竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

をりとりてはらりとおもきすすきかな 飯田蛇笏

2018-10-21 | 


をりとりてはらりとおもきすすきかな 飯田蛇笏

季語は「すすき(芒・薄)」で秋。秋の七草の一つ。さて、今日は三連休の中日ですね。お勤めの方々には、三日間の中でもいちばんリラックスした気分で過ごせる日ではないかと思います。やっぱり日頃の土日二連休とは違って、いつもと同じ日曜日の感じではありませんよね。なんてったって、明日も「また」休めるのですから。非常に得をしたようなご気分の方が多いでしょう。そこで、ひとつどうでしょうか。近所の河原にでも出かけてみて、すすきを手折るなどして句のような風流を味わってみては……。でも、てな誘いにうかうかと乗せられて、すすきを手折ろうなんてことはしないほうが良いですよ。あの茎はとても強くてしぶといですから、普通の人には手折るなんて上品な行為では、まず「をりと」るのは無理でしょう。力任せに左右に何度もねじって、引き千切るくらいの野蛮さが必要です。学生時代にはじめて掲句に出会ったとき、私は蛇笏を人並外れた怪力の持ち主かと思いましたね。どう考えても、この句は丈の高い丈夫なすすきを「をりとりて」いるとしか読めません。なにしろ、手にして「はらりとおもき」なのですからね。そんなすすきを、句はたやすく手折ったように印象づけていますが、またそれでなくては句の美しさが失われてしまいますが、本当にさらりと「をりと」ったのだとすれば凄いことです。私だったら、「ねじきって」とか「ねじおって」、あるいは刃物で「きりとって」とでもやるところでしょうか。しかし、これでは「はらりとおもき」とはいきませんから駄目でしょう。名句の誉れ高いこの句は、ま、あらまほしき世界を描いたフィクションとしての名作なんでしょうね。世の中には「はらりとおもき」に目を奪われた解釈が圧倒的ですが、「をりとりて」にもう少し注目する必要があろうかと思います。むろん、私は俳句のフィクションを否定しません。否定しませんが、これはいささかやり過ぎじゃないのかと。いかにも実際めかした衣裳が、どうにもいただけませんので。(清水哲男)

【芒】 すすき
◇「薄」(すすき) ◇「花芒」 ◇「芒野」 ◇「糸芒」 ◇「尾花」 ◇「芒散る」 ◇「尾花散る」
イネ科の多年草。日当たりの良い山野のいたるところに自生する。秋、桿頭に中軸から多数の枝を広げ、黄褐色か紫褐色の花穂を出す。風が吹くと一斉になびく姿は風情がある。花穂が獣の尾に似ていることから「尾花」ともいう。冬近くになると花穂は開ききって光沢を失い、散りこぼれる。

例句 作者

山越ゆるいつかひとりの芒原 水原秋櫻子
なにもかも失せて薄の中の路 中村草田男
磐梯の火口せまれる尾花刈 望月たかし
芒の穂ばかりに夕日のこりけり 久保田万太郎
芒かき分けて夕日の前に出る 橋本美代子
落暉炎えて男ばかりや尾花照る 渡辺水巴
萩芒活けて湯屋の隠し部屋 吉岡鳴石
山越せば海荒れて居る芒かな 阪井二星
折りとりてはらりとおもき芒かな 飯田蛇笏
散る芒寒くなるのが目に見ゆる 一茶

切っ先はまだ尖らせず青芒   たけし
青芒付和雷同の生きる知恵   たけし

強面の漢の急ぐ芒原      たけし
せいせいと人との隙間芒晴れ  たけし

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