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空港での危機一髪 ホンジュラスの風

2010年05月03日 | ホンジュラスの風
トンコンティン国際空港名物。
それは、飛行機離陸時のエンジン風体感です。

飛行機が離陸するとき、ブレーキをかけたままエンジンを高速回転させることを書きました。そのときの風を体感することができるのです。

今もできるのかどうかはわかりません…。

首都テグシガルパには小さな山がたくさんあります。平野ではありません。そのため、広大な空港を建設するための広い平坦地が不足しています。
地方に住んでいる多くの人々が、仕事を求めて首都に流入してきます。日本と同じです。首都は、平野部の良質な住宅地が不足しているため、山の斜面にもたくさんの家が建設されています。
お金持ちの人の住宅が多数建設されている山、貧しい人の住む住宅が広がる山、というように、山によって様相が随分と異なります。
貧富の差が激しく、各家庭の経済レベル応じて住む地域が分かれているからです。

このような土地事情が影響してか、空港の敷地はとても狭いのです。国際空港というのは名ばかりです。
滑走路端の先に空港と道路を隔てる金網がありますが、その距離は数十メートル。金網の横は一般道路で、自動車、歩行者が通ります。

この滑走路横の道路の金網が、風の体感のポイントです。
両手でしっかりと金網にへばりつきながら、離陸時のエンジン風を体感することができるのです。

ある日のこと。
空港に、帰国する友人たちを見送りに行きました。
彼らはチェックイン手続きをすばやく済ませ、涙のお別れをします。帰国時にはお決まりの光景です。
名残惜しく、搭乗時間ぎりぎりまでみんなとのおしゃべりが続きます。
そして最後のアナウンス。ボディーチェックのゲートをくぐり、搭乗待合室へと消えていきます。

勝負はここからです。
友人たちがいいました。
「爆風体験をしようよ」

ニコニコしながらぼくを誘います。

エンジン風の体験については噂で聞いていました。興味がありました。でも、これまでに何回もパスしていました。何かあったら大変だからです。

この日はなぜかいつもより肝が据わっていました。
ホンジュラスでの生活が慣れ、やっていけるという自信がついていたからかもしれません。

「よし、行こう」

出国する友人たちを見届けた後、有志6人は大急ぎで空港を抜け出します。
空港内待合室から例の金網までは、いくら狭い空港とはいえ数百メートルはあります。そこを大急ぎで走ります。

飛行機は中型機。旅客が少ないため、搭乗開始から離陸までの時間がわずかです。急いでポイントに到着しなければなりません。
滑走路の端まで全力疾走。全力で走るのは何年振りでしょうか。心臓の音が高鳴ります。ワクワクとした期待が鼓動をさらに加速させます。

走ること数分、ついに金網に到着します。

「しっかり金網をつかまないと、飛ばされるわよ」
経験者の方がぼくを含めた初心者数人にアドバイス。脅しではありません。

手にしっか力を入れます。

「まだ飛行機が来てないのだから、今はいいのよ」

金網をつかむのは、離陸準備の風が流れ始めてからで十分です。
飛行機は、まだ滑走路の端に到着もしていません。そんなに前から力を入れていると、本当に風がきたときに疲れてしまいます。

それでも、ぼくはしっかりと金網につかまりながら、飛行機が滑走路をゆっくりと移動し、近づいてくるのを見守っています。何でも全力で取り組む子どものように。

コンチネンタルの中型旅客機が滑走路の端に到着しました。向きを反転します。離陸ポジションで停止しました。
ついにエンジンを高速回転させ始めます。

砂吹雪が少しずつ舞い上がり、生温かい温風が全身に当たります。
心地よいと思ったのは最初の数秒だけ。急激に風が強くなりました。

握っている手の力を強くします。心臓の音が高鳴ります。

風はどんどんどんどん強くなります。エンジン音も高くなります。すごい騒音です。
砂、ほこりが大量に飛んできました。予想外です。目を開けていられません。

更に風は強くなります。手を放した途端、後方に飛ばされてしまうレベルにまで風が強まりました。

ワクワク感が恐怖感に変わります。

「これ以上強くなったら、もう耐えられないかも…」
弱気な考えが浮かんできます。

その瞬間、飛行機のブレーキが外れました。

「あー助かった」
安堵の気持ちとともに、飛行機は急激に離陸していきます。

「いやー、すごかったなー」

手は冷や汗でベトベトです。
友人たちと爆風体験の余韻を楽しみます。危機を共に乗り越えた戦友になった気分です。

後日、空港端の金網に面した道路に、信号機が取り付けられました。
離陸時の強い風が起きる間、車は通行止めになったのです。
もちろん人も。

一体誰の責任でしょうか…。

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