壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

かいつぶり

2009年12月04日 22時49分49秒 | Weblog
        隠れけり師走の海のかいつぶり     芭 蕉

 「師走の海」を歳暮の世の海とし、「隠れけり」を掛乞(かけごい)などから人が隠れることとるのは、理に堕ちた解でおもしろくない。世事の繁忙を厭うて世外に逃れている身を、「かいつぶり」の上に投影したとする解も、あらわにすぎるであろう。
 「師走の海」というのは単に師走の時期の海(湖)ととるべきではなく、海にも師走を感じとっていると解すべきである。そこに「かいつぶり」のふるまいが俳諧として生かされたことになる。「かいつぶり」のふるまいにおのずと自己観照の心境がにじみ出てきたというふうに理解したい。
 「隠れけり」という唐突な発想が、みごとに生かされている。

 「かいつぶり」は、かいつむり・にほ・にほどりともいい、カイツブリ科の水鳥。全国の湖沼や川のよどんだところに見られる暗褐色の鳥。鳩ぐらいの大きさで、体は丸い。脚は後方に付き、翼は退化、尾もほとんどないので、陸上の歩行はつたなく、長距離の飛翔も苦手である。
 ほとんど水の上に棲み、水上の走行や潜水を得意とする。反り返るようにして弾みをつけて潜るので、2メートル近く潜れる。縄張り争いのため水面で追いつ追われつのはげしい争いをよくする。留鳥であるが、水鳥の一つとして、俳句では冬の季語とされている。なお、琵琶湖はその古名を「にほのうみ」といった。
 季語は「師走」で冬。「かいつぶり」も冬であるが、この句では「師走」が季語としてはたらいていると思う。

    「広い琵琶湖の上を見渡していると、水面にかいつぶりが水に潜ってふと
     隠れてしまった。寒々とした湖面でのかいつぶりのそのせわしげな動き
     が、いかにも師走らしい海(湖)を感じさせることだ」


      堂暮るる冷えをひろげてにほの波     季 己