壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

薬飲む

2009年12月26日 21時18分14秒 | Weblog
        薬飲むさらでも霜の枕かな     芭 蕉
     
 『如行子』に、「翁、心ちあしくて、欄木起倒子へ薬の事いひつかはすとて」と、如行の前書きを付して掲出。
 
 医師に病苦をうったえる体になっている芭蕉。「さらでも」は、非常に力強く「霜の枕」の意味するさびしさへひびいている。身の寂しさを、病臥のふとんの襟にじっと噛みしめて味わっている感じがある。
 「さらでも」とは、そうでなくても、ただでさえの意で、具体的には、病中でなくてもの意である。

 芭蕉の動静などから、この句は、貞享四年(1687)十一月二十二、三日、名古屋市にある東海道の宿駅「熱田」での作。
 芭蕉は、胸部・腹部に起こる激痛、いわゆる「さしこみ」が持病で、このときもそれが起こったものと思われる。
 「霜の枕」は、霜の夜の寒さが身に沁みわたる旅寝の意。
 前書きにある「起倒子」は、熱田の医師。「子」は、人名に添えて、親しみや、敬称をあらわす。
 季語は、「霜」で冬。

    「ただでさえ霜夜の寒さが身に沁みわたるころであるが、病に臥してこうして
     薬を飲む身になってみると、旅中病臥の寂寥(せきりょう)が、寒さと共に
     いっそう深く身に感じられる」


      霜の夜の宴席にゐてふとひとり     季 己