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竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

天つつぬけに木犀と豚にほふ 飯田龍太

2018-10-03 | 


天つつぬけに木犀と豚にほふ 飯田龍太


【木犀】 もくせい
◇「木犀の花」 ◇「金木犀」 ◇「銀木犀」 ◇「薄黄木犀」 ◇「桂の花」
モクセイ科の常緑小高木。晩秋に甘い香りを放ち、白い小さな花を多数ひらく。銀木犀とも言う。黄赤色の花をひらくのは金木犀。木質は緻密で家具、そろばんの珠などに使われる。
例句 作者
月の出は金木犀の色にかな 永井東門居
妻あらずとおもふ木犀にほひけり 森 澄雄
木犀や二夜泊りに雨一夜 水原秋櫻子
木犀の香の浅からぬ小雨かな 日野草城
木犀に薪積みけり二尊院 河東碧梧桐
木犀の匂ふ見知らぬ町歩き 新田久子
学校の木犀昼飯抜きしのび 平畑静塔
木犀のしきりにこぼす夜の花 中川宋淵
木犀の香にあけたての障子かな 高浜虚子
夜霧とも木犀の香の行方とも 中村汀女

金木犀花香のこぼれ風だのみ  たけし

金木犀素顔同士のご近所さん  たけし



天つつぬけに木犀と豚にほふ 飯田龍太

豚が臭いのは豚のせいではなく、糞尿を処理してやらない人間のせいだと気づいたのは、僕が家畜試験場で暮していたから。豚はきれい好きな動物である。生まれたばかりの子豚の可愛さや放牧されている豚の賢さや個性は犬や猫と同じだ。小学生の僕が木切れをもって近づくと豚は一斉に柵の側に駆け寄って僕に背を向ける。木切れで背中を掻いてもらうためだ。「天つつぬけに」匂う対象として木犀と豚を同列に置いたのは、作者が豚の匂いを肯定的に捉えているからだと僕は思う。以前、或る雑誌の企画で、「世界中の子豚に捧げる」という文章を書いたとき、載せる写真を問われて、「僕が子豚を抱いているところを」と注文した。それは面白いかもということになり、雑誌社の方で子豚のいるところを探してもらうと、横浜市青葉区にある「こどもの国」という遊園地の中の動物園に子豚がいることが判明。僕は生まれたばかりの子豚を抱いてにこやかに撮られる自分を想像した。当日動物園に行くと、豚はいるにはいたが一抱えほどもあって、とても子豚とは言えない大きさ。どうしますと心配そうに聞くカメラマンに僕は「やるよ」と応えた。五、六頭が飼われている柵の中に僕は入り、逃げ回る奴等を追い回してようやく一頭を羽交い絞めにしたが、形相が怖かったらしく、しきりにカメラマンが「笑ってください」という。バックドロップのように抱き上げた豚の後足に蹴られながら無理に笑った泣き笑いの顔がその時の雑誌に載っている。このとき豚は確かに臭わなかったが、それは僕が必死だったせいかもしれない。『百戸の谿』(1954)所収。(今井 聖