我が家の梅花空木(ばいかうつぎ)が咲き出した。今、二階の窓から確かめたが、夜目にもはっきりと真っ白い花が五輪……。
梅恋ひて卯の花拝む涙かな 芭 蕉
「梅恋ひて卯の花拝む涙」って、どんな涙?
思わず、そう言いたくなるような句である。この句、このままでは解しがたい。それもそのはず、実はこの句には次のような前書きがあるのだ。
「円覚寺の大顛(だいてん)和尚、今年睦月の初め遷化したまふよし。
まことや夢の心地せらるるに、先づ其角が許へ申し遣はしける」
この前書きを置いてみると、芭蕉の技巧的な面が、おどろくほど浮かび出てくるのを感じる。
「大顛和尚」は、鎌倉五山の一つ臨済宗大本山円覚寺の第百六十三世である。名は梵千、芭蕉の弟子である其角の禅の師で、俳諧もよくした。
「遷化」は、高僧の死をいう言葉。
「卯の花拝む」とは、訃を聞いたのは卯の花の咲くころであり、和尚のおもかげをしのぶよすがに、眼前の卯の花を拝んで追懐したということだろう。
「卯の花」は、「空木の花(うつぎのはな)」ともいい、初夏のころ、五枚の白い花弁をもった雅趣ゆたかな花が、雪のようにたくさんかたまって咲くさまは、清楚な感じがする。
むかし小学唱歌であった『夏は来ぬ』に、
卯の花の匂う垣根に ほととぎす早も来鳴きて 忍び音もらす夏は来ぬ
とあるように、卯の花は、日本の初夏を代表するユキノシタ科の落葉低木である。垣根や畑の境界などに植えられる。
卯の花はまた、梅雨時の花であり、その時期に降る雨を「卯の花腐(くた)し」ともいう。
茎を切ると中が空(うつ)ろになっているので空木、あるいは、陰暦の四月に当たる卯月に咲くので、卯の花と呼ばれるという説もある。
卯の花は、稲作との結びつきが強い。卯の花が長く咲いている年は豊作で、花が少ないか、長雨で早く朽ちてしまう年は凶作と、占うこともあったようである。
箱根空木の花はとくに美しく、白から紅を経て紫と変化しながら、むらがり咲く。紅い紅空木(べにうつぎ)、黄色のうこん空木、谷空木、梅花空木など種類が多い。芭蕉の見た卯の花は、梅花空木だったかも知れない。
「円覚寺・大顛和尚の遷化を旅の途中で聞いたが、今はもう遷化された
梅の季節はとうに過ぎて、卯の花の咲くころとなってしまっている。
和尚が愛し、和尚の高徳に比すべき梅、そして遷化のころ盛りであっ
た梅をしのびながら、今、眼のあたりの、白梅にもまがうばかりの卯
の花を拝んで、追懐の涙をとどめえぬものがある」
卯の花の夜を徘徊の下駄の音 季 己
梅恋ひて卯の花拝む涙かな 芭 蕉
「梅恋ひて卯の花拝む涙」って、どんな涙?
思わず、そう言いたくなるような句である。この句、このままでは解しがたい。それもそのはず、実はこの句には次のような前書きがあるのだ。
「円覚寺の大顛(だいてん)和尚、今年睦月の初め遷化したまふよし。
まことや夢の心地せらるるに、先づ其角が許へ申し遣はしける」
この前書きを置いてみると、芭蕉の技巧的な面が、おどろくほど浮かび出てくるのを感じる。
「大顛和尚」は、鎌倉五山の一つ臨済宗大本山円覚寺の第百六十三世である。名は梵千、芭蕉の弟子である其角の禅の師で、俳諧もよくした。
「遷化」は、高僧の死をいう言葉。
「卯の花拝む」とは、訃を聞いたのは卯の花の咲くころであり、和尚のおもかげをしのぶよすがに、眼前の卯の花を拝んで追懐したということだろう。
「卯の花」は、「空木の花(うつぎのはな)」ともいい、初夏のころ、五枚の白い花弁をもった雅趣ゆたかな花が、雪のようにたくさんかたまって咲くさまは、清楚な感じがする。
むかし小学唱歌であった『夏は来ぬ』に、
卯の花の匂う垣根に ほととぎす早も来鳴きて 忍び音もらす夏は来ぬ
とあるように、卯の花は、日本の初夏を代表するユキノシタ科の落葉低木である。垣根や畑の境界などに植えられる。
卯の花はまた、梅雨時の花であり、その時期に降る雨を「卯の花腐(くた)し」ともいう。
茎を切ると中が空(うつ)ろになっているので空木、あるいは、陰暦の四月に当たる卯月に咲くので、卯の花と呼ばれるという説もある。
卯の花は、稲作との結びつきが強い。卯の花が長く咲いている年は豊作で、花が少ないか、長雨で早く朽ちてしまう年は凶作と、占うこともあったようである。
箱根空木の花はとくに美しく、白から紅を経て紫と変化しながら、むらがり咲く。紅い紅空木(べにうつぎ)、黄色のうこん空木、谷空木、梅花空木など種類が多い。芭蕉の見た卯の花は、梅花空木だったかも知れない。
「円覚寺・大顛和尚の遷化を旅の途中で聞いたが、今はもう遷化された
梅の季節はとうに過ぎて、卯の花の咲くころとなってしまっている。
和尚が愛し、和尚の高徳に比すべき梅、そして遷化のころ盛りであっ
た梅をしのびながら、今、眼のあたりの、白梅にもまがうばかりの卯
の花を拝んで、追懐の涙をとどめえぬものがある」
卯の花の夜を徘徊の下駄の音 季 己