竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

青年鹿を愛せり嵐の斜面にて    兜太

2018-06-17 | 金子兜太鑑賞
 
青年鹿を愛せり嵐の斜面にて    兜太




昭和36年 「金子兜太句集」神戸 より。

4,5年前に吉野の桜を見たいと思い出かけたことがありました。
奈良市内に宿を取ったので若草山など、市内をぶらぶらしましたが
奈良はほんとうに鹿が多い。
どこを歩いていても、鹿に会う。
鹿って静かでやさしいですね。
獣と言う感じがしません。
とても植物的な動物だと思います。
そんな鹿のことを思い出しながら、この句を読んで、
「青年鹿を愛せり」に、
青年の香気さがみごとに詠まれているように思います。
下句に、「嵐の斜面にて」ときますが、
青年のおかれている場が嵐の斜面だ
という比喩で詠まれています。
嵐の斜面はまず、
私の浅い知識では「嵐が丘」を連想します
映画で見た暗いヒースの荒野をふと描きましたが、
「嵐の斜面」というのは響きが明るいので、
「嵐が丘」と違ってもっと明るい荒野ではないかなあ。暗いイメージはしない。
青年に相応しい、爽やかな場の響きがあります。
青年は嵐に揉まれながら、
斜面という変化を象徴するところで、
鹿と対峙しているのだ。そして、その鹿を愛するという、
青春性がみごとに詠まれている。
兜太さんも若かったんだと、改めて、その瑞々しさに惹かれる。

http://www.shuu.org/newpage24.htm
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頭痛の心痛の腰痛のコスモス     金子兜太

2018-06-17 | 金子兜太鑑賞
頭痛の心痛の腰痛のコスモス     金子兜太




昭和61年 「皆野」より

「きょうは頭痛なんだ、こころも病んでいるんだ、
寂しいし、悲しい。
腰痛の具合も悪いなあ。
あれ、コスモス。
コスモスは強いなあ、倒れても起き上がって花を咲かせる。
うむ、コスモスの元気、貰ったよ。」
という兜太さんのつぶやきがそのまま句になったのではにでしょうか。

頭痛の/心痛の/腰痛の/と畳みかけて、
実はどこか悲嘆さから苦笑に意識が変わってきているように思う
読む側の苦笑を誘う。

「頭痛の心痛の腰痛の」と「コスモス」の間の距離が良い。
「の」は軽い切れですが、前節との距離があるので、しっかり切って読むことができる。
この切れが苦笑を引き出しているように思う。
この句はコスモスがとてもよく効いている。



http://www.shuu.org/newpage24.htm 参照
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