竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

いちじくに唇似て逃げる新妻よ 大屋達治

2018-10-20 | 


いちじくに唇似て逃げる新妻よ 大屋達治

無花果に似ているというのだから、思わずも吸いつきたくなるような新妻の唇(くち)である。しかし、突然の夫の要求に、はじらって身をかわす新妻の姿。仲の良い男女のじゃれあい、完璧にのろけの句だ。実景だとしたら、読者としては「いいかげんにしてくれよ」と思うところだが、一度読んだらなかなか忘れられない句でもある。新婚夫婦の日常を描いた俳句は、とても珍しいからだろう。ただし、この句は何かの暗諭かもしれない。それが何なのかは私にはわからないが、とかく俳句の世界を私たちは実際に起きたことと読んでしまいがちだ。「写生句常識」の罪である。もとより、俳句もまた「創作」であることを忘れないようにしたい。(清水哲男)

【無花果】 いちじく
◇「白無花果」
晩秋、外皮が暗紫色になり裂けてうす桃色の果肉を見せる。生食したりジャムや缶詰等に加工する。形は卵に似た円形。枝についている端は細く、反対側は扁形。5センチほどの大きさ。

例句 作者

無花果や永久に貧しき使徒の裔 景山筍吉
無花果の乳噴き出すはさびしけれ 大島雄作
無花果にゐて蛇の舌みえがたし 飯田蛇笏
無花果を煮つめ琥珀の夕ごころ 菅野明子
無花果や目の端に母老いたまふ 加藤楸邨
あるきつつ無花果たべぬなほ焦土 山田麗眺子
無花果食ふ月に供へしものの中 石田波郷

無花果や我が生命線を確かむる  たけし
コメント