな作者の姿が見える
かたわらの養命酒がなんとも愉快
青畝ならではのウィットを感じさせる一句
(小林たけし)


【居待月】 いまちづき(ヰ・・)
◇「十八夜月」
陰暦八月十八日夜の月。立待よりやや月の出が遅いので、月の出るのを座っていて待つ心。ゆったりと座って月の出を待つという意味。

例句 作者

わが影の築地にひたと居待月 星野立子
夜々たのし今宵は嵯峨の居待月 高崎雨城
居待月正座久しく忘れゐし 福永耕二
居待月はなやぎもなく待ちにけり 石田波郷
暗がりをともなひ上る居待月 後藤夜半
居待月天才群れを外れけり 中山蒼楓
暗(くらが)りをともなひ上る居待月 後藤夜半
曲屋の盗っ人となる居待ち月 中井不二男
杉は昏れゆく十八夜月を待つ 五十嵐秀彦

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牛追つて追つて戻る子山廬の忌 廣瀬直人

2020-10-03 | 今日の季語


牛追つて追つて戻る子山廬の忌 廣瀬直人

【蛇笏忌】 だこつき
◇「山廬忌」(さんろき)
10月3日、俳人飯田蛇笏(1885-1962)の忌日。「ホトトギス」で活躍の後、大正4年「キラヽ」(後「雲母」と改題)を創刊、生涯これを主宰する。句集に『山蘆集』『椿花集』。77歳で死去。俳人・飯田龍太は蛇笏の四男。

例句 作者

蛇笏忌の父にまぶしき樫の幹 菅原鬨也
東京の星を数へる蛇笏の忌 藤田弥生
蛇笏忌が過ぎ穂すすきの日々白き 河野友人
山廬忌の瞼あふるる曼珠沙華 三宅一鳴
蛇笏忌の田に出て月のしづくあび 福田甲子雄
山廬忌やまぎれず秋の蝶白し 塚原麦生
金木犀違はず香り山虜の忌 中山嘉代
蛇笏忌や振つて小菊のしづく切り 飯田龍太
山慮忌の秋は竹伐るこだまより 西島麦南
夜冴えてひとり蛇笏忌と言ふべし 松澤昭
石山の乾ききつたる蛇笏忌ぞ 吉田鴻司
蛇笏忌の秋嶺峨々と秀を競ふ 茂木房子
蛇笏忌の空や崩せぬ膝抱いて 河野南畦
蛇笏死すと夜更けのわれを見てゐたり 松澤昭
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鰯雲もうさがさない忘れ物 たけし

2020-10-02 | 入選句


鰯雲もうさがさない忘れ物 たけし

2020./10/02 朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生先生の選をいただきました

少年の大志
青春の野心
挫折と奮起の来し方も午後になりました
爽やかな秋の風の中
ふと見上げる空には少年期、青年期と同じ鰯雲
叶わぬものがほとんどだったものの
もうさがさない忘れ物
この措辞に句意鳴き人生の感懐をこめた
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堕ちてゆく橋を渡れば月の海 小林実

2020-10-01 | 今日の季語


堕ちてゆく橋を渡れば月の海 小林実

作者は朽ちかけた橋の上にいるのだろうか
真っ暗な海には音もない
波間には無数の月が漂っている
虚実あいまっての中に作者の孤高の姿が浮かんでくる
(小林たけし)

【月】 つき
◇「新月」 ◇「夕月」 ◇「昼の月」 ◇「月光」 ◇「月明り」 ◇「月影」 ◇「上り月」(のぼりづき) ◇「下り月」(くだりづき) ◇「弓張月」(ゆみはりづき) ◇「弦月」(げんげつ) ◇「半月」
四季を問わず月にはそれぞれの趣があるが、月のさやけさ、月の清らかさは秋に極まるので、単に「月」といえば秋の月を指す。春の「花」(桜)、冬の「雪」に対して秋を代表する季の言葉。月には様々な呼び方がある。「初月」は陰暦八月初めの頃の月のことで、仲秋初めての月を愛でる語。「二日月」は陰暦八月二日の月。「弓張月」は半月のことで、弦を張った弓のような形をしていることから呼ばれ、「弦月」とも。また形状から「月の舟」とも呼ばれ、上弦と下弦がある。

例句 作者

半月やドアの取っ手が痩せている 村田まさる
友と語れば海峡やがて月かかぐ 藤木清子
同じ白さの嫂と昼の月 田中いすず
吹き晴れて月は天心かぞえ日に 森ふみ
吾を容るる故郷や月の一本道 青柳志解樹
吾妻かの三日月ほどの吾子胎(やど)すか 中村草田男
吾子が嫁く宇陀は月夜の蛙かな 大峯あきら
命終の銛打つは誰そ月の夜 小林貴子
唇美しき仏と寝たり柿月夜 岡田一夫
啄木鳥や月皎々と青き森 宇井十間
喉もとに月光あつめ薬のむ 渋川京子
喪いて酔うて月夜の斧振る音 杉本雷造
嘘っぽく銀座の上に月満ちる 髙野公一
堅雪を渡る背骨月光が鳴る 十河宣洋
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