壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

煤に染まらぬ

2009年12月14日 22時50分04秒 | Weblog
        これや世の煤に染まらぬ古合子     芭 蕉

 『俳諧勧進牒』(元禄四年刊・路通編)に、「筑紫のかたにまかりしころ、頭陀に入れし五器一具、難波津の旅亭に捨てしを破らず、七年(ななとせ)の後、湖上の粟津迄送りければ、是をさへ過ぎしかたをおもひ出だして哀れなりしままに、翁へこの事物語し侍りければ」と、路通の前書きを付して掲出。

 これによれば、路通の物語によって作句したもので、「古合子(ふるがふす)の銘」とでもいったような詠みぶりになっている。
 七年ぶりに持主のもとに戻った古合子をたたえて、誠意ある難波の旅亭の主の心根を賞しており、路通とともに喜ぶ気持ちがよく調子に生かされた発想となった。

 「合子」は、身と蓋とから成る小さい容器で、蓋のある漆塗りの椀の類をいう。ガウスあるいはガフシとも称する。『枕草子』に、「殿上のがふし」とある。
 「五器」は「御器」に同じく、食物を盛る蓋付きの椀、すなわち合子をいう。
 「一具」は、ひとそろい。

 煤掃(すすはき)にかかわる句で冬。煤掃は、もと十二月十三日に行なわれる慣習があった。この句では、「煤に染む」で煤掃に関する季語としたものであろう。

    「聞けば、七年前に預けておいた五器一具が、わざわざ送り届けられたそう
     だが、その五器は、これぞまことに世塵に汚染していない風雅の世界の
     古合子というべきであろう」


      お不動の裏より声や煤払ひ     季 己