木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

江戸の酒

2012年06月27日 | 江戸の味
ワインの消費量を見ていたら、中国が世界第4位になった(2011年度)との統計に出くわした。1位はアメリカ。
以下、2位イタリア、3位フランス、4位ドイツ。一昨年5位だったイギリスを抜いて5位になったのが中国である。
しかし、消費量を国民ひとり当たりの量で見ると、順位はかなり変わってくる。
1位フランス、2位ルクセンブルグ、3位イタリア、4位ポルトガル、5位スイス(メルシャン資料より)。もっとも、こちらの資料は2007年のものなので、昨年の順位とは単純に比較できない。
日本のひとり当たりの年間ワイン消費量は2リットル。フルボトル約3本分である。フランスは52.1リットルでさすがはワインの国という感じがする。
ちなみに、日本のアルコール消費量の内訳を見てみると、清酒4.89リットル、ビール22.55リットル、発泡酒8.85リットル、リキュール11.85リットル、ウイスキー0.66リットル。
全体では一人当たり年間67.69リットルのアルコールを消費している(前述メルシャン資料)。
数字を比較すると、ワインだけで52リットルものアルコールを消費しているフランスとは酒好きという点では、遥かに敵わない。
日本ではビール、発泡酒、第三のビールで7割くらいを占めるが、ビールの消費量で見ても、世界的には38位に過ぎない。1位はチェコであるが、日本の2.9倍ものビールを飲んでいる(キリンホールディング資料)。

江戸時代を見ると、元禄期には上方から江戸に入ってくる酒が年間二十一万石に達していた。この頃の江戸の人口を七十万人と見積もると、年間一人当たりの消費量は54リットル。アルコール度数だけを考えると、江戸時代の人の方が酒をより多く飲んでいたかも知れない。

「八文じゃ盧生が夢のとばっ口」という川柳があるように、文化の頃の下酒の価格は一合八文で、二八蕎麦の半額くらいだった。今でいえばラーメンの半額くらい。ラーメンが七〇〇円だったら、ビール三五〇円という計算になる。なんとなく同じような価格で親近感がわく。惣菜も一皿八文くらいである場合が多く、現代でいえばニッパチ酒場のような感覚だったのだろう。

居酒屋のことを「矢大臣」と呼ぶことがある。テレビの時代劇などだと、テーブル付きの椅子に座っているような居酒屋の場面が多いが、江戸時代ではテーブルもない床に客は座っていた。現代で言うと、花見のとき、ブルーシートを敷いて飲んでいるような恰好だ。
居酒屋に畳などの高級品はなく、板の間であり、少し程度がいいと、むしろが敷いてあるくらいだった。
このとき、片膝を立てて飲んでいる人も多く、その姿が矢大臣に似ているから、居酒屋の別名となったのである。

ただし、居酒屋が定着するのは江戸時代も中期以降で、それ以前は、「享保の半ばくらいまでは、丸の内から浅草の観音まで行くのに、昼食をするにも困ったものです」と三田村鳶魚が述べているように、江戸初期には縄暖簾だとか、居酒屋はなかった。

居酒屋で一番有名だったのは、神田鎌倉河岸の「豊島屋」である。
鎌倉河岸の辺りは人足や職人が多く住んでいたが、豊島屋は名物の田楽と、安い惣菜を提供し、薄利多売で日夜混雑した。
特に、豊島屋の白酒は有名で、「山ならば富士、白酒ならば豊島屋」と歌にも詠まれた。この白酒は、雛祭り前の二月二十五日の一日だけしか売られなかったので、この日は。押すな押すなの大盛況になった。当日は鳶の者が鳶口を持って二階から下を見張っていた。けが人が現れたなら、鳶口で二階に引っ張り上げようとしていたからだ。
東京に今でも豊島屋という酒店が多いのは、江戸の豊島屋の屋号を真似しているからである。

今日は日本初のワインについて書こうとしていたが、すっかり脱線してしまった。ワインについては、次回に譲るとしたい。

参考
江戸名所図会を読む 東京堂出版 川田壽
時代風俗考証 河出書房 林美一
町屋と町人の暮らし 学研 平井聖
娯楽の江戸 江戸の食生活 中央文庫 三田村鳶魚

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